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【ボイス:3月26日】反町康治監督の声

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 今年ほど、シーズンが始まるのが待ち遠しいオフはなかった。そういう人が多いのではないだろうか?
 11年前、“必ず戻ろう”、そう約束したJ1の舞台に、ようやく戻ってきたのだから。

 現在、3節を戦い終えて、勝ち点は1。J1というカテゴリーの厳しさを肌で感じ、昨年勝ち取ったものの大きさをあらためて知る、そんな経験を重ねている。

 そこで、2010年最初のボイスは、就任1年でJ1昇格を成し遂げ、今季も指揮を執る反町監督が登場。今季のチーム作りのベースについて語ってもらったのをはじめ、選手に大きな変化をもたらした指導力と、その指導のベースになる哲学の一端にも触れてもらった。

voice_100326_02ベースは2009年のサッカー。
プラスαを積んで、アグレッシブに戦いたい。

 J2リーグ初年度に降格し、10シーズンを過ごしたベルマーレ。その間、J2リーグのレベルが年ごとに上がるのを選手はもちろん、ベルマーレに関わり、応援する誰もが感じてきた。当然、トップリーグのレベルは、もっと上がっている。10年は、あまりにも長い。つまりベルマーレにとってJ1は、復帰とは言うが、むしろ未知のカテゴリーだ。
 そんなベルマーレにとってJ1での戦いはどんなものになるのかを反町監督に尋ねると、

「それはもう挑戦でしょうね」

 当然だが、納得の一言が返ってきた。
 しかし、やっとつかんだJ1の舞台。そして、反町監督が監督としてここにいる以上、ただの挑戦では終わらない。そんな期待が持てるからこそ、誰もがワクワクと2010年シーズンを待ちわびたのだ。
 今シーズンを戦う選手たちも同じような気持ちでいる、監督からはそんな言葉がこぼれてきた。

 「J1でやりたいっていう気持ちをずっと持っていた選手が戦うわけだから、J1の舞台で試合ができるっていうところで喜びが感じられるよね。『よし、やってやろう』っていう気持ちもあるし、そうした意味でモチベーションのコントロールっていうのは、大きな問題はないよね」

 J1へ挑戦する今年、ベースになるのは、昇格を手にした2009年のサッカー。攻守の切り替えの早い、常にゴールを最短距離で狙う積極的なサッカーをJ1の舞台にもぶつけている。

「去年から続けているというアドバンテージを活かすためにも、去年やってきたことをベースにして、アグレッシブなサッカーをやっていきたいですね。それで昨年は成果も出ているし。
 システムは今のところ4-3-3をずっと試してますけど、昨年もゲームの中で4-4-2にしたりとか、よくやってますから、試合の流れや相手によって変える可能性はあります。ただ、選手の質を考えたらね、今のところそれが一番良いかなと思ってる」

 反町監督が強みと考えているベルマーレの選手の質・特徴というのは、

「前に出てくる推進力とか、ディフェンスの能力。全部をたたき出して、一番可能性が高いというのは去年やってみて感じたし、結果も出た。それに、違うことをはじめるにしても時間が足りない。我々は、去年の積み重ねをアドバンテージにしていかなければならない」

 もちろん、ベースになるチーム戦術が浸透しているというアドバンテージだけでJ1の舞台で互角に戦えるわけはない。精度を高めていくことに時間をかける、それも今季のプラスαのひとつだ。

「J1は、プレッシャーも速いですし、個人の能力も高い。だから、スピードとか精度とか、人間性も含めて向上していかないと。突き詰めていくことはたくさんあります。
 例えばディフェンスなら、相手の攻撃の精度も質も高いから、そこをちゃんと整理して理解させて、ゲームの中でしっかり対応できるようにっていうのを毎日、トレーニングしている」

 反町監督の指導の特徴的な点のひとつとして、ミーティングの重要性が挙げられる。昨季は、試合の前には必ずミーティングを行い、選手の頭の中を整理することに時間をかけた。そこでは、ビデオでプレーを観せ、チームでの対応の方法などを解説し、個々のタスクを与える。そのあとの練習で実戦を行い、身体で感覚をつかんでいくことを繰返した。
 今季もまた、ミーティングの重要性は変わらない。また、本番の試合に繋がる実戦の質にもこだわっている。レベルを上げるには、強い相手と戦うのが一番だからだ。

