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【ボイス:2015年7月8日】菊池大介選手 [4]

苦しい時に頑張れるのが ベルマーレの背番号「10」

 Jリーグが今季新しく導入したトラッキングシステムによって、チームや個人ごとに走行距離やスプリントの回数などのデータが公開されている。走力をベースにした湘南スタイルで戦うベルマーレは、走行距離とスプリントの回数の平均で、ともに1位を獲得している。とはいえ、この数字もくせ者だ。むしろチームでは、反省材料に利用されている。

「チームでもよく話をされるんですけど、走ってるけど全部が良い走りではなくて。よくない奪われ方をして、長い距離を走って帰らなきゃいけないのも走行距離になる。そういうプレーをなくして、前向きな走行距離を増やしていかないといけないし、スプリントも同じ。一番走っているという記録は、チームとして自信ではありますけど、その走りを無駄にしないというか、プラスにできないと意味がない。前向きな方を増やせれば、もっとパワーがでると思う。やっぱり、無駄があって負ける試合もあると思うし、勝ってる試合でも無駄がなければもう1つ、2つチャンスもできると思う。前でパワーを出しやすい環境になると思うから、そこはチームとしてこれから取り組んでいかないといけないところ。課題でもあると思います」

 走力を武器とするチームのなかで、個人的にも走ることにこだわっている。

「僕は今,チームのなかで自分がやるべきことを特化してやりたいと思っています。チームが苦しい時にがんばったり、取られたボールを相手から取り返したり、自分がボールを取られたら素早く切り替えて奪い返しにいったりというところ。守備をすることもそうだし、きつい時間帯に走るのもそうだし、チームのために1つ粘り強く相手に向かっていくこともそう。自分のやるべきことは、攻撃や得点も含めて全部かもしれないけど、それよりもそういうところを自分はすごく大事にしています。
 例えば、そこを外して点が取れても自分は納得がいかない。得点は、考えすぎないで努力していれば、良いパスも来ると思うし、自然に取らせてもらえるものだと思う。だから僕は、自分のやるべきことを大事にして、プレーしたいなっていうふうに思います」

 菊池選手の言葉から、ふと思い出したのが菊池選手が背番号「10」を背負った年に、当時、強化部長を務めていた大倉智現・代表取締役社長が菊池選手に背番号10を与えた理由だ。「2010年にJ1で感じた『ボールを蹴って守ってるだけでは通用しない、自分たちでボールを運ぶチームを作らなければJ1では生き残れない』ということから『結果と育成』を求めて若い選手をJ1仕様に育てようとなった時に、コバショウ(古林将太)や大介、航(遠藤)に若い背番号をつけて、彼らとともに成長しようと考えた。それで必然的に、技術に関係なく本当にアグレッシブに頑張れて走れる選手を10番に据えようと。大介に10番は少々重いけど、あいつにはすごく期待している」といった言葉が思い出される。それは、曺監督が初めて指揮を執ったシーズンであり、アカデミー出身の選手を中心に若手主体のチーム編成に見直された年でもある。
 また、10番を背負った当初は菊池選手自身も前年で退団したアジエル選手から引き継いだ番号ということもあって、こだわりを持っていた。が、

「一昨年くらいは、自分らしい10番を確立したいと思っていたけど、今は全然、特別に意識することはなくなりました。責任感はもちろん持っているけど、背番号に対するものじゃなくて、ひとりの選手としてピッチに立っている責任感でやっているから、背番号は意識しない。自分は本来の10番らしい選手、中盤でいなして、テクニックで魅了するっていうタイプではないから。
 でもサポーターに『大介が10番じゃイヤだな』『大介は10番じゃないな』って言われるのはイヤだから、プレーで示していかないと、とは思っています。本来の10番らしい選手じゃないんで、テクニックでサポーターを『わーっ』って言わせるんじゃなくて、走力だったり、キツいとこで走ったり、頑張っていることで『わーっ』って言ってもらいたいというのが自分のなかにある。それはブレずにやっていきたい」

 番号にこだわることがなくなってむしろ、菊池選手らしい10番像が確立できてきたようだ。それは10番を託したクラブの思いとも重なる。走力にこだわって終盤までアグレッシブにプレーする、その心意気がまさに「湘南スタイル」を体現する10番のあるべき姿だろう。

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取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行