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【ボイス:5月14日】阿部吉朗選手の声

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 J1リーグが開幕して、約2ヶ月。勝ち点を得ることの難しさを感じる戦いが続いているが、それでもその1試合1試合の中で選手たちがさまざまなことを学んでいることは、見ている側にもはっきりと伝わってきている。その、積み重ねた経験を糧にした結果がカタチになったのが、4月25日に行われた第8節のホームの試合。待っていた2勝目を挙げた。

 この日の相手は、昨年一緒に昇格し、1勝1敗1分けと五分の戦いを演じたベガルタ仙台。互いに手の内を知りつくした相手だった。この試合で決勝点を挙げたのは阿部吉朗選手。一進一退の攻防が続いたゲームの中で、渾身のヘッドでゴールを奪った。

 試合後、「練習の成果を狙い通り試合で出すことができて本当に良かった」と語った阿部選手だが、チーム内で1、2位を争う練習のムシの阿部選手の口から出ると、“練習の成果”という言葉がまさに宝石のような輝きを放つ。

 今回は、その劇的なプレーを支える練習にかける思いを中心に、J1での戦いの中で感じている、阿部吉朗流J1生き残りの道について、話を聞いた。

voice_100514_04ずっとサッカーを続けたいと思った幼い頃に描いた理想、
今もその理想を追い続けて。

 サッカー選手にとって公式戦は、何よりの晴れ舞台。まずは、このステージに上がるために、そしてそのステージで最高のパフォーマンスを出すために、日々練習に取り組む。毎日の練習こそが勝負の鍵を握っている。
 この練習への取り組みに表れるのが選手たちの個性。今回注目の阿部選手は、全体練習が午前中で終わっても、帰り支度が整うのは日射しがやや傾き始めた頃というほど練習熱心な選手。自分が納得するまでシュートを練習し、筋トレを行うのが日課になっている。飽きることなく、かといって特別なことと意識することもなく、日々繰り返されている。

「高校の頃から、例えばシュートがズレたらその原因はなんだろう?と考える。シュートがズレたということは軸足が悪いのかな?軸足が悪いということは、軸足を置く位置が悪いということ?置く位置が悪いというのは、バランスが悪いのかな?じゃあバランストレーニングから始めたり、だとか。
 シュートがズレるのは当たっている所はもちろん悪いんだけど、そこから遡ってどんどん原因を探って、原因と思われるところからトレーニングする。それが正しいかはわからないですけど、そういうのは結構考えながらやっていましたね」

 練習熱心、というよりはサッカーを突き詰めて考えたらこうなったというところのようだ。

「筋トレも毎日じゃないんですよ。ただなんかね、僕、自分の中で決めたプランをやらないと帰りたくないんですよ。それが全部終わってはじめて帰れるっていうイメージがある。それを途中で、『今日はやめておこう』ってなっちゃうと気持ち悪いんすよ。それが良いところであり、悪いところでもある。
 やっぱり身体が疲れたら帰るっていう臨機応変さは必要だし、そういう面では自分の身体と相談しながらやらないといけないけど、でもホントに気持ち悪いんです。省いたりすると、なんかさぼった気がして。賢くやっていかないといけないとは思ってるんですけど」

 居残りのトレーニングプランは、阿部選手オリジナルのもの。

「どういうふうになりたいかっていうのがまず第一。そのためには何が必要で、何をしなきゃいけないのか。でも怪我だけはしないように。練習は試合のためにするもので、試合でどれだけできるか、だから。肉離れと風邪だけは選手自身の責任なので。
 練習に対する考え方というのは、いきなりはうまくならないけど、続けないともっとうまくならない。だから練習して練習して、それが少しずつ感覚として積み重なっていけばいいというふうな感じです。
 1日目はできなくても、2~3日それを繰返すとちょっと変わってくるんですね。『あ、こんな感じなのかな』という感覚が出てくる。かといって全然へたくそなんですけど。それが今度3週間くらいになると、サマになってくる。3ヶ月くらい続けるとある程度できるようになって、3年くらいで自然に出せるようになる。そういうイメージでやってるんです。すべて3がつくんだな、と」

 身に付いたプレーとして自然に身体が動いた3年後を何度か経験したからこそ言える言葉。練習は裏切らないということを実感している選手のひとりだ。
 では、何をきっかけに、そしていつの頃から積み重ねてきたのだろうか?

