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「第64回湘南ベルマーレクラブカンファレンス」レポート
「ベルマーレクラブカンファレンス」が8月2日、平塚市内で開催された。
クラブとサポーターの意見交換の場として2004年に始まり、年3回のペースで対話を重ねてきたクラブカンファレンス、64回目を数える今回は、眞壁潔取締役会長、坂本絋司代表取締役社長、大多和亮介代表取締役副社長、吉野智行スポーツダイレクター(SD)、湘南メディアスタジアムの佐藤倫明代表取締役社長が登壇した。
冒頭で坂本社長から、近年のクラブカンファレンスでは、その時間の多くがクラブからの一方的な説明に終始し、参加いただいた方からのご質問や双方のコミュニケーションが十分ではなかったことへの反省と、今回のクラブカンファレンスから改善を試みていきたい旨が話された。
具体的には、話をするテーマを分けて、そのテーマごとにクラブからの話の後、参加者の方からのご意見やご提案などをお受けする進め方にすること。また、一部の内容は聞く限りにして頂きたい一方で、クラブに関する様々な情報が、より世の中に拡がって行くことが望ましいということ。
議事録のように一言一句を全て公開することはできないが、クラブカンファレンスに参加されなかった方にもレポート形式で後日共有してくこと。そして、クラブカンファレンスの回数を年間3回から2回に減らし、その代わりにより少人数で対象テーマに関して深く議論できるようなワークショップの場をつくっていくこと、の説明がされた。
その上で、今回のテーマは4つ。
「経営について」「より良い観戦体験へ」「新スタジアムについて」「強化について」、順に進行していった。
経営について
まず2024年度の決算状況について、過去最高の2018年度に次ぐ売り上げを記録する一方、2017年度以来となる当期純損失での赤字着地となったことが坂本社長より報告された。
要点は、営業収入がJ1のなかで最下位だった点だろう。J1クラブの営業収入平均58億円に対し、ベルマーレのそれは約28億円にとどまった。もちろん、ひとケタの予算規模で戦っていた2000年代を思えば、地道な経営努力と着実な成長が認められる。だが周囲も成長するなかで、リーグ平均と約30億の差が生じている事実を踏まえ、「新たな手を打っていかなければいけない」と坂本社長は言う。
「2026-2027シーズンには30億を突破し、その後も成長曲線を描きたい。急成長するための鍵はスタジアムだと考えていますが、まずは自力ででき得る施策を遂行したい」
坂本社長の話を受け、大多和副社長から、2030年に35億円の予算規模を目指す中期経営計画「ターゲット35」の展望と、ファンエンゲージメントの強化やクラブのサステナビリティ戦略「Bell-Being」のロードマップが示された。また現在約500を数えるサポートコーポレーションを含め、足元を強めていく重要性に言及し、「サポーターの皆さんと一緒にクラブを大きくしていきたい」と抱負を語った。
参加者からは、人件費が膨らんでいることについて質問が上がった。これに対し、全体的に選手の平均年俸が上がっている近年のJリーグの傾向や、年俸と違約金設定の難しさなどが坂本社長や眞壁会長から明かされた。
よりよい観戦体験へ
続いて、秋春制への移行に伴い、ハーフシーズンとなる2026年の開幕から、ホームとアウェイのサポーター席の入れ替えを検討していることが発表された。入れ替えのメリットはおもに2つ。ホームサポーター席が南寄りになることで、平塚駅をはじめ、キングベルパークやフードパーク、フラッグシップストアからのアクセスが向上する。大型ビジョンは移設できないが、ビジョンを活用した演出により、ゴール裏とメインスタンド、バックスタンドの、よりいっそうの一体化も期待できるという。
一方、参加者からは、「5ゲートから見た風景やビジョンの見え方を体験したい」「レモンガススタジアム平塚は南風が多く、7ゲート付近ではホームの応援がアウェイのチャントにかき消されてしまう」といった意見も上がった。南北を入れ替えた際に、座席が非対称のエリアが一部あるという課題もあり、クラブは今後ワークショップを開催し、サポーターとのディスカッションの場を持って議論を深めていくとしている。
