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【ボイス:4月21日】反町康治監督の声


 3月11日に発生した東日本大震災によって中断したリーグ戦。歓喜に沸いた開幕戦が遠い昔に思えるほど、この震災が日本にもたらした傷は大きく深い。それでも、止まることのない時間が背中を押す。前を向き、立てる者から準備を整えて歩き出さなければならない。リーグ戦再開を、逆境に負けない折れない心を象徴する、はじめの一歩とするために。
 シーズン最初のボイスは、劇的な2年の経験を大きな実りに変えるべく、3年目に挑む、指揮官・反町康治監督が登場。今シーズンへの思いを聞いた。

よりクォリティ高く。
攻守に渡ってチーム戦術の徹底を図る
 東北や北関東に大きな被害をもたらした地震の影響は、神奈川県にも及んだが、クラブハウスや馬入の練習場、スタジアムに問題はなかった。チームは、震災後に1週間のオフを挟み、通常練習を再開した。

「こういう時期だからって、サッカーや野球をすべて中止にしてしまって、沈んでいてもしょうがない。それは、新潟の時に強く感じた。新潟は、過中だったからね」

 2001年から5シーズン監督を務めたアルビレックス新潟で新潟県中越地震を経験している反町監督。スポーツがどんな力を持っているか、身をもって知っていた。選手たちも、自分にできることに集中している。

「もちろんオフの時はいろいろ考えるところはあると思うよ。でも、オンの時、仕事に入った時に感傷じみて試合をやるわけにはいかないからね。グラウンドを離れた時には、いろいろサポートをしていく活動をしていくよという話もしているけど、だからと言って試合になった時に、感傷に浸ってボールに厳しくいかないとかできないからさ。我々のスタンスは、大変なことを乗り越えていこうって言っているんだから、サッカーでも同じ。乗り越えていかなければいけない」

 中断期間は、開幕戦で見えた課題の修正とチーム戦術を徹底することに費やしている。開幕戦について振り返ると、 「チームとしてゼロで抑えようという前提のもとでやってきて、そこそこ整理して落ち着いてできたかなというのはあるんだよね。攻撃も前からボールを取りに行ってそのまま奪って得点に繋がったのがあったから、そんなに悪くなかったかなと。ただ、得点に繋がったのは、良いインターセプトからとか、良い前線のプレスからとか。奪ったあとに素早く攻撃に転じられたのは、現代サッカーに必要なことだから良かったけれど、そこで逃げられた場合の対応などをやっていたので、欲を言えば、その後の対応をもうちょっと見たかったというのはある」

 カウンターについては及第点だが、カウンターが決まらなかった後の攻撃の再構築や自陣からビルドアップして行く攻撃については、まだまだ修正が必要ということ。この期間に少しでも向上できるようトレーニングを積んでいる。 「4週間も5週間も時間があるわけだから言い訳がきかなくなるけど、中断期間は、ゲーム戦術とチーム戦術、チーム戦術の方をより徹底的に。強いチームとのゲームをこなして、うまくいかない時に崩れないようにするとか、そういうことも含めてチーム戦術を徹底している」

 再開の札幌戦で、その成果が見られるはずだ。

試合に飢えた選手たちが合流、
楽しみは、どんな化学変化が起きるか。

「俺が就任して1年目で昇格という切符を得て、去年はその財産で戦ったけれど、その財産をうまくプラスに持っていけなかった。今年は、そうした財産を1回全部捨てて、新しく財産を作りはじめるという考えでやっている。もちろん何人かJ1の経験者も残って、チームの主軸としてやってもらいたいのもあるんだけども、新しい湘南を作るためには、新しい素材を持ってきて、新しい流れを作らなければいけない。俺が残っているということは、プラスにもマイナスにも作用するわけであって、去年からの継続ということを掲げてやるんだったら、まったく良くない。
 自分自身も1回壊して、新しく作り直さなければいけない。自分の考え方とか、サッカーの見方も、もう少し多方面からみなきゃいけないとか、そういうのを含めて作り直さなければいけないということを強く感じている」

