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【ボイス:2015年5月1日】曺貴裁監督 [2]

勝つためのスタイルとして走る、その質を高めることを目指して。

 曺監督にとって今シーズンは、監督として臨む2度目のJ1のステージだ。強くなりたいと願い続けた昨年を経て臨むシーズン、そこにはどんな思いがあるだろうか?

「先シーズン、選手は本当にJ1に戻ってもう1回やるんだという気持ちが強かったと思うんです。勝っても必要以上に喜ばなかったし、抜けることもなかった。僕も同じで、このチームのこのやり方を大事にしたスタイルで、それこそJ1に住もうというところを目標にしていた。だから『上がれた、チャンスだからこのスタイルを試したい』というあっけらかんとした感覚じゃなくて、住みに行くんだからもっともっと地固めしてしっかり準備をして、何があっても崩れない家にしていかなきゃいけないという思いだけで今季に臨んでいる」

 今度こそ、J1に住む。そのために準備を整えてきた。ところが、

「J1で足りないところを痛感して昨年を過ごしたので、僕の中では良い内容で良い結果を出すという気持ちがすごく強い。ただ、『良い内容で、良い試合をして勝つことを目指そう』という、その思いは今でも強いんですけど、それを言い過ぎちゃうと選手は等身大以上の気持ちで、等身大以上の感じでプレーをしてしまう。っていうのは良くないなと思ったんですよ、開幕戦が終わった時に。
 俺、もともと大前提として、普通にサッカーを楽しんでやってもらいたいなっていうがあるんだけど、要は証明するぞという言葉とか、自分たちのできることを見せようぜっていう言葉であおり過ぎちゃうことも良くなくて。だから本当に普通にやれるように持っていくのが、今やるべき僕の監督としての課題ともいえる。力が入っちゃってそういうふうに言ってしまうときがあるんだけど、それは今の彼らには必要ないなと。選手はみんなわかっているし」

 開幕戦は、監督の言葉を真っすぐに受けとった選手たちは、その言葉に敏感に反応し、必要以上に肩に力が入ってしまう結果になったと曺監督は言う。

「完全に言い過ぎちゃったと思います。俺はキャンプの時から開幕戦のことしか考えてなかったし、この試合に懸ける気持ちをすごく持ってやってきた。それは事実なんだけど、でも、何も示唆しなくても選手は勝手に戦うモードになったんだろうなと思ったときに、わずかなガソリンで走れたのに何倍ものガソリンを使ってたっていうか。ブンブン空ぶかしさせちゃったっていう反省はありました」

 曺監督の導きに対する選手たちの反応は、あまりにも素直だ。

「うちの選手、すごい反応しますよ。だから自分の力足らずが5倍くらいで返ってきます。自分への憤りも感じるし、それは良いんですけど。それくらいピュアな選手が多いんですよ」

 リーグ戦8試合、ナビスコカップの予選リーグ3試合、計11試合の公式戦を戦ってきたなかでいくつかターニングポイントと言える試合があったが、第2節の鹿島アントラーズ戦の勝利は今季最初のそれだろう。開幕戦での戦いぶりや反応を踏まえての戦いだった。

「鹿島戦に臨むにあたっては、最初から自分たちがボールを持ったときにやるべきこととか、ないときにやるべきことを整理して、その週は球際とか1対1の位置も改めて確認したし、そういう目に見えないものを大事にしてきたから勝ち点3が取れた試合だったと思います」

 J1の印象は予想通りだという。

「あたりまえだけど、すべてのプレーのレベルが高い。予想通りだからびっくりはしてない。予想通りで、やれない感じでもないし、予想通りだからすごいやれるぞって感じもしないし。これからも淡々と準備をして自信を持って臨むってスタンスをさらに続けようと思っているだけです」

 ここまでの戦いぶりを観れば、昨シーズン、ひたすらJ1を見据えてレベル高く、気持ちを切らさず戦い続けてきた成果が表れているであろうことが感じられる。どうにもこうにも歯が立たないという試合は今のところひとつもない。互角に戦う時間帯も長ければ、勝機も見え、どの試合も希望を持ちながら観ていられる。
 そういった試合運びのなかで特に気になる課題がある。それは、前を向いた瞬間のパスの精度だ。相手から奪ったボールを前につけるパスがことごとく通らない、そんな時が多々見受けられる。が、

