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【ボイス:2015年5月1日】曺貴裁監督 [4]

ケガを言い訳にしない、させない。同じスタートラインに立つために。

 今シーズンは、2013シーズンから昨シーズンにかけて大きなケガを負った選手が全員復帰し、オフ明けの練習から一斉にスタートを切ったこともあってケガからの復帰組の選手たちへの期待も大きい。なかでも今季副キャプテンの重責を担ったのが古林将太選手。副キャプテンに指名した曺監督の意図も気になるところだ。

「長いことケガをしての復帰で、周りを見る余裕がないっていうのがアイツの状態だとわかっているし、自分のことに集中させるのが定石だと思うんだけど。
 前十字靭帯のケガって、洋平(大竹)もそうだけど、パフォーマンスが戻ってくるのに想像以上の時間がかかるなっていうふうに僕は覚悟している。そういうときに、自分が副キャプテンだからっていうことが、彼の土俵際の励みになればという思いと、将太が副キャプテンをやるっていうのは、うーん、なんて言うかな、仲間が『コバショウはケガ明けだから』って、どうしてもそういう目で見ちゃいながら、たぶんやっていくんだなと思ったから。コバショウは、ピッチに立ったらケガ明けだろうがなんだろうが、みんなと同じことをやらなきゃいけないし、やらせなきゃいけない。そういう周りの見方もフラットにしたかったっていうのがありましたね。あれだけのケガをして、『コバショウはゆっくりやるよ、で出遅れて』じゃなくてね、最初からいっしょになってやっていかなきゃいけない選手だから」

 古林選手がもっとも得意としている右のサイドハーフもポジション争いの激しい。しかし、その切磋琢磨がお互いの成長を加速させる。緊張感に満ちた日常を1日でも早く取り戻し、そのなかでサッカー選手として一歩でも前に、という曺監督の思いが感じられる。
 そういう意味では、古林選手より数ヶ月前に同じケガを負い、昨シーズンの夏に復帰した大竹洋平選手が一足早く本来の調子を取り戻したうえに、湘南スタイルへの理解が深まり、今季は目の放せないパフォーマンスを見せていることは、古林選手にとっても勇気が持てる現実のひとつではないだろうか。

「洋平は、FC東京でずっと育って、うちに移籍してJ2を1年経験して、今年は本当に勝負の年だと思っていると思うんですよ。で、僕と話さなくなりました、良い意味で。昔は、プレーがうまくいかなかったら『こうですよね? こうですよね?』と俺に聞いたり、俺が話したりしてたけど、もう自分でちゃんと消化している感じがします、最近。自分のプレーのこと、練習のこと。だから俺も前みたいにたくさん言わなくなりました、あいつに。いろんな意味で自立してきた。だから頑張っているように見えるんじゃないかと思う。自分で考えて身体のケアとか練習をやっているし、びくびくすることもない。試合で途中で代わってもブレることないし。そういう感じになってきましたよ」

 公式戦11試合を消化したそのなかでもベルマーレがチームとして自信を持つきっかけとなった鹿島戦では本来の良さである攻撃の部分よりも守備に奔走する姿が印象に残った。しかし、献身的な守備を見たからこその期待を抱いたのも事実だ。

「鹿島戦の洋平の守備に回るときの洋平の力はすごい。僕も本来、彼にはこういうことをやってもらいたい、こういうことで使ってあげたいってあるけど、あの展開になったらしょうがない、できることをやるっていうのがアイツの成長と言える。
 それは点を取ることとは違って、サポーターや周りの人にはわかりづらいこと。でも、それを俺らはわかってるからっていう内々向けのメッセージじゃなくて、そういうことが本当に楽しい、そういうことをやることでチームが勝つことが自分にとっての喜びと思えることが彼らの成長。そういう意味で彼のアイデアに満ちたプレーが出ればさらに活かされると思う」

 曺監督のその言葉通りの試合がホームで迎えた第3節のベガルタ仙台戦だった。攻撃のアイデアも技術も瞬間の判断も大竹選手らしいパフォーマンスがピッチで繰り広げられた。

「本当に試合に勝ちたい、本当に成功したいと思ったら、目の前で起きているプレーに『これは俺のプレーだけど、あれは俺のプレーじゃない』っていうことはあってはいけない。どのプレーも、ヘディングもスライディングも何でも自分のプレーだと思ってほしい。それが強い弱い、速い遅いはあります。でも、そういう匂いでプレーしちゃいけない。特に我々のサッカー、我々のチームにおいては。いや、どのチームにおいてもそうなんだけど」

 ケガを乗り越えた先に見えてきたのは、大竹選手の新しいスタイル。ケガを言い訳にしない、その気持ちが新境地へ導いてくれたのかもしれない。