 今年のチーム作りは、監督自身も含めて“壊す”ところから始まった。そこに新しいベルマーレを作る素材として、復帰組の3人を含めて18人の新加入選手を迎えた。

「今のサッカーだと、走れない選手はどうしても淘汰されるから、基本的には走れる選手。去年いた選手が走れなかったというわけではないけれど、すべてのポジションで走れる選手が計算できないと。今はもうそういう時代になりつつあるから。
 補強の要望は、走れてボールが動かせる選手だった。あとは若くて、とか、左利きの選手がちょっと欲しいとか。ディフェンダーでキャプテンシーがあって年齢が中堅クラスの選手とか。それで健太郎(大井)なんかは、うまくハマったのかもしれない。
 でも選手の獲得については、そういう考え方はあるけど、経済的な問題もあるし、クラブの事情もある。欲しい選手を全部獲得できるんだったらそれにこしたことはないけど、我々は残念ながらそうではないからね、パーフェクトではない。ただ試合に飢えている選手をたくさん獲得したという感じはあるけどね」

 まじめなのは良いけれど、ややもするとおとなしい印象のチームカラーに変化をもたらす、明るく元気な存在感を放つ選手が多く加わった。

「新しくチームを作るにあたって新しいキャラクター、個性のあるキャラクターが入ることによってチームの雰囲気とか流れを作れるということが往々にしてあるので、今年に限っていうと、確かにそういうキャラクターの強い、物怖じしない選手がいるから、それがチームにいい流れを作ってくれるんじゃないかと思っているよ」

 開幕戦で観ることができたのは、期待を伴う化学変化の兆し。それでもこの時は、まだまだお互い探り合う部分が多かった。思わぬ熟成期間を経た今、どんな化学変化が進行中か、本気のリーグ戦で確かめたい。

DNAに刻み込まれた力が
本領発揮の時を待つ

 チームを壊す、という意味では昨年まで取り組んでいた4-3-3のシステムも変わった。開幕前の練習では4-4-2を中心に試していたが、開幕戦では4-2-3-1といった布陣が敷かれた。

「4-4-2は、今年入った選手が結構2トップができる選手が多いから。必ずしもこれでいくと決めたわけじゃないし、システムはどうでも良いこと。選手が活きる配置を考えるのが大切だし。まぁディフェンスのときは当然、スペースを与えないような配置を考えるけど。
 守備は去年、リーグ全体を通じて通算失点が多かった。今年はシーズンを通して失点を少なくしようというのを前提に考えてやっていく。したたかにディフェンスするところとかボールを奪うタイミング、ゴールを奪う考え方とか、いろいろとシチュエーションの話はして、整理はできたけどね。練習試合での失点は変なごちゃごちゃって感じの中なので何ともいえないけど、それもサッカーの一部。でも相手がボールを持っているときのディフェンス組織とか、考え方とかは悪くない」

 常に攻撃の練習を優先してきた去年までとは打って変わって、今年は守備の練習からスタートした。その内容は、システムの変更という枠にとどまらず、守備のコンセプトから変化している。変わらないのは、今年も全員が守備の意識を持って戦うこと。一方の攻撃については、2月半ばにあった約1週間のタイ遠征後からスタートした。

「“危険なプレーをする”ということを前提に。だいたい得点というのは、偶発的に取れるとは思わない。やっぱり狙いがあって意図があって、みんなの考え方がシンクロして初めて点が取れると思っている。もちろん、たまたま自分のところにボールが転がってきて、遠くからシュートを打ったらゴールっていうのもあるかもしれないけど、それはやっぱりシーズンを通しても少ないもの。我々は、攻撃の狙い、これはもちろん相手のディフェンスによってもちょっとずつ変化させるけれども、考えながらやっていく」

 ゴールを取るための意図。その意図が連携を生み、狙いがシンクロし、チームがさらに連動していく。選手同士の密な連携を高めるために今季は、ゲームを自分たちでコントロールしていくことも目標としている。しかし、練習試合を重ねて精度を上げるトレーニングを積んではいるが、残念ながら現在のところ、その力はまだ不足している。

