ボイス

2011.06.01

【ボイス:6月1日】曺貴裁コーチの声

 試合中は、反町監督のブレーンとしてともに戦術ボードを見つめ、馬入グラウンドでは、居残り練習をする選手が全員上がるまで誰彼となく話し込む。チームの中でおなじみとなった曺貴裁コーチのそういった姿は、その強面の風貌とアグレッシブな空気感から強烈な存在感を放つ。
 今回のボイスは、曺コーチが考えるコーチの仕事を軸に、監督や選手との関わり、そして在籍7シーズンとなった、ベルマーレというクラブへの思いを聞いた。

監督のもとでまとまりながらも
ゆるぎない自分を持って

「コーチのイメージとしてよくあるのが、監督の求めること、言われたことを忠実に遂行していくというもの。監督が『A』と言ったら、『そうですね、Aですね』という。でも俺は、そういうのは本来のコーチの仕事ではないと思うわけですよ。監督だろうが、コーチだろうが、チームが勝つためにいるわけですから、決して生意気な目線で言っているわけではなく、監督が言ったことに対して、『絶対それでいった方が良いと思います』と後押ししたり、『いや、俺はこう思うんですけど』って意見したり。コーチだからという立場で監督に言われたことをやるのでは、失礼な言い方かもしれないけど、誰でもいいし簡単だと思うんですよ。だから僕は僕のスタンスを保ちながら、ソリさん(反町康治監督)のやり方を通してチームの方向性をサポートしていこうと思っている」

 コーチの仕事の定義付けから、曺コーチらしい、オリジナルの答えが返ってきた。

「もちろん監督が最終的には全部決めていくことだから、自分が前に出てということではなく、監督のもとでまとまっているというのが前提ですよ。
 ただ、監督ごとに方法論だとかアプローチが違うことはあったとしても、どんなサッカーでも絶対に失っちゃいけない大事なものがあるという話をしていくことが大事だと思う。だから僕は、誰が監督になってもコーチとして自分のスタンスを決めてサポートしていく。もちろんそこには、監督との信頼関係が大事なのは言うまでもないのですが」

 確固たる自分を持ちながら、監督をサポートしていく。それが曺コーチのコーチとしての姿勢。その信念で、反町監督がベルマーレの監督に就任したのと同時に、ユースの監督からトップチームのコーチへ就任し、3シーズンをともに戦ってきた。

「ソリさんは、サッカーのことをすごく勉強されている人だし、現状に満足することもない。
 最初の頃は、『そういう考え方もあるんだ!』っていう驚きも多くて 、ついていくのに必死だった。そういういろんなことを乗り越えて今があると思っている。
 それに、ソリさんがやりたいサッカーと、俺が求めているサッカーが結構似ていた。実際、話したことはないんだけど、例えば、守ってばかりじゃつまらない、攻めないとって。前でプレーすること、前に行くってことも含めてね。そういう意味では、違和感は全然なかったですね」

 曺コーチを、“ついていくのに必死”にさせたのは、

「俺が感覚的に思っていたことをソリさんは、言葉で表現したり、具現化していた。言葉に落とし込むことがわかるようになったというか。『この言葉を使えば表現できるんだ』という勉強にもなった。それで自分のサッカー観だったり、『こうした方が良いんじゃないか』という考えが膨らんで、それをソリさんと共有したり、『いや、俺はこう思う』という話をしたり」

 イメージを言葉に落とし込めると、その上に積み重ねる思考やアイデア、行動に差が出る。反町監督の一歩先を行くやり方の影響を受けて、もっとも成果を感じているのが、セットプレーについてだ。

「特に守備の考え方をすごく学んだ。今、俺はセットプレーについては、見る時間とか考えることとか、他のチームには絶対に負けてはいけないと思うし、セットプレーで絶対にやられちゃいけないって俺が思っていると、選手も感じてくれている。すごく勉強になりました」

 日々学びながら、昇格と降格を1年ごとに経験し、厳しいシーズンを支えてきた。

「監督って、想像するに本当に大変な職業だと思うので、状況によっては孤独を人一倍感じてしまう職業だと思うんですよ。だから、俺という存在が、何でも言える人だったら良いと思うんですよ。監督も何でも言える人が隣にいたらラクじゃないですか。俺もソリさんは監督だけど、基本的には思ったことは言ってるつもりなので。そういうのを受け入れてもらっているのは、ありがたいですね」

