SHODAN -湘談-
「兄弟のような、一心同体のような気持ち」
歴史をひもとくほどに浮かび上がる深いつながり
株式会社フジタ ×湘南ベルマーレ
2025.11.25
クラブを支えるパートナー企業との対談企画「SHODAN-湘談-」。今回のゲストは、今季より胸のユニフォームパートナーとなった株式会社フジタで管理本部長を務める前原克充さん。クラブの起源であり、親会社としてベルマーレ平塚を支えたフジタは1999年、経営難で撤退したが、2017年にユニフォーム袖のパートナーとなり、以来ふたたびクラブをサポートしている。一度離れた親会社がパートナーに復活するという、Jリーグでは前例のない足跡の背景には、離れても途切れることのない想いと絆がありました。 以下敬称略
――前原さんは1992年にフジタに入社されたそうですね。
前原 はい。先日ベルマーレさんの創部50周年記念誌を見ていてふと思ったんですけど、じつは会社に入って私が最初に常駐した現場は那須なんですよ。
坂本 ベルマーレの前身の藤和不動産サッカー部発祥の地ですね。
前原 そうなんです。当時フジタは那須にゴルフ場を建設していて、発注者は藤和那須リゾート、代表が黒木芳彦さん(藤和不動産サッカー部初代監督)でした。その後ベルマーレ平塚となり、中田英寿選手がペルージャに移籍した際には、私は財務にいました。
坂本 移籍の経緯を間近で見られていたんですね。
前原 はい。フジタの本社で記者会見を開いたことも覚えています。1999年にうちがベルマーレさんの親会社を撤退するときも財務にいて、金融機関との折衝に携わっていました。そんな経緯もあり、いろんなご縁を感じています。
坂本 クラブの歴史を前身からご存じなんですね。
前原 フジタが袖のパートナーとして復帰した2017年はメキシコに赴任していたんですね。その間は直接的な関わりはなかったですけど、日本に帰ってきて、またこうしてユニフォーム胸パートナーとなり、あらためてご縁を感じているところです。

――当時から試合もご覧になっていたのですか?
前原 はい。とくに覚えているのは入社した翌年の1993年、天皇杯で優勝したときのことですね。社員みんなで国立へ応援に行きました。試合後にはチームがフジタの本社に挨拶に来てくれて、祝勝会を行なった。ですから、ベルマーレさんは当時から身近な存在でした。
――ベルマーレの親会社を撤退した1999年前後のことはどのように記憶されていますか?
前原 90年代に入りバブルが崩壊しましたが、建設業は受注産業なので、ほかの業種よりも少し遅れて影響を受けるんですね。当時うちの会社は開発に強く、不動産を多く持っていましたが、不動産価格が下落し、不良債権を抱え、1997年ぐらいから徐々に会社の経営が厳しくなっていったと記憶しています。そうして金融機関から債務免除を受け、1999年にベルマーレさんの経営から撤退し、本社を売却したり、社長が交代したりした。会社として最もしんどいときだったように思います。私自身は当時30歳ぐらいでまだ若かったので、無我夢中で仕事をしていました。

――2000年代に入り、ベルマーレは長らくJ2を舞台に戦いました。フジタさんにとっても大変な時期でしたか?
前原 そうですね。90年代後半に経営が厳しくなり、ゴールドマン・サックスの傘下に入ったのが2005年、そして2013年に大和ハウスグループ入りしました。そのあたりまでは世の中の状況もあまりよくなかったですし、厳しい時代だったかなと思います。ただ、そんなときもベルマーレさんのことは気になっていましたし、社員もみんな気に留めていたと思います。
坂本 私は2000年に選手としてベルマーレに加入したんですけど、フジタさんがクラブに負債を残さず、(平塚市)大神のクラブハウスやグラウンドもこれまで同様に使えるようご配慮くださったと当時から聞いていました。実際、J2のクラブとは思えない良い練習環境で驚いたことを覚えています。
前原 私も一度会社の荷物を持って大神に行ったことがあります。クラブハウスがけっこうよかったみたいですね。
坂本 ものすごくよかったです。選手のロッカーはいまのクラブハウスより広かったですよ(笑)。
――そうした厳しい時代を経て、フジタさんは2017年にユニフォーム袖パートナーとして復帰されました。そのことについて、どのように受け止めていましたか?
前原 最初にベルマーレさんのパートナーに復帰するという話を聞いたのは広報からだったかな?(きっかけは)水谷さん(水谷尚人・湘南ベルマーレ前社長)が弊社にいらしたんですよね。
坂本 そう聞いています。
前原 その後はトントン拍子に進んでいったイメージですね。おそらく前年の2016年からそのような話が社内で持ち上がり、社員はみんな歓迎していた。ただ一方で、パートナーに戻ることは、ベルマーレさんにとっては迷惑なのではないかという懸念もありました。
――というと?
前原 うちは一度撤退しているので、ベルマーレさんを応援する皆さんの気持ちを考えると、もう一度戻るのは迷惑になるのではないかと。そういう意見があったことは語り継がれているところです。
坂本 でも試合の際に、「再びフジタと共に歩めることをうれしく思います」という横断幕がゴール裏に掲げられた通り、我々はもちろん、サポーターやファンの方々も歓迎してくれました。親会社からの撤退も、フジタさんが断腸の想いで決断され、クラブを離れてもベルマーレが存続できるようにご尽力をいただいたことを、ファン・サポーターも地域の方々もみんな知っている。だから戻ってきていただけたことを素直に歓迎してくれましたし、その姿を見て我々クラブのスタッフとしても非常にうれしく思いました。
前原 横断幕って手書きじゃないですか。そういうところもサッカーは感動的ですよね。
――18年ぶりにパートナーに復帰して、社内外でなにか変化はありますか?
前原 みんなで応援に行くこともありますし、スポーツ特有の一体感が社内的に醸成されている感覚はありますね。私自身はちょうど2017年にメキシコに赴任したので近くにはいなかったですけど、海外の社員のなかでも話題になりましたし、反響は大きかったです。
坂本 2017年はふたたびJ2を戦うシーズンだったので、フジタさんがパートナーに復帰してくださったことはすごく明るいニュースでした。これからに向けてみんなに勇気を与えていただきましたし、ほんとうにありがたかったです。

