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【ボイス:9月24日】臼井幸平選手の声


反町監督3年目のシーズンは、再び1年でのJ1昇格を狙う年となった。2度目の昇格争いは、一筋縄ではいかないようで、夏の間は足踏み状態となってしまった。
今年は、新しく入った選手が多く、チーム作りという部分の比重が高い。そういうシーズンに昇格まで望むのは、欲張り過ぎかもしれないが、クラブの目標はJ1定着。であれば、挑戦しないわけにはいかない。
苦しいこの時期に存在感を増してきたのがベテラン選手たち。今回は、ユース出身で下部組織への思いも熱い、臼井幸平選手に注目した。

チームを引っぱるのは自分
その責任感が呼んだゴールと勝利

 スイッチが入ったように、臼井選手の得点から流れが変わった。それは、9月11日にアウェイで行なわれたカターレ富山戦。前半2失点を喫した試合の後半9分に決めたヘディングシュート。あの得点は、試合の流れだけではなく、チームの戦う姿勢も変えた。
 今シーズンのベルマーレを振り返ると、リーグ戦の1/3を消化した頃から調子を崩し、そのまま5連敗。浮上のきっかけにできそうな勝利を2度手にしたが、それでも立ち直ることができず、再び5試合勝利から遠ざかっていた。富山戦の前節、9月4日に行なわれたロアッソ熊本戦では、ロスタイムに失点し、同点に持ち込まれるという失態も演じている。
 富山戦はまさに、運にも見放されたような無力感に抵抗することなく残りのシーズンを過ごすのか、最後に手にする結果はどうあれ、昇格争いの過中に取って返して戦うのか、チームの姿勢を問われた試合だった。
 その問いに勝利で答える姿勢を形にしてみせたのが臼井選手のゴール。さらに加えると、今季、継続こそが難しいことをたたき込まれた選手たちがもっとも緊張したのが、9月18日ホームに戻って迎えた水戸ホーリーホック戦。この試合でも、臼井選手の積極的な姿勢が際だった。

「自分がチームを引っぱるつもりで試合に臨んだ。バランスを取って守備から入ろうとか思わずに、ホームだし、点を取りにいかなければと思っていた」

 水戸戦は、富山戦で得た感覚や気持ちを次に繋げたいという選手全員の思いがプレーに表れた。最後の2失点は、いただけないが、それについて臼井選手は、

「最後に勝ったことを含めて、サッカーの怖さを感じた。2失点した時は、2009年の福岡戦を思い出して、本気で怖いと思ったし、最後は、やられたかと思った。だからこの試合は、本当に勝ったことが大事。次に繋がる」 と語っている。

 運にも見放されたような展開の試合を何度も経験してきた今季。この結果は、むしろツイていると言える勝ち方かもしれない。チームを引っぱる気持ちを最初にプレーで見せた臼井選手が、引き寄せた勝利と言えるだろう。
 ここに来て、吹っ切れたプレーを見せる臼井選手だが、今シーズンは、自分自身との戦いが続いていた。
 今季のベルマーレは、若い選手が増え、スターティングイレブンにはルーキーも名を連ねる。右サイドバックのポジションも、臼井選手がリーグ戦の再開当初に怪我をしたこともりあり、鎌田選手がチャンスをつかみ出場を果たした。
 ところが、怪我が治っても調子は上がらず、すっきりしないまま試合を戦う時期が続き、また、そんな状況を見逃してくれるほど、コーチングスタッフは、甘くはなかった。

「それを期に、自分も1回外されました」

 怪我と警告の累積以外で試合に出られなかった経験は、ここ数年なかった臼井選手。不動と言われた定位置を、鎌田選手に譲った。

「プレーがうまくいっていなくて、それは自分でもわかっていたんですけど、それでもどこかで『大丈夫』という過信があった。でも、今振り返ると、戦うべきところで戦っていなかった。例えば守備のとき、もうちょっと寄せられるのに、寄せが甘くて前を向かれてあっさりかわされるとか。自分が調子のいい時は、そんなことはさせなかったのに。攻撃の時も、もっと攻撃的にできるところで、いつものように行けていなかったような気がする。
 5連敗した時は、特にそうだったと思う」