「本当は、練習試合もなるべく強い相手とやりたい。そうすることで自分たちの精度も上がっていくし、見えてくるものもある」

 さらなるプラスαのひとつ、戦力という意味では、新しく加わった選手たちの力にも期待がかかる。
 補強面での監督の満足度は、

「限られた予算の中、去年1年通して足りない部分という意味で、かなり良いところまでいってると思いますけどね。
 まず去年の場合は、チーム内で競争相手が少なかったから。そこをちゃんと押さえておかないと、この厳しいシーズンは勝ち残っていけないと思いますね。
 そういう意味でも、チームの経済環境とも相談しつつ、十分力が発揮できる選手が来てくれたと思う」

 インタビューを行ったのは、開幕前だが、その時点で新戦力への感想は高評価。新人、移籍組どちらもみんなフレッシュな気持ちを持ってチームにとけ込み、サッカーに取り組んでいる。
 これに加え、30歳を過ぎた選手のメンタル面の著しい成長も見逃せないという。

「サッカーの酸いも甘いもわかってきてるヤツが増えてきた。テラ(寺川)だけじゃない、30を超えてきてるのは、みんなわかってるよ。紘司(坂本)もそうだし、ジャーンも幸平(臼井)も。そういうことがわかってくると、どこでスイッチをオンにするのかっていうことや、ちょっと抽象的だけど、勝負所とかがわかってくるから。
 今年はキャンプから、そういう経験値がかなり活かされたスタートが切れたと思いますね」

 J1挑戦のシーズン、注目を集めるような補強はなかったが、それよりも、昨年の経験をアドバンテージとし、選手一人ひとりが更なるプラスαを積んでいくことで、チーム力の向上に繋げていく。それが、反町監督の狙うところだ。

voice_100326_03ベースはまず“選手ありき”。
一人ひとりの力をチームに集約。

 就任1年でJ1復帰を現実のものとした反町監督。クラブ自体がJ2で過ごした10シーズンの間に積み上げたものがあったとはいえ、その指導力は、やはり卓越したものがあると誰もが感じている。その反町監督が指導者としての哲学を語る時に必ず出てくるのが、『ロジックとパッション』という言葉だ。

「選手は人間だからね、情熱と理論をしっかり持って接しないと難しいということ」

 指導者に情熱と理論がなぜ必要なのかと言えば、『選手は人間だから』。反町監督の口からは、選手の人間性に関する言葉がよく聞かれる。何よりも選手の人間性を尊重し、大切にしている表れだ。
 そんな反町監督は、普段は選手とは距離を置いて接している。

「選手は全員同じ目線で見る。例えば、ある一定の選手とずっとしゃべり込んだりしていると、他の選手は『何だ、あいつだけ』となるから。チームの中でヒエラルキーを作らない。簡単なようで難しいですよ。
 それに、選手と仲良くしてもしょうがないし」

 基本的に個別には関わらない。それでも選手たちは、反町監督からの影響をよく口にする。昨年リーグを戦う中で実際に、人が変わったようだと驚かれた選手も少なくない。

「誰かということではなく、みんなそれぞれ変化はあったと思うけどね。それに、変わったって言っても、今が普通であって、その前がダメだったのかもしれないからね。彼の持っているポテンシャルとかそういうものを活かせてなかったのかもしれないし。
 やっぱり信頼されているかどうかっていうことじゃない?プレーぶりとか人間性とか。家庭の子どもとおんなじだよ、信頼されてると思わなければグレたりするけど、ちゃんと話をして信頼されていると本人が感じていればグレないでしょ?
 別に難しいことはしてないよ、ふりかけをかけるようなことはしてない、何も」

