Essayあなたとベルマーレ

命を支えた湘南スタイル

2018.08.30 杉山太一さん(平塚市)

娘のかれんが小学2年生の時に、初めてスタジアムに連れて行った時のこと。
入口で配布されているマッチデイプログラムの選手紹介の写真と、ピッチで躍動する目の前の選手を照らし合わせ、キラキラした目で観戦していたのを覚えています。
驚いたのは帰宅した際に、お風呂の中でベルマーレの全選手の名前と背番号を言い当てたことです。新規ベルサポの誕生の瞬間でした。

その日以来、スタジアムはもちろん、馬入にも足を運び、サインをもらったり写真を撮ってもらったりと、ベルマーレがかれんにとって、大きな存在になっていきました。

そんなかれんを2017年10月、突然病魔が襲います。
12歳にして、進行性の卵巣癌と診断されたのです。しかも日本でこの歳では症例がないと。夫婦揃って連日泣き続けました。運転中も、仕事中も。涙が尽きない事を知りました。
でも一番辛いのは本人なんです。娘を助けたい。かれんに勇気と希望を持ってもらいたい。そう思ったと同時に、ベルマーレがよぎりました。図々しくも自然と、遠藤さちえさんに電話をし、かれんの病状を伝えました。親身にお話を聞いて下さったさちえさんから後日、「島(島村選手)と陽太(秋元選手)が直接お見舞いに行きたいと言っていますけど、伺っても大丈夫ですか?」と。

抗がん剤を投薬する前日の夕方、島村選手、秋元選手が忙しい合間を縫って、入院先の小児病棟のラウンジに身を潜め、何も知らないかれんが、点滴片手に車椅子でラウンジに入ったと同時に、島さんと守護神が「来ちゃいました〜」と登場!

目が合ったかれん。「えっ???」の驚きの後のニヤニヤモジモジ(笑)
実はかれんのイチオシプレイヤーは島さんなんです!そして、最初に覚えたチャントが秋元選手だったんです!お二人が優しく話かけてくださり、かれんもご満悦の表情!
サイン入りユニフォームをいただいた後に、写真撮影まで。抱いていた病気への不安も和らいだようでした。
楽しい時間はあっという間。ベルマーレの皆さんが帰る時、名残惜しむかれんに島さんが拳を胸に当てて「かれん!!メンタル!!」と。この言葉はこの日から、かれんの座右の銘になるのです。そして、かれんが毎日つけている点滴セットは「陽太君」と命名したのです(笑)

治療で苦しくて辛い時、ホームシックになった時、「パパ!ママ!かれんがんばる!島さん!!メンタル!」そう言っては胸に拳を当て自分を鼓舞し、点滴をさすりながら「陽太君が守ってくれてる!」と、毎日ベルマーレと共に戦っていました。

そんなかれんの頑張りとは裏腹に、癌は急速に進行をしていきます。主治医から「あと1ヶ月生きられるかどうか。かれんちゃんのやりたい事をやらせてあげて下さい」という耳を疑う言葉が伝えられました。

下を向いている時間はない。楽しいこと、嬉しいこと、笑顔になることこそが、かれんの免疫力を上げて奇跡を起こすんだと。

クラブからは5月のジュビロ磐田戦に招待してもらいました。かれんの体調を考慮し、ガラス張りのお部屋での観戦を用意していただき、喜んでいたかれんでしたが、体力的に厳しくなり、前半でスタジアムを後にすることに。帰り際、KAREN の名前と選手全員のサインが入ったユニフォームをプレゼントしていただき喜んでいると「久しぶりっ!!」と島さんが登場!!
やつれて変わり果てたかれんを目にしても、前と変わらず接してくれて、久しぶりに2ショットで写真撮影!少し弱々しいピースでしたが、かれん、笑ってました。
スタジアムを出る頃、「ノダ!ノダ!リュウノスケ!!」と、ゴールを告げるチャントが、大歓声と共に聞こえて来ました。ちょうどスタジアムを出る時に野田選手がゴールを決めたのです。「良かった……」と、かれん。

自宅療養になって2週間目の夕方、さちえさんが「選手も気にしているのでかれんちゃんに会いに行きたいんですけど、自宅に伺ってもいいですか?」と連絡をくれました。
この頃、訪問看護士の方達の出入りが激しく、時間が読めなくてご迷惑をかけてしまうのでと伝えたら、「明日また連絡しますね!待つことは構いません。私たちは少しでも力になれたら」と。
しかし、この連絡の10分後に、かれんは亡くなりました。

お通夜当日の正午過ぎ、慣れ親しんだ自宅から葬儀場に、かれんを乗せた霊柩車は走り出します。
1つだけドライバーさんに寄り道のお願いをしました。最後に馬入の空気を吸わせてあげてほしいと。かれんとママが馬入練習場通りに差し掛かると、さちえさんが待っていてくれてたんです。車から降りたママを抱きしめてくれて、そこに練習前の秋元選手も来てくれて、かれんをしっかり見届けてくれました。

数時間後のお通夜、500人の弔問客の方々の列の中に、島村選手、秋元選手の姿が。
献花をした後、島村選手と秋元選手は肩を揺らしながら泣いてくれていました。
そして、秋元選手から「曺さんからです」とボールを渡されました。
実は、曺貴裁監督もお通夜に来てくれていたんです。スケジュールの都合でボールにメッセージを綴って会場を出られたとのことでした。そこに書かれていたのは「ベルマーレは、かれんちゃんと、いつまでも一緒です」という言葉でした。

かれんは人一倍、恩を感じる娘です。
いただいたボールとユニフォームを着て、天国からベルマーレを見守っていると思います。ベルマーレがピンチを切り抜けた時の1回くらいは、かれんの仕業かもしれないですね(笑)
13歳と24日を一生懸命生きました。

この場を借りまして、かれんに慈愛をもって接していただいた、湘南ベルマーレの皆様、本当にありがとうございました。これからもかれん共々、応援し続けます!!
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