 反町監督から与えられたカンフル剤は相当効いたようで、そこで目が覚めたという。

「外された理由を、ファイトできてない部分があったからかなというふうに考えられるようになってからは、そういうことをきちっとやらなければと思った。そこからはもう、練習から取り組み方を変えました。30歳を超えたし、翔雅も頑張っているけど、でも負けたくないという気持ちが強かった。負けず嫌いがそこで出た。
 試合自体も今までは、“運もないな”というような試合が多かったけど、むしろ運も引き寄せるくらい頑張らないといけないと思った。
 最近は、攻守ともに自分の仕事はきちんとできていると思うし、常にアグレッシブにいこうと思っている。点を取るチャンスはもっとあるし、シュートとクロスの精度はもっと上げていかなければいけないけど、そこまでの過程は良くなっている」

 気持ちをプレーで表現した結果、運も引き寄せて2連勝を勝ち取った。昇格争いに再び名乗りを上げる勝ち点6となったのは間違いない。

トップの選手を見て育つ幸せ
だからこそ、高いレベルにいたい

 再び、昇格をめざすことになった今季。J1という舞台への思いと、1年で降格となってしまったが、トップリーグで戦った経験を、あらためて振り返ってもらった。

「日本の一番上の舞台で活躍したいという思いは、ずっと変わらない。やっぱり代表選手はJ1から多く輩出されているわけだし。
 だけど、プロになった頃、ベルマーレはJ1にいて、ロペス(呂比須ワグナー氏:1997~1998年ベルマーレ平塚在籍)とかすごい選手がいた。その時はそれが当たり前に思っていたけど、その後ずっとJ2でもまれていたら、その『当たり前』が、だんだん遠くの存在になっていた。10年J2にいたら、J1が憧れに変わっていた部分があった。今は、それを『当たり前』に戻したいという思いが強いです」

 長い間目標としてきたトップリーグは、いつの間にか“憧れ”の舞台に変わっていた。それは、実際にその場に立ったからこそ、確かめられた自分の感情。その思いを見つめ直して、今、新しい目標がある。

「レベルの高い選手と戦って、このチームは、昔からある歴史の長いチームだから、その舞台にいるべきだと思った。そういう選手も揃っていると思う。早くJ1に上げて、もう1回そのリーグで戦って、定着させて、当たり前にするのが役目でもあるんだなと、思います」

 ベルマーレ平塚ユース出身として、歴史にこだわる理由もある。下部組織で育った臼井選手は、チームが精彩を放つ活躍ぶりを見せていた頃を実体験で知っている。それは、サイドバックとしての自分のルーツにも繋がる。

「僕の場合はもう、昔から見ていたナラさん(名良橋晃氏:1990~1996年フジタサッカークラブ/ベルマーレ平塚在籍)とか、テルさん(岩本輝雄氏:1991~1997年フジタサッカークラブ/ベルマーレ平塚在籍)とか、その後の公文さん(公文裕明氏:1992~1998年フジタサッカークラブ/ベルマーレ平塚在籍)、ゲンさん(岩元洋成氏:1993~1998年 フジタサッカークラブ/ベルマーレ平塚在籍)を見て育っているので、サイドバックは、ガンガン上がるものだという先入観が強い。『湘南の暴れん坊』ってよくいわれていたから、特にこのチームでプレーする限りは、攻撃的な部分を見失わないようにやっていきたい。
 この色は、消しちゃダメだなと思う。代々ベルマーレのサイドバックに受け継いでいってほしいと思うし、これからの選手は、そう思って入ってきてほしい。継承できるように、これからの選手の見本になりたいと、自分としては思っています」