 まず着目するのは、選手個人が持っている本来の特性。そして良い部分を発揮できるようにお膳立てをする。

「それをうまく利用しない手はないっていうこと。クラブチームは人数が限られているし、ね。
 俺は、五輪代表の監督経験もあるけど、代表はなんていうのかな、声をかければ来るわけだから。
 でも、ここはそうじゃない。だから選手が持っているもの、どのギアとどのギアを噛み合わせてうまく車輪を回すかっていうことを考えなければ。
 豊(田原)は、豊の持っているものがあるし、それを多くのものを求めずに自分のタスクをしっかり理解させて、その中で精度を上げていく、質を上げていく、量を上げていく。そういうことでしょうね。
 俺はどちらかというと、『サッカーはこうあるべきだ』というふうに思う人間じゃなくて、『こういう選手だから、こうしなきゃいけない』というように、目線を変えてやっているから。選手が活躍しやすいように、下からサポートしているだけ。
 上からサポートするのが良いっていう人もいるかもしれないけど、上から目線でやるつもりは毛頭ない。選手のやる気とか持っているものをスポイルする必要はないわけだし。ただここはどう考えるか、本当に難しい」

 クラブチームで指揮を執るにあたって、サッカーを主軸にするか、選手を主軸にするか、というのは、指導者それぞれに考え方がある。反町監督が実戦しているのは、選手個々の力を最大限に活用し、チームの力にしていく方法。
 何よりもまず、選手ありき。選手が絶大な信頼を寄せたその秘密は、まず反町監督の方から歩み寄る、その姿勢にあることが伺えた。

voice_100326_04学ぶ姿勢を忘れない、どん欲さと謙虚さ。
監督が見せる姿勢に、次は選手が学んでいく。

 アルビレックス新潟で5シーズンの間、指揮を執り、五輪代表監督も務めた反町監督だが、選手の力をいかに噛み合わせていくかという考え方がより顕著になったのは、意外や最近のことだと言う。

「ここに来てからの方が大きいよ。湘南に来てから。
 なぜだろうね。やっぱりいろんな経験をしてきたからじゃない、指導者として。選手に、こっちがいろんなことを頭ごなしに言っても結局は変わらない。だったら、変わらないものをどううまく組み合わせていくか、盛り上げていくか、伸ばしていくか。考え方が、そういう方にちょっと変わりつつあるよね。
 だからそういう意味では俺も、選手の酸いも甘いも、サッカーの酸いも甘いもわかってきたのかもしれないけど」

 指導者として積んできた経験のひとつが実りの時期を迎えている、そんな季節に巡り会わせているのかもしれない。そういう意味では、この時期に指導を受けるベルマーレの選手たちも幸運だ。また、だからこそ、さまざまな変化が目につくのかもしれない。
 例えばジャーン選手も変化を感じさせた選手の一人。2008年までは、熱い気持ちがエキサイトしたプレーに繋がり、大切な試合で退場したことが何度かあったが、昨年は退場したのは一度だけ。終盤にかけては、イエローカードを3枚ためながら熱いゲームを冷静に戦い抜いた。

「セルフコントロールをしっかりしろというのは,いつも言っている。だからその試合で本人も学んだんじゃない?退場した試合については、ちゃんと話したよ。みんながどれだけ汗水流して最後まで頑張ったのかをよく考えろと。そうしたら同じようなシチュエーションの時でも同じことができるわけがないよね。本人も学んでいかなきゃいけない。別に俺、強く言ったつもりはないし、俺もそれで学んでいる」

 普段は距離を置いていても、肝心な時には必ず自ら選手と話をする。そしてそういった選手との関わりの中から監督自身が学ぶ。だからこそ逆に30歳を過ぎた選手でも変化が大きいのだろう。

「学ぶよ、選手にいっぱい教えてもらっているよ。練習の時も、『こういうことして良いですか?』って言われて、『なるほど、そうか、それをやってみようぜ』ってなる。学んでるよ」

 あらゆる瞬間から学ぶ、どん欲さと謙虚さ。毎日の中でもこれほど学びがあるのなら、昨シーズンのターニングポイントのひとつであった4連敗の時は、どんなことを学んだのだろうか?そんなことも気になった。

