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【ボイス:11月9日】亀川諒史選手の声

高卒ルーキーとして加入した昨年は怪我に泣いたが
プロ2年目の今年は、試合出場の機会を数多くつかんでいる亀川諒史選手。
粘り強い守備に加え、豊富な運動量を武器にしながら
飄々とした力みない様子で攻撃に加わっていくプレースタイルが独特の魅力を放つ。
攻守が一体となった湘南スタイルにおいて、
サイドハーフや3バックの一角から最前線までをプレーエリアとして攻撃に絡み、新しい可能性を拓いている。

2002年日韓共催のW杯をきっかけに始めたサッカー
代表選手と同じピッチに立つと燃える

 試合ごとにメンバーが入れ替わるスターティングイレブン。そこには、日々切磋琢磨する選手たちの成長ぶりが映し出される。すべての選手がチャンスをものにするのに必死だ。
 その中でも際だつ進歩を見せるのが亀川選手。昨年のルーキーイヤーは怪我に泣かされたが、今シーズンは出遅れた時間を取り戻すような勢いで試合出場のチャンスをつかみとっている。

「去年1年ずっとスタンドの上から観ていて、早くあのピッチに立ちたいっていう気持ちは誰よりも強かったと思うし、このまま試合に出られなかったらサッカー人生が終わると思っていた。去年の悔しさがあるから今は、サッカーをできる喜びっていうのが大きいです」

 高校最後の選手権の県予選準決勝で怪我を負い、無理して出場した決勝は敗戦を喫した。その時の怪我が癒えぬまま、2012年シーズンにルーキーとしてベルマーレに加入した。

「怪我をした頃からもうベルマーレのトレーナーがいろんなメニューを考えてくれて、僕はそれをこなしていました。でも、サッカーができる状態ではなかったので、加入する前は不安しかなかったです。
 2012年は一度、4月頃に復帰したんですけど3週間くらいでまた同じところを傷めちゃって。トレーナーは最善を尽くしてくれていたし、いろんな先生に診てもらったりしたんですけど、なかなか良くならなくて。結局ちゃんと復帰できたのが8月の終わりくらいでした」

 復帰した直後、9月8日に行われた天皇杯2回戦、vs愛媛FC戦に出場。チームは勝利したが、その後のリーグ戦では出場機会を得ることはできず、結局2012年シーズンの公式戦出場は、その1試合に留まった。個人的には結果の出ないシーズンを過ごすことになってしまったが、チームはJ2リーグを戦い抜き、J1復帰という結果を手にしていた。自分とチームの間にあるギャップの中で、自分自身を見つめて過ごした1年だった。

「公式戦に出るって決まった時は、やっぱりめっちゃうれしかったし、頑張ったかいがあったなって思いました。
 実際は、怪我で全然練習してなかったし、高校からいきなりプロは、スピードであったり、身体つきだったりが全然違うなぁという感じで、リーグ戦は出られるレベルにはないなっていうのも感じていました。そういう中でチームは昇格もあって、僕はリーグ戦も出られないまま。そういう意味では本当に何もできない1年だったし、悔しい1年だった。
 でも、周りから見るともったいない1年やったなーと思われていると思うんですけど、僕にとっては……もちろんサッカーができれば一番良かったかもしれないですけど……、他のこと、気持ちの面であったりっていうところが強くなれた。その悔しさがあるから今年頑張ろうって、そう思いながらスタートできた。自分にとっては無駄な1年じゃなくて、大きな1年だったと、今はすごく思います」

 昨年の悔しさを糧に臨んだ新しいシーズンは、アウェイ日産スタジアムで開催された横浜F・マリノスとの開幕戦をベンチで迎えた。そして、わずかな時間ではあったがピッチに立ち、緒戦でリーグ戦デビューを飾ることができた。

「最後、本当に5分くらいだったんですけど、日産スタジアムのすごいサポーターが多い中で、まずピッチに立てたっていうこと、プレーは何もできなかったんですけど、そのときに自分の中で1歩踏み出したって、すごく思いました」

 亀川選手は、2002年に開催された日韓共催のワールドカップをきっかけにサッカーを始めたという。年代は異なるが、F・マリノスには中村俊輔選手や中澤佑二選手など、歴代の日本代表メンバーに名を連ねてきた選手がいる。そういった選手と同じピッチに立てたことも、その喜びを倍増させる一因となった。

「J1はそういう選手が多いので、そういう選手に対して自分がどれだけできるかって思うとすごく楽しみになる。元々そういう選手に憧れてサッカー選手になったわけだから、燃えるっていうか。試合で緊張するタイプではないので、すごく燃えるって感じです」

 ピッチに立てば、物怖じしない強心臓も武器のひとつ。サッカーをプレーする時に限れば、どんな舞台でも緊張も恐れもしない。むしろ、その経験の一つひとつを自分自身に刻むことに集中している。

