ボイス

【ボイス:2020年12月29日】岡本拓也選手

あらためて自覚した
勝つことの意味

 チームをまとめることに苦労したなかで、自分自身のリーダーシップのほかに大きな力を持つものがあることも感じた。

「結果ですね。結果が出ることによってすべてうまくいくんだなっていうのを改めて実感しました。」

浮嶋監督は、トップチームの湘南スタイルを共に作り上げてきた存在。新しい進化の方向性を示しても、原点は変わらない。それでもピッチで表現するための変化は大きく、選手は戸惑うことが多かった。

「まずフォーメーションが変わったところもそうですし、今までは常にプレッシング、常に縦というサッカーでしたけど、守備のときもセットするところだったり、攻撃では縦ばかりではないっていうのが新しい要素として入ってきたので、その使い分けが難しかったんじゃないかと思います。元からいるメンバーも新しいことに順応しなくちゃいけないから、僕たちも探り探り。ということがあったので、少しバラバラになりやすかったんじゃないかなとは思います」

リーグ戦再開後の序盤は、新しいことに目が向きすぎて原点を置き去りにしたような戦いぶりが散見された。その状態で結果が出るはずもなく、リーグ戦を2/3消化するまでに6連敗を2度経験することとなった。そして、“勝てない”ことは、選手たちの心にネガティブな思いを目覚めさせ、悪い循環を作り出した。

「すごい疑心暗鬼になったし、自信をなくしたし、自分のミスで負ける試合も多かった。試合が怖くなったのは初めての経験でした。ボールがあんまり来てほしくないなって思う時期もあったし、試合前に眠れなくなる時もありました」

気持ちはジェットコースター並みに揺れ動いたようだが、「それが今の自分だと受け入れて、続けていくしかないんだなって思いました」と、揺れ続ける心に振り回されなかったのが岡本選手らしさかもしれない。耐えに耐えたなかでホームで迎えた柏レイソル戦(10月18日開催第23節)で会心の勝利を掴んだ。

「ひとつの勝ちで救われた気がしますけど、どうしてあの試合を勝てたかは正直わからない。本当に続けるしかないってことですね。自分を信じて、ブレずにやり続けるしかないんだなっていうのは思いますね」

長い長い長いトンネルを抜けた試合で、岡本選手は泣き笑いの顔で勝利を喜んだ。何より、自ら先制点を奪い、逆転されたのちの同点弾に絡み、最後に勝ち越し点をアシストする活躍を見せた。

プロである以上、どの試合も勝ちたいのは当然。モチベーションに差はないはずだ。だが、この試合に臨む岡本選手は、いつも以上のモチベーションを持っていたように見えた。

「そうですね、あの試合はちょっと気合が入っていたというか…。悔しかったんですよね、それまでベルマーレらしく戦えなかったり、自分らしく戦えてなかったのが。それを移籍して行った選手にも『どうしたの、湘南?」って心配されて。それは今在籍している自分としても申し訳なくて、悔しくて。本当にしっかりやらなきゃいけないなっていうのは思いました。そういうのがあったからこそ、ああいうゲームができたんじゃないかなとは思います」

移籍した選手たちと試合で対戦したときに心配する言葉をかけられた。感じたのは、今ここにいる責任。いろんな思いを背負って臨んだ柏戦では、自分のプレーで勝利を引き寄せた。

「どんなにいいサッカーをしてても結果が出ないとチームとしても個人としても疑心暗鬼になってしまう。やっぱり結果、勝つことによって自分たちを信じられるというか。一つ勝つことによって自信を持ってプレーできるようになるっていうのは本当に今年は改めて思いました」

信じ続けたから結果が出たのか、結果が出たから信じ続けられたのか? そこについて岡本選手は「答えはない気がする」と言う。ただ、柏戦後の涙には、信じ続けてきたからこその思いがあふれていた。間違いなく言えるのは、今シーズンの経験を通して、岡本選手がまた一つ、タフになったということだ。

>もっとできる、もっと良くなる手応えを掴んだシーズン