 臼井選手にとってサイドバックのお手本は、攻撃を重視したスタイルの選手たち。だから当然、

「サイドバックは、上がってこそ。守備もしっかりしたうえで、ですけど、攻撃重視です(笑)」

 選手としてのスタイルにまで影響を与えるトップチームの選手たち。良い影響を与えてもらったと感謝があるからこそ、次代へ繋ぎたいという思いがわく。

「僕がユースの頃は、J1でやっていたわけだから、今のユースの選手もそういう環境にしてあげたい。ユースも大事に育ってきてほしいです」

 J1への思いは、自分のためだけではないのだ。

攻守に渡ってプレーの幅が広がったのは
このチームのおかげ

 32歳になって、サッカー選手で言えばベテランの域に入った。しかし、何歳まで成長するかは本人の努力と気持ち次第だというのは、このチームのベテラン選手を見ていれば分かる。臼井選手も、そのひとり、向上心は衰えない。

「ディフェンス面は、このチームでだいぶ強化できたなと思います。
 一昨年の最初にクロスの守備などを、かなり修正されました。そのおかげで、ディフェンスの基礎ができたんで。ソリさんはじめ、曺さんなどコーチ陣がいろいろ言ってくれる。数的不利の時の守り方とか、だいぶ頭に入ってきました」

 “守備をしたうえで”、の攻撃的なサイドバック。攻守のバランスが取れているからこそ、試合出場が重ねられる。
 また、チームの攻撃面での戦術が中央突破を中心としたスタイルから、サイドも使ってワイドに攻めるスタイルに変わり、得意なプレーがいっそう活かせるようになってきている。

「守備は、やっぱり後から積んだものが多い。おろそかだった部分もあったけど、きっちりできるようになりました。
 攻撃は、昔からフォワードをやっていたし、ある程度センスという部分もある。あと大切なのはタイミングだと思っています。今まではオーバーラップが多かったけど、去年、一昨年の段階でインナーラップをはじめ、これまでにあまりやっていなかったプレーをやるようになって、幅が広がった。中央もどんどん行けと言われるようになって、そういうプレーが増えて、実際にチャンスも作れていると思う」

 前線に上がる回数も意識して、増やしている。

「春頃に、曺さんから、『もっと行ける』と言われたことがあるんです。『もっと走れる、1試合通してあと2往復は行けた』って。それで前線に上がる回数を『もう2本増やそう、もう2本増やして、攻撃的に行け』って言われました。
 今は、調子もいいし動けているので増えていると思います」

 アドバイスをしっかり受けとめ、課題に臆することなくチャレンジする素直な気持ちもまた、可能性を広げる重要な要素。気持ちやフィジカルを維持しつつ、経験と知識が熟成されてきた、ベテラン選手の強みこそ、臼井選手の武器だろう。そんな臼井選手の、次代に期待する若手選手はというと、

「うちの若手で良いなと思う選手はたくさんいる。健人(福田)とか、勇武(松浦)とかも良いものを持ってるし。
 でも自分としてはやっぱりユース上がりの選手を推しますね。航(遠藤)は、代表に選ばれているだけあってしっかりしているし、翔雅も頑張っているから、良いライバルとして切磋琢磨していければいい。大介(菊池)は、特に1対1をやらせたら、すごいですから。僕としては香川真司選手(ドルトムント)みたいな存在に近いなと思うんですけどね。あれが常に出せるようになれば、最高ですね」

 若手評には、先輩として後輩を応援する気持ちが表れている。しかし、一瞬の隙を見逃さず、ポジションを奪った鎌田選手を“切磋琢磨するライバル”といった言葉には、ポジションに対する、本気の思いも見えた。すべての思いは、目標を達成するための力。
 このチームを、J1の舞台に定着させる目標のために、次の試合もサイドを駆ける。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行