ボイス

【ボイス:2022年10月11日】山田直輝選手

もらった思いを若手へ渡す
その思いが放つ存在感
 スターティングイレブンに名を連ねる選手、ベンチから出番を待つ選手。その試合への出場権を勝ち取ったどの選手にも、その選手らしい特徴を発揮したプレーを期待する。しかし、いく人かの選手にはプラスα、チームを支える気持ちの部分へも期待を抱く。例えば、キャプテンやベテラン選手。山田選手もまた、プレーへの信頼以上に、その存在感への期待が大きい。

「やっぱりベテランになってくると、自分のプレーだけじゃダメだし、湘南にいる歴も長いので、湘南らしさというのは伝えていかないといけないって常に思ってます。湘南のサッカーというのは、11人が本当に同じ熱量で同じ方向を向いていないと難しいので」

 今シーズン、湘南らしさを忘れた試合が何試合かあった。山田選手は、何よりもそれが気になっている。記憶に新しいのは、9月7日にアウェイで開催された第25節横浜F・マリノス戦。0対3という得点差よりも、失点の仕方の悪さが際立った。

「湘南らしくない試合をして大敗している何試合か、そこはフォーカスしないといけないかなと思ってます。どの試合もみんな同じ気持ちで臨んでいるのに、なんでああなってしまうのかなと。考えると、毎回、自分たちの何か変なミスから失点している試合がそうなっているので、ああいう試合になるスイッチみたいなものがあるのかなと思います。これは誰が悪いというわけではなくて、その1失点、自分たちから相手に与えてしまった失点に対してのメンタルのリカバリーが弱いのかなというのは、感じています」

 どの試合もミスは起こるもの。結果として失点や敗戦につながったとしても、そのミスを取り戻そうとする気持ちと、その気持ちが宿るプレーをすることでチームは前に進んでいける。

「自分たちは、勝つためにプレーしているけど、1点取られると2点取らないと勝てないというところで、『2点取るのは結構大変だよね』というメンタルがあるのかなと。これは僕の個人的な感想なので、わからないですけど」

 こういう「らしくない」試合こそ、ベテラン選手の出番と考えている。また、山田選手自身は、ミスをしたとしても、そのあとを大切にすることを徹底している。

「起きてしまったことを言っても取り戻すことはできないので、試合中はポジティブな言葉をかけますけど、当の本人は落ち込んでいることが多くて。チームがネガティブなときこそポジティブにと思っています。僕もミスをすれば落ち込むし、自分のミスで、直接失点に絡まなくてもそこから流れが悪くなったりすると、気持ち的に落ちそうになるときもあります。だけど、年齢的にも自分のことだけじゃなくてチームのことを考えないといけない。そういう年代ではあるので、できるだけポジティブに、自分は言葉でも背中でもプレーでも語っていかないといけないと思っているので、そこは自分に言い聞かせてプレーしています」

 自分に言い聞かせた先の振る舞いが、存在感となって放たれる。

「僕が見てきたベテラン選手たち、J1の第一線で長く戦ってきた選手たちはやっぱり背中で語っていたので、そういう人をたくさん見られたというのは、僕にとっての財産であるかなと思っています」

 先輩たちへ直接できる恩返しはないから、受け取ったものは後輩たちへ引き継いでいく。

「言葉で言うより、一番伝わるかなって。多分背中で語るっていうのは、試合中とかサッカーをしてるときだけのことでは、みんな見てくれないと思うので。私生活から自分が本気で向き合ってるところを見せていく結果が、背中で語れる選手になれると思っているので。そういうところから気を抜かないように気をつけています」

 そこには一つ、覚悟があった。振り返ればそれは、2019年の夏。1年半ぶりにベルマーレに戻るときのことだ。

「湘南に感謝の気持ちがあったので、しっかり伝えていかなきゃいけないという覚悟はそのときからできました」

 自分へ向いていた意識を、チームのために、ベルマーレのためにと軌道修正した。

「曺(貴裁元監督、現京都サンガF.C.監督)さんと湘南ベルマーレというチームが本気で僕と向き合ってくれた。そこでサッカーとの向き合い方を教えてもらった。湘南に来る前、浦和にいたときから100%でやっていたつもりだったけど、湘南に来たらそれは100%ではなくて、「つもり」で終わっていたことがわかった。それっていうのは、サッカー選手にとってすごく大事なことだなぁと思っていて、他の選手にも伝えたいなと思っている。サッカーに向き合う気持ちを示すためにも、私生活から手を抜かないというのを心がけています」

 浦和時代の「つもり」と、ベルマーレで感じた100%の違いとは。

「2015年に湘南に来たときの僕は、浦和でずっと長い間、怪我をしていて。これは聞いたわけではないので本当のところはわからないですけど、湘南ベルマーレも曺さんも、僕を戦力としてというより、もう一度サッカー選手として輝かせるためにという気持ちで誘ってくれた気がするんです。僕がちゃんとサッカーできるようになるまで、湘南に来て1年、2年弱くらいかかったんですけど、その間僕に対して100%で向き合ってくれた。こうやって向き合ってくれる人がいてくれるんだったら、自分は100%以上でやらなきゃいけないと思ってサッカーをやれたのが大きかったと思います」

 感じた恩を後輩たちへ。その思いが背中で見せる存在感につながっている。

「僕は、湘南ベルマーレはサッカーだけできればいいというチームではないと思っています。そういうサッカーに対する姿勢も大切にしているチーム。それは僕が身をもって感じていることなんで、湘南にきた選手たちにはそれを伝えていかないといけないなと常に思っています」

 私生活からのすべてをサッカーのために。

「口で言うのは簡単なので。背中で語るっていうのは、日々の生活がなければ絶対にできないことだと思う。それができる選手というのはやっぱり、今まで見てきた僕の大先輩たちも、日々の努力を欠かさない人たちだったので、そういう大先輩たちみたいな、背中で語れるようにならないといけないなというふうには思っています」

 存在感が光る理由は、その心から生まれる安定感のようだ。

「歳を重ねて、勝利に対する責任を負ってくれというふうにいわれるようになって、そこからですかね。ピッチに出て、何か自分だけのためにプレーしているんじゃなくて、ちゃんとチームのためにプレーできるようになったっていうのは、僕自身も感じています」

 気持ちの充実が存在感に繋がり、存在感がチームを安定した戦いに導いていく。この好循環を、残りの試合の勝点3に繋げたい。

>共有するスタイルは明確。1試合1試合、地に足つけて進むだけ