※ワークショップの詳細はこちら
新スタジアムについて
坂本社長が経営の急成長の鍵に挙げた新スタジアムについて、湘南メディアスタジアムの佐藤社長から、ピースウイング広島を例に取りつつ、進捗状況が伝えられた。
スタジアムの建設計画は、用地の選定と建設事業の財源の確保、運用開始後の収益性の担保がクリアされて動き出すとされるが、神奈川県は5つのJクラブがひしめいていることもあり、用地の選定をはじめ、ハードルは高い。
一方、それに付随して紹介されたのが、ユースの練習拠点として現在建設中の「秦野スポーツヴィレッジ」だ。「いかに多くの選手を成長させるかがクラブとしてのいちばんの命題」と眞壁会長が語ったように、欧州ではユースでもスタンダードとなっている自然芝を備えるなど、充実の設備を整えている。
また、建設のもうひとつの理由が、2019年に見舞われた豪雨にある。くだんの天災により、馬入の練習グラウンドの片面が激甚指定を受け、トップチームは残留争いの渦中で練習場を転々とする日々を強いられた。その教訓を踏まえ、いざというときにトップチームの臨時の拠点になるという。
加えて、遠藤航や町野修斗、小杉啓太らベルマーレから海外に羽ばたいた選手たちの協力を得て、「秦野スポーツヴィレッジ」は育成の拠点としてだけでなく、クラブOBのメモリアルのグラウンドの役割も併せ持つようだ。
新スタジアムの完成時期の見込みを参加者から問われると、坂本社長は「この10年かけた時間は無駄ではない。必ずつくります」と力強く答えた。
強化について
最後のテーマ「強化について」、吉野SDから現状分析とポイントとなった試合、結果が出ないときのチームの傾向などが示された。
「キワの試合」として吉野SDが挙げたのは、第10節アウェイ京都戦、第13節ホーム福岡戦、第17節横浜FC戦と第18節新潟戦だった。いずれも勝利を収めた次の試合で、敗北、あるいは引き分けている。
また、とりわけ気になる傾向として、勝てなくなったときのパスの方向を指摘した。好調時は前を選択するプレーが多いが、結果が出なくなると、第7節アウェイ清水戦のように左右へのパスが増えるという。そうした事実を踏まえ、「勇気を持ってやっていくメンタリティが必要」と語る。
さらに昨季と異なる点として、攻撃の圧をかけられていないことを挙げた。リーグ7位の53得点を記録した昨季は、中央攻撃が初めてサイド攻撃を上回ったが、今季は少なく、とりわけワンタッチパス数はリーグ最少だという。第20節ホーム町田戦の得点シーンが証明するように、ワンタッチパスはゴールが生まれやすいため、受け手と出し手の共有や連動をより深めたいところだろう。加えて、リーグで3番目に多い自陣でのファウルを含め、セットプレーも攻守において課題に違いない。攻撃から守備に切り替わった瞬間のダイレクトプレスにも改善の余地があり、「チームコンセプトに立ち返って取り組む」と吉野SDは決意を口にした。
閉会
1時間半の予定時間を大幅に超え、第64回クラブカンファレンスは終わりを迎えた。閉会に際し、坂本社長は言った。
「皆さんとこうしてコミュニケーションを取ることがチーム一丸を醸成していくために必要だと思います。チームは直近8試合勝ちがないが、山口智監督のもとで積み上げてきたものがあり、日々必死にトレーニングしている選手スタッフを信じて支えたいと思っている。いま一度皆さんのお力をお借りして、一丸となって残り14試合、『一戦必湘』で臨みたい。そしてシーズン終了後のクラブカンファレンスでは笑顔でお会いできるようにしっかりと戦っていきたい」
これまで年3回開催してきたクラブカンファレンスだが、今後は年2回とし、カンファレンスとは違う形で意見交換やディスカッションの場を年1回設けるという。「対話を大事にしたい」と坂本社長が語ったように、双方向のコミュニケーションを通じ、クラブとサポーターの相互理解がより深まることが期待される。