 コーチングスタッフのチームワークの良さは、試合の時も練習中も、観ている人に伝わっている。だからこそ、と期待も高まる。

成功を夢見る選手たち
心に燃える炎を燃やし続けるのも仕事

 馬入グラウンドでは毎日、全体での練習が終わると、選手たちは思い思いにグラウンドに散り、シュート練習をしたり、パスの練習をしたり、自分がもっと磨きたいと思うスキルの向上に取り組みはじめる。そういった選手たちに声をかけては、話し込む曺コーチの姿がある。

「選手はプロだから絶対に成功したいと思っているし、試合に出たいと思っているし、活躍したいと思っている。若いヤツからベテランまで。でも、頑張って評価されないと試合に出られないっていうのもわかっている。その気持ちをちゃんと燃えたままにしてあげるっていうのも僕らの役目だと思う。俺は、自分が生きている中で指導者っていうものをやらせてもらっていますが、選手やスタッフ、周りの人が今、何を感じてどうしているっていうことと向き合うのも仕事だと思っています」

 試合に出られる選手は、11人。リザーブの7人を加えても、約半分の選手が試合を外から見守ることになる。シーズンは長いが、それでも試合になかなか絡めない選手のモチベーションを保つのは、難しい。しかし、そういった選手が意識を高く持ってこそ、チーム力が向上していく。

「俺は、選手が聞きにくるまで待つっていうタイプではなくて、『こいつ、今こう感じてるんじゃないかな』と思ったら、自分から言いにいく。
 コーチというのは、その選手が本来持っている力を表現できない時、表現できないようにしている問題を引き出して、解決する手助けをするのも仕事。
 人の行動ってすべて何かに起因する。例えば学級崩壊に繋がるほど荒れている子どもでも、ひとつの原因を取り除いて、その子が自分のことをわかってもらえたと思えた瞬間、クラスにとってプラスになる行動をする子どもに変わる、ということがある。大人も一緒で、その選手の存在価値とか意義を認めることのほうが、100本シュート練習するよりもチームにとってプラスになることがある。その選手の心が変わらないと伸びないわけだから」

 曺コーチの起こすアクションは、いつでも選手のため。その観察力は繊細で、見つめるまなざしは温かく、そして冷静で理論的だ。

「その選手が、例えばキックミスしてオウンゴールで失点してしまったとする。その時に、『なんでオウンゴールするんだよ』といってもしょうがない。一生懸命やった結果だからね。でもそのプロセスとして、そのミスは、この前の練習の時にこういう場面があったけど、そこで集中が切れた瞬間があったことがこのミスとして出たのかもしれないぞ、という話はしますね。だから、そういうところからしっかり、どのプレーもなんとなくこなすのではなくて、しっかり意識をしてプレーする、ということをしていれば防げたかもしれないと。ミスっていうのはしょうがないけどね」

 『試合の運命は練習で決まる』とは、反町監督が常々言っている言葉。その言葉を具現化していくと、ミスへ至るプロセスを一つひとつ検証していくという作業になるのだろう。曺コーチと監督が同じ意図を持っていることがわかる。
 また、反町監督は、ポイントを抑えて選手と接することが多いため、選手は曺コーチを通して、監督の要求していることの理解を深めていくことが多い。

「ソリさんは、すごくシャイな人だと感じるんですけど、人付き合いを大事にする人。だから選手にも言ってるんですよ、『もし、疑問があったら監督に、“僕はこう思ったんです”と言ったら、ソリさんは絶対受け入れてくれる人だから』って。ま、なかなか選手は行かないけど(笑)。そりゃあなかなか行けないだろうね。でも、行くこと自体が良いということではないので。それは俺が聞いてあげれば良いことでもあるし。選手も俺がソリさんときちんと話しながらやっているのは、理解していると思うし。そこがズレていたら選手も俺に聞けないだろうけど」