「変な話、監督とか指導者とか、いろんな言い方があるけど、そういう立場の人間はそういう時に本当の力ってのが発揮されるわけだよね、指導力とか。
 良い時は練習に来なくたって試合には勝つんだから。そういうダメな時にちゃんと筋道を作って、光の射しているところをうまくつかみ取ってやるかっていうこと。あの時は、まだまだ力が足りないなと思ったけど。
 それと、決断することの必要性もある。フォーメーションやメンバーを替える決断。
 負けている時にメンバーを替えるっていうのは、非常に度胸のいること。それは選手に『お前のせいで負けたんだよ』というメッセージになってしまう場合がある。その時にどう考えるかだね。俺はそういう時にメンバーを外す場合は、ちゃんと話す。そうしないと選手だって納得しない、『俺のせいだ』って、絶対に思う。その後に交代して出場させたとしてもね。
 負けた時こそ、選手に信頼感を与える。だから替えるのは難しくなる。でも日本のサッカーは逆だ。負けるとメンバーを替える、替える、替える、替えて深みにはまる。発想があまり良くない。
 だから鳥栖戦の時にテラが交代して点を取ったのも決して偶然じゃない。スタメンを外した時にちゃんとテラと話をした。こういう状況だから、でもベンチに置いておくから、よく試合を見ておけ、と」

 4連敗後にフォーメーションを変えて臨んだ水戸戦と、その後の鳥栖戦はそれまで途中交代はあっても、すべてスタメン出場してきた寺川選手がベンチスタートとなった。その鳥栖戦で寺川選手は途中出場を果たし、値千金のゴールを決めた。
「全部の選手と話すとは言わない。そればかりじゃ監督の仕事は務まらないし。ただベテラン選手は特に必要かもしれない。プライドもあるし。逆に20歳の選手にいちいち説明はしない。そうなると全部の試合で話さなきゃならなくなる。
 話すのも難しいよ、『お前は良い選手だけど外した』なんて言ったら、『なんで良い選手を外すんですか?』ということになるから。そういう時は理路整然と、理論武装して話さないと。あとでビデオを見せたり。そこは、コーチの曺が次の日にビデオを編集して見せてフォローする。
 この「全員とは話せない」、そこが一番難しいところ。だから俺が直接話にきたということは、それだけ考えて判断したことだろうなと選手が思うし。全員に良い顔できないのが当たり前、試合に出られるのは11人なんだから。最終的には全部俺が決めて、全部俺が責任をとるというのが前提にある。
 それでもなぜこんなに選手に気を遣うのかと言えば、人間だからね。ロボットだったら壊しちゃえばいいけど、人間を壊したら、なかなか元通りに戻らない。それは、オシムさんから学んだ。メンバーを外す時は、必ず俺が『こういう理由だから』って、全部言いに行かされた」

 鳥栖戦で得点を決めた寺川選手がよろこびを爆発させた姿が今も印象に残る。それについて、寺川選手が試合後、ゴールを決めた瞬間、反町監督のところへ行こうと思ったが、走っている途中でそれは最後にとっておこうと思い直して、ベンチの周りを駆け回ったと語っている。スタメンを外した選手からも得ている揺るぎない信頼。それは、ここで語る以上に選手に誠実さが伝わっている証だ。

voice_100326_05選手に望む前に。
指導者こそ、クリエイティブであれ。

 選手の心を大切にする、細心の気遣いに加え、オリジナリティにあふれた反町監督の指導法。そこには、フル代表コーチも兼務した五輪代表監督時代に関わった元日本代表監督のオシム氏から受けた影響が大きい。

