ボイス

2013.10.19

【ボイス:10月19日】大竹洋平選手の声

左足に吸い付くようなボール扱いと、広い視野を確保し、
常にゴールを狙う姿勢が印象的な大竹洋平選手。
ボールを持った瞬間に、ピッチ内は前へ向かう意志を加速し、スタジアム全体がシュートシーンを予感した高鳴りに包まれる。
夏に新しく加わった仲間は、見慣れた湘南スタイルとベクトルを同じにするプレーヤーだった。
今回の移籍は、中学時代に出会った曺監督が導いたもの。
その出会いを振り返り、曺監督が指揮を執る湘南スタイルで水を得た魚のように躍動する今を見つめる。

ゴールへ向かうプレーがウリ
得点もアシストもまだまだ足りない

 Jリーグでは開幕して4カ月経つ頃に、夏の移籍の登録ウインドーがオープンする。クラブにとってはここまでの戦いを踏まえてのウイークポイント、あるいは足りないと思われる部分を補強し、シーズンを最後まで戦い抜く戦力を整える最後の調整期間となる。選手にとってみれば、試合への出場機会がなかなか得られなかった場合などは、その状況から抜け出し新しい環境を求めるチャンスとなる。
 ベルマーレでもこのタイミングで何人かの選手が入れ替わった。新たに加入する選手に求められたのは、勝ち切るための攻撃力。そのひとりである大竹選手は、8月17日に行われた第21節、ホームで迎えたジュビロ磐田戦でベルマーレデビューを飾った。

「曺さんには前からよく気にかけてもらっていたんです。それでこの夏、移籍期間ギリギリだったんですけど声をかけてもらって。去年、怪我をして1年プレーしていなかったり、そういうこともあって少し悩んだけど、チャレンジしようと思って来ました」

 FC東京の下部組織で育った大竹選手は、希少な左利きの攻撃的な選手。2008年にトップチームへ昇格し、今年でプロ生活6シーズン目を迎えた。しかしその間、公式戦にはコンスタントに絡みながらも主力として定着するには至らず、クラブがJ2リーグを戦っていた2011年シーズンは夏からセレッソ大阪へ期限付き移籍を経験している。
 昨シーズンはFC東京へ戻ったが、早い時期に左膝の前十字靭帯を損傷し、ほぼ1年間を治療とリハビリで過ごすこととなってしまった。通常練習に部分的に合流できたのが今年の2月、完全復帰を果たしたのは3月に入ってからだったという。

「復帰しても最初の頃は自分自身が思うようなプレーができなかった。それでも6月、7月くらいには、自分のプレーも出せるようになってきて、調子もすごく良くなってきたんですけど試合にはなかなか絡めなかった。その時期に、移籍の話をいただいた。怪我で長くプレーしてなかった不安は多少あったけど、それでも“やれる”っていう自信を持ってきました」

 不安と自信が交錯する揺れる気持ちをポジティブな決断へ導いたのは、曺監督の言葉だった。

「来る前に一度曺さんとも話をさせてもらった時に、俺が入ったら、こういうところでこういうプレーで貢献してほしいという話をしてくれました。
 そのひとつに左利きの中盤の選手がいないっていうのがあって、そこで少し変化を加えてほしいということだった。確かに左利きがいないっていうことは貴重な存在になれるかなと自分も思いました」

 実際にベルマーレの一員としてピッチに立ち、戦ってみた最初の試合の感想は

「思った以上にみんなすごくハードワークできるし、前をすごく意識してプレーしているのですごくやりやすい。すぐに馴染めたと思います」

 自身のプレースタイルが湘南スタイルのベクトルと重なる。それだけに特徴も活かしやすい。

「曺さんは、“前を意識してプレーする”だとか、“簡単にボールを下げない”とか、前へ前へという考え方を要求している。これは、意識次第。そういう意識でみんながプレーしているので、それが自分にとってもすごくやりやすい」

 ゴールへ向かった時にこそ輝く選手。パスやドリブルなどの技術も高く、得点に絡むプレーほどセンスを発揮する。
 現在は、シャドーの位置での出場が多いが

「自分自身は、常に前を意識してゴールに向かっていくプレーが合っていると思うし、なるべくゴールに近い位置でプレーしたいのですごくやりやすい。ただ、みんなが前に意識を持ってくれないとボールを受けることができないポジションでもあるので、みんながそういう意識を持っているから自分がゴールに絡むプレーやゴールに近い位置でプレーできているというところがあります。
 実際には、まだまだゴールは足りないと思うし、1試合を通して自分でシュートまで持っていく場面もまだまだ少ない。あのポジションだったら、自分でもゴールを取らなきゃいけないし、アシストもしなければいけない。もっと自分でシュートまで持って行く場面を作っていけたらもっと良くなるんじゃないかと思います」

 試合の中で意識しているのは、「前を向くチャンスを逃さないこと」と語る。湘南スタイルに新しい魅力をもたらした新戦力には、得点力アップのためにチャンスをさらに増やすプレーに期待がかかる。

レッドカードの悔しさと責任感は
勝ち点3を狙うモチベーションに

 大竹選手が曺監督と出会ったのは、中学1年生の時。

「関東トレセンとナショナルトレセン(ナショナルトレーニングセンター制度)に行ったんですけど、その時に教わったのが最初です。
 中学1年だったんで具体的なことははっきりとは覚えてないんですけど、曺さんは褒めるところと指導するところの使い分けっていうか、教え方がすごくうまいっていうか、そういうところがすごく印象に残ってます。そこからずっと覚えていて、Jrユースで対戦した時とかにも声をかけてもらったりして、試合するたびに挨拶をしていました」