 選手たちは誰でも、曺コーチとのエピソードを持っている。それはさまざまなインタビューの中で語られている。監督と選手をつなぐ、ゆるぎない信頼には、曺コーチの人柄が一役買っている。

J1に定着する力をつけるために
自分たち自身を磨き抜く1年に

 クラブとして、今、最も大きな目標は、J1に昇格すること。そして願わくば、きちんと定着すること。そのために今シーズンは、選手が大幅に入れ替わり、戦術にも変化があった。しかし、

「選手がグラウンドにいるときの温度とか空気とか、そういうことを尊重することを踏まえてソリさんはチーム作りをしていると思うので、見てくれは変わった印象があるかもしれないですけど、ベースにある考え方は一緒だし、はつらつとアグレッシブにプレーをしようというのは、どんなサッカーをやろうと一緒なので、全然変わってない」

 新しく来た選手たちの個性を活かすために方法論は変わっても、根底に流れるものに変わりはないと語る。

「もちろん1年でJ1に上がるのが目標ですけど、もっと考えなきゃいけないのはJ1に上がったあとに何ができるのかということ。我々は、去年J1で結果を出せなかったということを忘れてはいけないと思うんですよ。中途半端なことじゃやられてしまう、通用しない。そのための1年にしなきゃいけない。そういう意味では、常に自分たちにベクトルを向けていなければならない」

 2年前に昇格をめざした時は、相手のことを分析し、上回るために自分たちの良さをどう活かせば良いのかを中心に考えた戦い方をしてきた。しかし、ぎりぎりで昇格を果たしても、結果は1年での降格。昨年は、自力を付けなければ、トップリーグを戦い抜くことはできないということを自分たち自身にたたき込んだ1年となった。

「横浜FC戦(4月30日実施第9節)みたいに、一生懸命守られた時にゴールをこじ開けられなかったらやっぱりJ1では戦えない。それはJ1を経験したからわかること。やはり内面からわき上がるものから作っていかないとJ1では戦えないと思う。だから勝った負けたで一喜一憂する必要はまったくない。負けて良いということではなくてね。それはコーチとしてすごく思うし、選手を見ていてもそう感じていると思う」

 2009年のときと目標は同じJ1昇格でも、今めざしているのは、遥かな高みだ。

「僕自身も違いますね。2年前は、その試合のことしか考えられなかったというか。でも今は、どういうサッカーで勝っていけるのかっていうのをより深く考えますよね。もちろん勝つことは大事なんだけど。横浜戦は負けたけど、2年前はああやってゲームを支配してチャンスも何回もあったけど、点が取れなくて0対1なんて無かったと思うんですよ。どっちかっていえばリズムが出なくてなんとなく相手にボールを持たれて、よく1点で収まったなとか、2点で収まったなとか。それは力がどちらにある無いにかかわらず。負け方も変わってきてると思うし。でもああいう相手のゴールをこじ開けられないのは、我々の甘さがあるわけだから、そういうところをきちんと見ていかないと、とは感じます」

下部組織に託した夢
今ある実りは2005年にまいた種

 2005年にJr.ユースの監督を務めて以来、ベルマーレに在籍し、7シーズン目を迎えた。

「俺が来た2005年に、2015年には育成出身の選手がトップチームの半分を占めるという『Future2015』というのを作って始めました。それもその時には夢みたいな話だった。どこのクラブのユースでも、トップチームに行ける選手が何人もいるわけじゃないですから。でも、そういう言葉を発することで、自分にも、周りの見る目も含めて、良い意味でのプレッシャーがかかって、そこに関わる人全体のモチベーションが上がった。
 南アフリカワールドカップの時に岡田さん(前日本代表監督)が『ベスト4をめざす』って言って、ほとんどの人が『無理だよ』って思ったかもしれないけど、結果を見ればリーダーである人がそういうことを言うのは大事なんだなって思います。やっぱり、夢を持たないと現実になっていかないのかなって、最近は感じますから」