「いろんな影響を受けたと思うよ。サッカーに対する考え方とかトレーニングのアイデアとか、即興性とか」

 臨機応変にその状況に対処していく即興性。それは、まさにサッカーの醍醐味そのものと連動している。

「例えば、4対4をやっているときに誰かが1人けがをした。で、4対3になったときに、1人をフリーマンにするのか、それとも3人の方をフリータッチにして4人の方をツータッチにする、またはスリータッチにさせるとか。また、2人フリーマンにして、とか、3人をフリーマンにしてとか。そういうことをすぐに考えられるかどうか。
 で、自分の思い通りのパフォーマンスが出なかったら、例えばキーパーを2人にしてみるとか、キーパーをフリーマンにしてみるとか。4対4のトレーニングから派生することでいろんなことができる。
 例えば、色を変えてしまっても良い。ビブスを水色とブルー、赤とピンクにして暖色対寒色にするとか。で、水色同士のパスをなくすとか、いろんなことができる。『暖色、青と!』って、すぐ4対2のゲームをやらせたり、『ピンク、青と!』って、今度は2対2をやらせてみたり。
 そういうのは、それまでのゲームのトレーニングのアイデアとしては、あんまり俺にはなかった。4対4といったら,固定的にやらないといけないと考えていた。でも同じ4対4でもいろんなことができる。オシムさんは、そういうアイデアを練習を見ながらとか、選手の状態を見ながらとか、どんどん出していく。いろんな緊急的なことがあったとしても、全然動じずにパッパッパッとやるわけ。それがサッカーの試合と繋がってくる」

 オシム氏が日本代表監督時代に行った練習は、誰もが見たことも聞いたこともない,オリジナリティにあふれたもので、その頃のメディアの間でも話題にのぼった。
 そして、その練習が象徴するように、代表の試合では、次に何が起こるのだろう?という期待感に満ちたサッカーが展開されていた。

「俺も思うんだけど、結局選手に、そういったクリエイティビティとか自由さとか、即興性だ、アイデアだとか求めるけど、まず指導者が出さないと、選手はそんなにアイデアなんか浮かんでこない。そこが一番大事。いつも指示されて怒られてサッカーをやっていたら、試合の時には言われた以上のことが頭に浮かんでこなくなってしまう。
 去年のチームは、一昨年から継続している選手やコーチングスタッフが多いにも拘らず、変化が感じられた。それは、頭の中のいろんなアイデアとか,自分の判断とかそういう許容量が増えたからだと思うんだよね。それがみんな集まって集合体にできれば、見に来た人も少なからず、『あれ、あんなこともできたんだ』、『こんなこともできるんだ』って感じてくれるかもしれない。その集合体が最終的に良い結果を残せれば一番良いわけであって。もちろん,それがうまくいくとは限らないよ、いろんなリスクがあるから。
 でも例えば紘司、30歳を超えてからだってそういう刺激があれば、こんなに成長するという証明でもある。寺川だってそうだよ。毎日,良くやってると思うよ」

 『試合で選手が生き生きと躍動してくれれば良い』というのは、反町監督の口癖。そのために毎日の練習で、選手が個性の活かせるように支え、たくさんのアイデアの種を与える。
 馬入の練習グラウンドでは、毎日そんな光景が見学できる。機会があれば、ぜひ足を運んで、次の試合への期待を膨らませてほしい。

結果にこだわるからこそ、
選手の力を最大限に引き出す。

 『選手ありき』。チーム戦術を決める際もその基本は変わらない。
 昨年は、4-3-3の攻撃に人数をかけるシステムで、J2リーグを戦い抜いた。この戦術も、監督自身が前述している通り、ベルマーレの選手を見て一番合っているということで採用された。

「去年のJ2は特にね、自分の好きなサッカーを無理矢理押し付けているような監督が多かった。例えば、俺はパスワークが好きだからそういうパスワーク中心のサッカーをやる、でも結果はなんなんだ?とか。『それじゃあ、チームは監督の私物だろう』って思う。
 クラブから求められていることもあるはずだけど、それをいうとそういう監督は、『いや、選手が揃ってないから』っていう。当たり前だよ、J2なんだから。選手が揃ってなくても、どうやって一番力を発揮できるかを考えないといけない。自分の理想は抜きにして、限られた選手の中で一番パフォーマンスを上げられることを、なぜ考えないのか?自分の理想論ばかりを追いかけていると、試合中も前に出て細かい動きまでいちいち指示を出したくなる」

 反町監督は、科せられた結果にこだわり、方法論は徹底した現実主義を貫いていると言える。

「俺がFCバルセロナの監督だったら別だよ。まあFCバルセロナだったら言わなくてもできるけど。そこまで達してないチームが多いでしょ?
 アメリカのプロ野球に近いよね。オーナーが選手はこれだから、この中で監督をやってくださいって言われる。監督が選手を選ぶことはほぼしない。
 その中で一番良い戦術はなんなのかということ。だからある意味、J2の監督をやるには、引き出しが多くないと大変だよね。長年監督をやっている人は、成績に関係なく、何かしら持ってるってこと。それに、自分の好きなサッカーしかしない監督では、その監督が替わった時にチームに何も残らない」