「試合に出て感じるのは、試合に出ないとわからない部分というのもあるかなということ。練習試合と公式戦の雰囲気の違いっていうのもあるし。そういう雰囲気の中で自分のプレーが出せるかとか、どこがだめだったのかというのは、試合に出てこそわかること。試合に出て経験することで、次はこうしたら良いっていうのもわかるし。やっぱり試合に出ることで成長すると思う。
 でも一番は、1日1日の練習を大切にすることが大事かな。去年は怪我していましたけど、決められたメニューはとにかく毎日しっかりやろうと意識していました。今年も1日1日の練習を大事にしなきゃいけないなって思いながらやってます」

 積み重ねた日々のうえに今日がある。思いきりサッカーができる今だからこそ、毎日の練習こそを大切にしている。

長い距離を走って味方をサポート
課題はフィニッシュに絡む精度

 曺監督が指揮を執って2シーズンを過ごしているが、いまだに2試合続けて同じメンバーで戦ったことはない。それでも昨年からサイドハーフのポジションは右の古林将太選手、左の高山薫選手の牙城をおびやかす存在はなかなか現れなかった。しかし、今シーズンは亀川選手がその要のポジションで起用されることも多く、今までにない魅力を持つ戦力として存在感を放っている。

「去年は本当にあのふたりが軸になって、点もすごく決めていたし、あのポジションが肝だっていうのも周りから言われていた。でもあそこをおびやかさないとチームとしても成長が止まってしまうというのもあると思うので、なんとしても負けずに試合に出たいという気持ちがあった。劣っているところの方が多いと思うんですけど、でも、自分の方が勝っているところも少しはあると思うので、……僕とコバくん(古林)だったら求められていることも違うかもしれませんけど、でも自分が呼ばれた時は自分が求められていることをしっかりやれば大丈夫かなと思ってます」

 右のサイドハーフに限らず、左に入ることも、3バックの左右で起用されることもある。また、フォーメーションを4バックに変えていく際には、サイドバックに入ることもある。

「曺さんからは、どちらもできるようになってくれとも言われていたし、両方できることで選択肢も増えると思うので、どこでもいけるように準備はしてました。
 どっちが良いとかっていうのはないですけど、サイドハーフの経験があるから3バックに入った時には、どういう動きをしたら助かるっていうのがわかる。そういう面でも複数のポジションができるっていうところはもっと磨いていきたいなと思います」

 高校1年生まではフォワードを務めていた。その後、徐々に後ろに下がって高校3年を迎える頃には、左右のサイドバックが定位置となった。ベルマーレからのオファーもそのポジションで得たものだ。

「守備をやってきたので、しっかりした守備、1対1であったり、そこから前に出て行く、走ることであったりというのが自分の長所だと思っています。今、自分が一番課題やなと思っているのが攻撃に出て行った時の最後のクロスであったり、シュートの精度ですね」

 相手陣内でサッカーをすることがコンセプトの湘南スタイルだけに、サイドハーフの時はもちろん、3バックの位置からも長い距離を走って前線に絡む。

「サイドバックをやっていたときからそうなんですけど、後ろから追い越していくっていうのが自分の中で得意というか好きなプレーです。リスクもあるんですけど、あそこから上がることによって自分にはマークが絶対いないし、相手選手が僕についてくればボール保持者がフリーになるっていうのがあるので、パスがもらえなくても周りを助ける走りっていうのは意識しています。浦和(レッズ)とかを見ても同じフォーメーションで槙野選手や森脇選手はゴールも結構取ってサイドの仕事もしてるので、僕も守備だけをするプレーヤーではなく、そういうこともやっていきたい。自分が動くことによって相手がキツくなるというところもあると思います」

 今シーズンの亀川選手の成長ぶりがわかりやすいのは、試合出場を重ね、出場時間を伸ばすごとに、そのプレーエリアが広がり、走る距離も長くなっていることにある。試合ごとの経験が糧になり、例えば、オーバーラップやクロスを上げるに至るプレーの回数などはあきらかに増えている。

「去年からゴールであったり、アシストであったりっていうのはコバくんも薫くん(高山)も相当やっていたので、試合に出るためには守備だけじゃなく、そういうところも狙っていかないと出られないっていうのはすごく感じていました。今年のスタートから得点への意識は持っていて、でもやっぱり意識はあるけどプレーでそうならないっていうのがあった。最初の頃は、シュートも全然打ててなくて。それでも練習を積み重ねたり、試合に出た時に抜いてシュートが打てたりすると、自分の身体にもそういう感覚っていうのが入ってきて、実際にシュートを打てるシーンがだんだん増えてきた。試合が一番大事だけど、でもその試合のためには本当に練習が大事だなって思います」

 もっとも課題としているのは、フィニッシュに絡むプレー。クロスを上げる回数が増えれば、次はその精度に期待が向かう。

「守備は自分の中で自信があるんですけど、攻撃になった時に最後にひとり抜くプレーであったり、クロスを上げるという部分は、高校の時にはできていたことでも周りのレベルが上がると、もっと成長しなければいけないというのは、すごく感じるところです。
 例えばクロスなら、ニアの近い位置で引っかけるのだけは避けたいと思うと、浮き過ぎちゃう時もあって。そこはもう練習するしかないと思ってます」