 当時は、ユースからトップチームに昇格できる選手は、多くて1人。誰も昇格することなく、そのまま卒業していった年も多かった。

「当時はまだ大神にいて、グラウンドもクレーのグラウンドしかなくて、照明も暗い中でやっていたんですけど、その時僕が見た中学2年生の代が古林将太(現ザスパ草津)の代ですよ。鎌田(翔雅)もその時は高校1年生で。その上に猪狩(佑貴)がいて、大介(菊池)が入ってきたり、その次に航(遠藤)が出てきたり。彼らが子どもから大人になるところを僕はずーっと見てきた。彼らの歴史をずっと見ていて思うのは、俺がというより、クラブが育成を本当に大事にやっていくんだという気持ちがなかったら、今の現実はたぶんないということ。俺ひとりがそう思っても無理ですもん。みんなで感じていかないと」

 ここ何年かは、高校生ながら2種登録され、リーグ戦に出場する選手が毎年いる。今シーズンも、河野諒祐選手が登録された。

「ベルマーレで僕がユース時代に関わった選手もいるし、永木(亮太)や薫(高山)みたいに、俺が指導者として駆け出しの時に(川崎)フロンターレで預かった選手もいる。あの頃は、正直、こんな世界があるなんて夢にも思わなかった。自分が預かった選手がトップに上がって、一緒に戦うなんてことは、それこそ夢みたいな話なんですよ。
 下部組織といってもプロになれない選手の方が多い。だからユースの指導をしていた頃は、サッカー選手としてというより、人間として絶対にしなければいけないことをずーっと言ってきた。期間の大小はあれ。特にフロンターレでは、ドイツから帰ってきて指導者を始めた最初の3年間だったから、今考えると、よくあんなに厳しくしたなっていうくらい厳しくしていた。今彼らと会って思うのは、『もっとこういうことを教えてあげれば良かった』というのももちろんあるし、『こういうことができるようになったんだ』という驚きもある。共通していえるのは、二人は独立していて、自立して、それでこのチームを選んだということ」

 永木選手や高山選手と再び同じチームで戦う縁。彼らの選択について曺コーチは、自分の影響はないという。しかし、永木選手が入団を決める前には、

「選択というのは、自分自身で決めるべきだけど、このチームはお金があるからとか、強いから、かっこいいからとか、見た目のところでは絶対に決めるなと。お前のことを本当に必要としてくれて、お前が成長できるということをフラットに並べて考えて行けと。他人が、『なんでここに行かなかったんだ』と言うかもしれないけど、最終的にお前の人生はお前が決めるのだから、そういう選択の仕方で決めてほしい。お前がどこのチームを選んでも俺はその選択を尊重するし、うちにきたら一緒に頑張れば良いしっていう話はしたことありますね」

 永木選手はすでにチームにとって必要不可欠な存在となっている。永木選手が何をどう考えて、このチームを選んだのかは彼自身に聞く機会に譲ることにして、曺コーチがこのチームにいる理由を尋ねてみた。

「僕がこのクラブに長年いさせてもらっているのは、その理念とか精神に共感した部分がありますよね。眞壁さん(代表取締役)の人柄も含めて、作っているマニフェストとか。一緒に成功したいし、そういうことを発信している人は、言葉は変ですけど、男になってもらいたい。それはソリさんも同じです。クラブの規模のことは、どうでもいい。その理念だけ。俺がやらせてもらっている理由で、実はそれが一番大事かもしれないですね」

 11年ぶりのJ1昇格、そしてたった1年での降格についても、

「ソリさんも言っていたけど、次にジャンプアップするための何かのきっかけかもしれない。そういう意味では、物事をポジティブに捉えていくのも能力だから、そういうふうにコーチや指導者が、選手や対外的に振る舞っていかないと。うちはお金がないから、J2に落ちたから、だからダメなんだよこのクラブ、なんてことを言い始めると、やっぱりそういう空気になっていく。でもそういうのは、自分が仕事をしていて、すごく許せないこと。
 クラブとして何をめざして、何を大事にするか、力点がはっきりしたクラブだから、思ったことはやりやすいところですよね」

 次のジャンプアップでは、J1に昇格するだけではなく、定着するという大きな仕事を成し遂げなければならない。それでも、ユースから昇格してきた選手たちがチームの核に成長してきた今を見れば、その目標も必ずかなうと信じられる。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行