 曺監督にとっても大竹選手には思い入れがあるようで、出会った頃の印象として「天才だと思った」と振り返る。その言葉について大竹選手自身は、

「ありがたいことですけど、トレセンはみんなレベルが高かったので、そこまでやれていたとは自分では思いません」

 トレセンでの出会いからJr.ユース、ユース時代を経て、トップチームに昇格してからも練習試合などで会うたびに声をかけられ、その時々の状況を話していたという。
 プロ選手となった今、再びその指導者のもとへ。

「やっぱり中学の時の印象と同じで、指導の仕方というか、一人ひとりをしっかり見ていてくれるので、本当にありがたいと思います」

 選手の個性や性格を見極めた曺監督から、つい最近も心に響く指導を受けた。それは、レッズ戦でレッドカードをもらった時のこと。

「退場した時に、『退場したことは確かに良くなかったけど、お前がああいう気持ちのこもったプレーをしたというのはチームに良い影響を与えると思う。もう1回同じことをしたらだめだと思うけど、この経験を次に活かしてやっていければお前も成長できる』と言ってもらったことが心に残りました。もっとやらなければというか、次からはこれを活かしていかなければいけないなっていう気持ちになりました」

 大竹選手は、口数多く自分自身を語ることはなく、喜怒哀楽も大きく表現するタイプではない。最大の表現手段は、サッカーをプレーすること……。曺監督は、ただ勝ちたい一心のプレーをとがめることはなかった。

「プロになって初めてレッドカードをもらったんですけど……、うーん。自分の中では熱くなってしまってファウルをしようと思ったというよりは、普通に守備をしている中で、ボールを取れると思って行ったら、たまたま足がかかってしまったっていう感じだった。ただ勝ちたいという気持ちはすごく強かったので、すごく悔しかった。その後すぐに追いつかれてしまって、責任もすごく感じましたし」

 振り返れば、このカードを受けたことには経験不足も重なった。

「試合中にカードをもらったことがあんまりなかったので、そういう意識がまったくなかった。そこは自分の経験の浅い部分だったとは思います。やっぱりあの場面は、自分が1枚もらっているっていう意識をもっと持たなければいけなかった。 そういうことが今回学べたことだと思うし、本当に次に活かさなければ。
 あの試合では、勝ち点1しか取ることができなかったので、次に自分が出た時にはその経験を活かして絶対に勝ち点3を取れるように.残りの試合に活かせたらと思います」

 レッドカードの経験は、どんな実りをもたらすか? この悔しさは、勝ち点3への原動力となることは間違いない。

ハードワークすることによって
自分が活きる湘南スタイル
 

 曺監督が指揮するサッカーのコンセプトを理解して移籍を決めたが、ベルマーレに来る前には、「がむしゃらに走る」イメージがあったという。

「来てみて、みんなチームのために走れるし、足元もしっかりしていてパスも繋げる、すごく良いチームだなって思いました」

 シーズンの始めの頃は、相手チームのプレーの質や技術の高さに振り回され、J2リーグでできたことが表現できず、結果自らの意志で走るのではなく、相手の狙い通りに走らされる状況に陥っていた。がむしゃらに走り、疲れ果てて足が止まる試合もあった。それでも曺監督は、湘南スタイルを貫き、J1のレベルで自分たちのサッカーを表現することを求めてきた。大竹選手の言葉からは、その成果が実りつつあることがわかる。

「ここに来て、チームとしてやってきたことがちょうど身になってきた、みんなでできるようになってきたっていうのはあると思う。その中で自分は自分の良さを出していければ。
 自分の良さはすごく出しやすい環境にあると思う。チームとしてハードワークして、その中で自分の良さを出して、それを結果に繋げていかなければいけないと思います」

 勝ち点3という結果はなかなか得られていないが、この時期にくれば負けないことも大切。大竹選手やウェリントン選手といった新加入選手が刺激となったのか、チームの成績も向上の兆しを見せ、地道に勝ち点を積み上げることもできるようになってきた。

「(ベガルタ)仙台戦(8月31日開催第24節)は、チームとしてなかなか勝てていない時期だったので、あそこで勝てたのは大きかったと思いますけど、でも試合内容的にチームとして良かったのはやっぱり(浦和)レッズ戦(9月28日開催第27節)。特に後半は自分たちのスタイルが出せていた。勝てれば一番よかったんですけど」

 4月14日にアウェイで戦った第6節の試合を振り返れば、互角以上の内容に誰もが手応えを感じるところ。翌節の名古屋グランパス戦も、レッドカードによる出場停止のためスタンドから観戦することになったが、レッズ戦同様の手応えを感じた。

「観ていてすごく良かったと思います。前半からチャンスも作っていましたし、後はそこを決めるだけっていうところだと思うんですけど。
 まぁでも、今までもそこを決めるだけっていう試合は何度かあったと思うので、本当にそこを決められるようにしていかなければ、この先は勝てない。やっぱりそういうところで決められるように自分も含めてみんなで練習からやっていきたいと思います」

 今シーズンも残すところ6試合となった。順位は未だ降格圏にあるが、開幕から7カ月の変化を振り返れば、このチームがどこまで強くたくましく成長するのか、期待は膨らむばかり。選手一人ひとりが放つ輝きを感じながら、1試合1試合をともに戦いたい。

取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行