――そして今季はついにユニフォーム胸パートナーとなりました。
前原 いずれは、という想いは、奥村(洋治)社長をはじめ、社員一同抱いていたので、胸に入ったことはやはり感慨深いですよね。かつても企業名は入っていましたけど、Jリーグに昇格して以降はなかったわけですから。もちろんタイミングもありますが、胸が空くのであれば、うちが入るべきなんだろうなと思いました。
坂本 我々も社内で検討した際、全員一致でまずはフジタさんにお伺いを立てるべきだという話になりました。とにかく熱意をお伝えしようとアタックしたんです。

――フジタのロゴが胸に入ったユニフォームを実際に見て、どんなことを思いましたか?
前原 初めてサポーターの皆さんにお披露目したのは今年1月の新体制発表会でした。ユニフォームが紹介されたときに大きな歓声が上がり、メディアにもたくさん取り上げていただいて、反響の大きさを感じましたね。またパートナーをはじめ、クラブを支えている方々が集う2月のキックオフパーティーでは、ほかのパートナーの方に「フジタさん、ありがとうございます」と声をかけていただき、感動しました。
坂本 フジタさんが戻ってよかったという声は私たちにも届いています。
前原 サポーターやパートナーを含めて、ベルマーレさんはとてもアットホームな感じがしますよね。

――また去年から「グリーンオーシャンナイト Supported byフジタ」が2年連続で開催されています。特別協賛となった経緯を教えてください。
坂本 2023年に国立競技場でホームゲームを開催した際、ユニフォーム付きのチケットを販売したり、サポーターの皆さんとコレオグラフィをつくったりと、さまざまな演出でスタンドをライトグリーンに染めて試合を盛り上げることができました。その経験を踏まえ、クラブとしてはまずレモンガススタジアム平塚を満員にし、試合を観に来てくださった方に喜んでいただく企画をやりたいと考えた。そこでフジタさんのスペシャルデーに「グリーンオーシャンナイト」をご提案し、賛同いただいたという経緯です。そうして実施した去年8月の名古屋戦では、平塚でもこれだけの演出ができるのだとあらためて実感しましたし、自信を付けさせていただく1日になりました。

前原 感動的でしたよね。光の演出に、サポーターの皆さんにも盛り上がっていただきました。
坂本 素晴らしかったです。うちのスタッフもみんな動画を撮っていました。
前原 グリーンオーシャンナイトでは、「SHONANユニ」も来場者へ配布させていただきました。当日はもとより、別の試合にお伺いしたときも着てくださっている方がいて非常にうれしく思っています。とくに子どもが着ているとかわいいんですよね。うちの会社は子どもに建設業の魅力を伝える「築育」というイベントを行なっているんですけど、去年はスペシャルデーの前日に、厚木にある弊社の技術センターで社員の子ども向けに開催し、翌日はみんなで試合に伺いました。子どもたちは大喜びでしたし、今年のスペシャルデーも約500人の社員、関係者が観戦しました。

坂本 私も今年サポーターの方に「グリーンオーシャンナイト楽しみにしています」と声をかけていただいたことがありました。やはり去年のインパクトがあり、皆さん楽しみにしてくださっているんですよね。また、いまお話にあった「築育」にも通じているかと思いますが、フジタさんにはベルマーレのアカデミーもご支援いただいています。ユニフォームのパートナーの印象が皆さん強いかもしれないですけど、次世代の人材を育てることに対してもご理解いただいていることはたくさんの方に知っていただきたいですね。
――次節のホーム新潟戦で配布する「湘南CLIMAXフラッグ」を含め、クラブを手厚く支援されているフジタさんにとって、ベルマーレはどのような存在ですか?
前原 パートナーに復帰した際に奥村社長が話していましたが、たとえるなら兄弟のような、一心同体のような気持ちでいます。
――今後ベルマーレに期待することをお聞かせください。
前原 プロなので当然結果は大事だと思うんですよね。勝利はすべてを癒すと思うので、まずはみんなの喜びのために勝っていただきたいなと思います。また地域密着という点では、平塚をはじめ、湘南地域を盛り上げていってほしい。そのなかで弊社はパートナーとして資金面やイベントなど、できるかぎりのお手伝いをさせていただきたいなと思います。
坂本 覚悟を持って胸に入っていただいたシーズンになかなか勝利をお届けできていないことは大変申し訳なく思っています。前原さんのおっしゃる通り、プロスポーツなので、我々は結果を第一に目指していかなければいけない。そうあらためて肝に銘じているところです。一方で、先ほどもお話にあったように、たとえば次世代の人材をつくるところでご一緒したり、建設業をより多くの方に周知していただくためのハブになったり、我々には競技以外にも貢献できることがあると考えています。
前原 1試合1試合に一喜一憂するでしょうけど、ベルマーレさんはフジタにとって思い入れのあるチームですので、ずっと応援していきたいと思っています。それは社員みんなの想いなので、ぜひずっとずっと輝いた存在であり続けてほしいなと思います。
坂本 ありがとうございます。とても心強いです。今後ともよろしくお願いいたします。

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