「我々がボールを保持する展開なら主導できるけれど、今のチームを考えると主導してできる試合はほとんどないと思う。チーム力としては7番目か8番目。まぁそれはそのまま経済環境に平行移動するかもしれないけれど。べつにそれを悲観しているわけじゃない。だからこそ、何ができるかということ。まぁこれからだな。新しく生まれかわってこれからっていうのがぴったりくる。負けることを想定してそういうことを言ってるわけではないが、やりながら強くしていくっていう方向性が一番良いかもしれない。もちろん、勝って強くなっていくのが一番良いけど。
 練習では、1日1日を大切にして、考え方をきちんと説明した上でそれに見合うトレーニングをして。たぶんそれは自分でも自慢できるくらい、他のチームと比べてもできてると俺は思っている。ただサッカーっていうのは、相手があって成り立つものではあるし、お互いのチームのことをよくわかってないところもある。新生湘南を、じっくり観てほしい。今までの湘南のDNAを残しつつ、新たなものにチャレンジする姿を見てほしいということだね」

 守備に力を入れてもDNAに刻まれていたのはやはり攻撃力。開幕戦でかいま見た、暴れん坊の本格的な復活を期待したい。

紘司を脅かす存在が表れたときこそ、
新生湘南が実現

 3シーズン目の指揮を執ることを決断した反町監督。J1への昇格とJ2への降格を経験した2年間を踏まえれば、一番険しい道を選択したともいえる。

「情にもろいから(笑)。こう見えても、一応責任感もあるし。まぁ普通だったら責任を取って辞めたいって言うところだし、実際にそういうところもあったけど、でもまぁ傾きかけている建物を補修したい、しなきゃいけないっていう、そういう気持ちもあるしね。逃げ出すのは簡単」

 続投を要請した大倉智強化部長からは、監督就任にあたって、若手の育成とJ1復帰という、両立しがたい2つの条件が出されていることは、昨年末に開催されたクラブカンファレンスでも公表されている。
「新生湘南を標榜するにあたって、フレッシュな力を頼りにするのは当たり前なんだ。去年と違うところを見せないと。若い力には期待しているし、育成っていうのはどういうものかはわからないけど、力のあるヤツが出てくることは間違いない。才能のある若い選手はたくさんいるよ。遠藤航とか菊池大介とか。ロンドン世代だと翔雅(鎌田)とか、松本(拓也)もいるし。翔雅と大介はふたりとも外の空気を吸って、良い顔して帰ってきてるしね」

 年代別代表に招集されたことはないが、大卒の新人たちにも期待がかかる。

「永木の力は大きいね。去年のアウェイの名古屋戦なんかでもうちの方がポゼッションが高かったりするんだ。それは永木が入ったから。特別指定選手であれだけ試合に出られるのは珍しい。特別指定の選手がそれだけ出ることがチームにとって良いとは言えないにしても、見てる人もたぶん、永木に才能があるってわかる。
 今は、高山が良いね。あいつはキャラが良いよ。あんなヤンキーみたいな頭した若者、今の日本で一人だけだ(笑)」

 ただし、若手は調子の浮き沈みも激しく、使う側としては難しさもある。メンタル面のコントロールが必要だ。

「そういう時期もあるんだろうけど。俺だって選手のときそうだったし。調子上がらないなっていうときもあるだろう。それを監督が我慢して使えるかどうか。そこが揺らいじゃうと、もっとがーんと落ちるかもしれない。もちろんいろいろ話はしている。そういったことをポジティブに考えていけるか、最後は本人の問題だけど、気の持ちようでそういうふうに思わせる。そういうのも監督の仕事だな」

 揺らぐ心ともうひとつ、若手が超えなければならないのがベテランたちの壁。

「紘司(坂本)は、コンスタントに力を発揮できる。足は全然遅いんだけど速く見えるよね。戻るスピードもあるし。中盤の選手としては、理想的なものを持っている。ホントは、紘司を脅かすような存在がたくさん出てくれば良いんだけど。それで初めて新生湘南と言えるのかもしれない」

 経験を武器にするベテランと、試合に飢えた選手たち、そして自分の力を試したい若手たち。この力が融合して起こす化学変化が晩秋にどんな果実を結ぶのか。浮き立つ予感が高まるばかりだ。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行