 試合でできることが一つひとつ増えていき、その精度が上がっていく。成長のプロセスを観るのもまた楽しみのひとつだ。

サポーターは僕たちの力になってほしい
ひとつになって鹿島戦に臨む

 フル出場しているのは今のところリーグ戦1試合、ナビスコカップ2試合。途中退場、途中出場という起用がもっとも多い。

「サイドのポジションは一番走るところで一番キツいっていうのは、わかっているけど、最初から出し惜しみするのではなくフルパワーでやって、そういう中で戦術面であったり、疲れであったりで交代があるって思う。最初は、90分間フルにずっと走れるということがなかなか出せなかったけど、今は最後になっても足が止まらずに1歩前に出たりっていうのが自分の中で少しはできてきたかなと感じてます」

 自らペースを握って走れば90分間フルパワーで行ける、そんな自信もついてきた。

「僕がいつもピッチに入って一番考えることっていうのは、守備の時の、“攻撃的な守備”。相手に合わせずに自分からしっかり判断してやる守備です。それがうまくいった時っていうのは全然キツくない。
 この間のセレッソ戦は、すごくキツさを感じて。あれはホント、相手にうまく動かされた」

 今シーズン、一番苦しかった試合と振り返ったのは、10月19日にアウェイで行われた第29節vsセレッソ大阪戦。先制しながら主導権を握れず、相手に狙い通りの攻撃を許してしまい、最後のところを守り切れず、敗戦を喫した試合だ。

「駆け引きというか、相手の巧さというか、自分がマークしている選手がいいタイミングで走り出すから、それに自分も付いて行かざるを得なくて。でも付いて行くと、自分が元いたスペースに違う選手が走り込んできて、そこにパスを出されて。出されたことでまた自分が行かないとだめなんで……。
 そういうことで今までで一番キツかったかなって。攻撃的な守備っていうのが自分の中でうまくいっている時もあるので、どんな相手になってもうまく考えてできるようになればいいのかなって思いました」

 対戦相手からも学ぶことが多く、すべての経験が糧となっている。

「自分たちには自分たちのスタイルがありますし、セレッソを真似しても勝てるとは思わない。でも、部分部分を観ると、セレッソの選手の動きであったり、見習わなければならないプレーもあると思う。自分たちの攻撃の時にそういうことをしていけば相手はキツいんだなっていうのもすごく感じました。
 こういう戦いの中で僕たちは湘南スタイルっていうのをブレずに1年間通してやってきた。今年頑張ってJ1に残って来年またもう1回、J1でスタートして湘南スタイルを貫けば、もっと良い年になるんじゃないかなって自分としてはすごく思っている。だから残りの試合は本当に大事です」

 湘南スタイルへの自負。そこには、選手自身が感じる自分のスキルアップ、そしてチームの成長がある。

「スタメン争いも良い刺激になっていると思います。他のチームを見ると、結構固定されていて、出られない選手はモチベーションが落ちたり、温度差が心配になると思うけど、うちのチームはスタメンが一気にガラッと変わったりすることもあって、ほとんど固定されていない。だから今回選ばれなくても、そこから切り替えて次の1週間頑張ればまたチャンスがある。毎日毎日が競争だからこそ、チーム全体で成長できているのを感じています」

 特に高いレベルでの舞台がその成長速度を速めている。それがわかっているからこそ、J1という舞台で戦い続けたい思いも強い。

「まだ可能性がゼロになったわけじゃないし、チームであきらめている人は誰もいない。去年も昇格争いをしていて、残り6試合の時に3引き分けの後、最後は3連勝の流れだった。そういう経験もあったと考えれば、4連勝が不可能なわけじゃない。去年も京都(サンガFC)の方が勝ち点上で最終戦に挑んで、逆転して上がったっていうこともあった。本当に可能性がゼロにならない限りは絶対にあきらめないし。この1年間やってきた湘南スタイルっていうのを信じて、自分を信じて、仲間を信じて、スタッフを信じて戦えば大丈夫だと思ってます」

 可能性はゼロではない。ただし、この後の4試合は上位に食い込む手強い相手が待っている。

「あと先考えてもしょうがないので、残り4試合というよりは、まずは次、鹿島(アントラーズ)との一戦で絶対に勝点3をとる。そこで負けたらどうなるかって周りやメディアは考えると思うんですけど、僕の中では勝ち負けはやってみないとわからないものだと思っているし、本当にその1試合が決勝戦だという気持ちでやっていきたいと思う。同じ人間がやることだから、鹿島が上だなんて絶対に思わない。そのために、練習を大事にして、最高の準備で戦いたいと思います。
 僕たちは全力で頑張るので、ひとりでも多くの人にスタジアムに足を運んでもらって、僕たちの力になってくれたらうれしい。選手・スタッフ・サポーター、ひとつになって頑張っていきたい」

取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行