 この話を聞けば、J1にカテゴリーが変わったからといってチーム戦術が変わらないのは、当然のことだということがわかる。

「適材適所って言葉があってさ、田村(雄三)がフォワードをやってもしょうがない。でもあいつも良いものをもっているから、それをやっぱり100%、もしくはおだてて120%出させたら、それに越したことはない。それがチーム力の底上げに繋がるから。紘司もそうだよ、紘司が自陣でボールを横に蹴ってもしょうがない。豊(田原)がサイドでボールをもらってドリブルで仕掛けても何も起こらない。ゴール前にいれば怖いよ、相手が3人寄ってくる。その隙間を祐也(中村)とか、猪狩(佑貴)でも誰でも良いけど、いけば一番良い」

 個性を生かし、その強みを集約してチームの力にしていくのが反町流。今のところ,どんな戦術よりもベルマーレの選手の力を最大限に活かしていると確信できる。
 開幕したリーグでは、

「我々はJ1で18番目なので、そこから這い上がっていくしかない。定着するための基礎づくりの年にできれば良いけど、青写真通りにいかないのがサッカーの世界。
 まあ、最終的にどうなるかというのは抜きにして、とりあえず1試合1試合がすごく大事なゲームになってくるから。そうするとやっぱり試合でチームと個人のパフォーマンスを最高潮に達するように、もうそれしかない。
 そのために1週間を費やす、3日を費やす。そのために何ができるか、我々は。そうやって1シーズンを戦っていく」

 現在、3節が終わって白星はなし。気になるのは、2敗していることより、ベルマーレらしいサッカーが表現できていないところ。特に個の力に圧倒された2節目と、その戦いを引きずってしまったような3節目の戦いぶりが記憶に残る。それでも監督からは、できない言い訳ではなく、先を見据えて自信を秘めた言葉が語られた。

「思ったようにいかないのは、さすがトップリーグというところ。簡単にいくわけない。だからといって、トップリーグの経験が足りないことを力が出せない理由にすれば、経験を積んでいる間にリーグが終わってしまう。力を出せるようにしていくしかない」

 4-3-3のシステムについても、相手や状況に応じて臨機応変に対応していくと言いながら、今はまだやり方を変える時期ではないとも語る。
 振り返れば、J1に昇格した年のアルビレックス新潟は、1stステージ15試合中3勝5分7敗という成績だったにも拘らず、2ndステージに向けて力を蓄え、残留を果たしている。もちろん、新潟の足跡を追う必要はないが、参考にすれば、確かに焦る時期ではないこともわかる。
 それに、どんな状況に拘らず、必ず勝機を見いだすのが反町監督。昨年同様、今もできる限りの最善を尽くしていることだけは間違いない。そんな反町監督は、応援も最善を尽してほしいと語る。

「今年は新しいチャレンジとなるので、サポーターもまた同様、厳しいシーズンとなると思います。サポーターで『今年は優勝できる』なんて言う人は、一人もいないと思うけど、でも最後までともに戦い抜いてもらいたい」

 昨シーズン終盤、どちらに転んでもおかしくない試合で勝利を引き寄せたのは、サポーターの力。反町監督は、昇格のよろこびを聞かれると、ことあるごとに、そう語ってきた。そしてそれは今シーズンも同じ。いや、もっと厳しい戦いが続く今シーズンこそ、更なるパワーが必要になる。特にJ1に上がってからは白星がなく、選手も歯がゆさを感じているところ。しかも第4節、ホームに迎えるのは、反町監督をはじめ、今やベルマーレの中心選手である寺川・野澤も在籍したアルビレックス新潟。メインスタンドまで広げたアウェイ席がほぼ完売しているほど、サポーターも大挙してやってくる。
 まずはホームで1勝。その1歩が踏み出せれば、勢いにも乗れるはず。選手とともに全力で、この1試合を戦い抜こう。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行