「それは、守備にかかるエネルギーが今までの3割増くらいあってというなかで攻撃の余裕が少しなくなってきている感じですけど、それはたぶん慣れだと思います。レベルの高いところに行ったら当然攻撃よりも守備に回る時間が長くなるのは当たり前で、でも慣れっていうのがあるから。要はJ1で試合をするっていうのはその慣れを自分でいかに早く感じるか、いかに慣れさせるかが大事。1試合1試合、この相手はこうだからという理屈じゃなくて、体感させないといけない。でも、球際とかスピード感とか運動量は絶対に負けてない。だから、その攻撃に対したときのアイデアとか全体の関わり方とかは変えないといけないけど、それは慣れで解消できる部分がたくさんある。今、そういう状況だからといって、それがネガティブな材料かというと、そんなふうには思わない」

 試合を重ねる経験がそのまま成長に繋がることは、対戦相手の若手選手が自らの成長で証明している。そんなシーンを観ながら曺監督は、J1に継続して居ることの大切さを噛み締めている。

「アントラーズの柴崎(岳選手)とか土居聖真(選手)とか、2年前に対戦したときよりも遥かに成長してますよ。遠藤(康選手)もですね。すごく良い選手になっているっていうのは、J1のレベルに揉まれて、ここにボールを置いたらとられる、ここで相手にアプローチしなかったらやられる、っていういことを体感してきた。若い彼らがすごく伸びているのを観て、やっぱりJ1って良いなって思いましたよ。試合に勝った負けたより、実際に選手がうまくなってる、それをすごく感じています。
 それに、うちが走るので彼らも走らざるを得ない。攻守のせめぎ合いが増えるから、相手も他のJ1クラブと試合をするのとは違う感じになりますよね。攻撃の一歩目が多少うまくいかないのは、そんな現象の影響もあると思ってます」

 J2に比べて3割増の力を出しての対応が必要なうえに、実力のあるチームがべルマーレの走りに触発されて、いつも以上に運動量を増やして挑んでくる。それでも、守備面では対応ができているが、そこから攻撃に転じるところでまだ力加減が掴みきれていない、今はそんな状況だ。

「攻撃を動かすテンポを変えれば、足が動く分、もっと攻撃に力をかけられるから3点目、4点目を取れるチャンスも出てくるかもしれないし。だから、明らかに無駄走りなるようなミスは、改善しなきゃいけない。『走行距離が増えたから』『俺ら守れたから』じゃないよな、と。そのミスがなければ攻撃に人数をかけられたり、エネルギーをかけたりできるのに、そのミスがあるから守備に回って、走行距離だけ伸びて時間が過ぎていくっていうのは、サッカー本来の、スポーツの本質から外れちゃうでしょうという話です。127kmを150kmに伸ばせって言ってるわけじゃなくて、127kmのままボールを持っているときにもっと走れるようになれば、さらに良いチームになるよねっていう話です。
 でもそれだけ走ってるアイツらはすごい。なかなかできないですよ。だって、(ボルシア・)ドルトムントだって119kmで、うちはFCケルンの走行距離とスプリントの数は変わらないですからね。だから選手に言ったんですよ。『でも、90分の真剣勝負をドルトムントとやったら、たぶん5~6点差をつけられちゃうと思う』と。『でも我々の方が走るんだよ。なぜなら、そこじゃないか』と。『その質の部分を相手がドルトムントだから、(バイエル・)レバークーゼンだからってあきらめないで、じゃあ今日少しでも追いつくようにトレーニングしようよ』と。『そこをしなかったらサッカー選手である意味がないよね』と。走行距離を伸ばすことが目的じゃなくて、勝つためのスタイルとして走る。具体的にはスプリントの数、総走行距離、でもそれは自分たちの攻撃とか、ボールを奪うことがゴールに繋がる、もしくは失点しなくなるってことに、一番還元していかなきゃいけないこと。そこは言いましたね、『俺はそういうところを目指したい』と。『今は全然追いついてないけど、そうじゃないとつまらないじゃないか』と」

 J1に住むことを目標にしながら、J1のその先まで見据えている曺監督。今日の練習は世界との差を縮めるための一歩だ。