「Jリーグができたのが中学生の頃で、小学生の頃にはJリーグができるのはわかっていたので、その時からプロになりたいと文集にも書いていた。その頃からプロになるためにやらなければいけないことをいろいろ考えてやっていたんだけど、入学した高校がそれほど強い高校じゃなくて。全国の強豪チームは、やっぱり練習の環境も良いし、そういう学校と渡り合うためには、質が劣るなら、量でカバーしようと思ったんです。いつでも考えているのは、どう競争していこうかということ。その結果が練習量を増やすということだった」

 サッカーを始めたのは幼稚園の頃。やっぱり『キャプテン翼』が大好きだったという。とはいえ、幼い頃は野球の方が盛んな地域に住んでいて、サッカーは遊び程度。本格的にのめり込んでいくのは、小学校3年生の時に引っ越した先で、筑波大学の学生や監督に指導してもらえる環境を得てからだった。
 また、高校も強くなかったとはいうが、現在の流経大学の監督が指導をし、元Jリーガーたちからも教わる機会があったという。そういう環境の中でプロを身近に感じていた。

「小さい時って、なんでもやればできるって思うじゃないですか?どこにいても、強くないチームにいても、自分の努力次第で頑張ればできるって。そういうのはあったと思います」

 まさに阿部選手は幼い頃に描いた夢を叶えたのだ。そして、自分の努力次第でプロになれる、を実践し続けて今に至っている。

「理想はもっと高かったんですよ(笑)。今でもまた新しい理想を求めながら、しっかりやっていこうと思ってる」

 その新しい理想を教えてもらおうと尋ねたが、そこまで到達してないので今は言えないということだった。それでも小学生の時に夢に見た理想の一端を教えてくれた。

「僕が小学校の時に、プロの選手を見て、『すげえな、こうなりたいな』と思ったのが、都並(敏史)さんです。僕、ヴェルディのジュニアユースを受けに行ったんです。でも中学校が全国大会でベスト8に入るくらい強かったので、結局は中学でサッカーを続けたんですけど。そのヴェルディの試験を受けた時に、試験後みんなで出待ちをしたんです。選手は車で裏から出ていくんですけど、都並さんは、並んでいる全員にサインを書いてくれて。僕はバルセロナのユニフォームを着ていたんですけど、サインをもらったときに『すごいな』って思った。ヴェルディの選手は、小学校時代にすごく憧れました」

 中学校に上がる前にヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)の下部組織への入団テストを受けた阿部選手。その時、ヴェルディ川崎に所属していた都並氏と未来へつながる運命の出会いを果たした。現在、都並氏は解説の仕事もされているため、馬入グラウンドを訪れることもある。そんな時は挨拶もするというが、そういう時にはやはり小学生の頃の憧れの気持ちがよみがえってくるらしい。

「だから、自分が小さい時にプロの選手を見て、『ああ、なりたいな』『すごいな』と思った選手に、今、小さい時の自分から見てなっているかな?っていうことを自分に問いかけます。まだもっとできるんじゃないかっていう思いがある。小さい時の自分が将来の自分を見て、『残念だ、こうはなりたくない』っていうような選手になりたくないと思って頑張ってます」

 成長するに従って、未来に描く夢が変わるのはよくあること。そう考えると、子どもの頃の視点で、今の自分を振り返ることができる人は、そんなに多くない。だからこそ、初志貫徹、小さい頃の夢を一途に見続け、叶えた阿部選手にしてみれば、それなりに自分に問うことがあるということ、らしい。

「僕はサッカー選手になりたいって小さい頃思ったけど、それを思ってなかったら、今、そういう振り返り方はしないと思うんです。逆に、違う仕事に就いていても、別に今はそれがベストだし、頑張ってきたからそれで良いと思う。でも、僕は小さい時の夢がサッカー選手で、今もサッカー選手だから。小さい時の理想があるから考えるんだと思います」

 では、その小さかった頃の自分から見ての評価はというと?

「いや、まだまだですね。まだまだっていうか、『お前、もっと頑張れよ』って感じだと思います。小さい時は、もっと行ける、もっと行けると思っていたので。そういうところから見ると、『へったくそだな』って思うかもしれない。でも本当にちょっとでも理想に近づけるように頑張っていかなきゃなって思ってます」

 毎日の練習に取り組む阿部選手が問い続けるのは、子どもの頃の自分。描いた理想に近づくために、今日も全体練習後まで、ひとり黙々と自分で決めた課題に取り組む。

voice_100514_03ゲームでは、ベストを尽くし、
ダメなら練習からやり直すだけ。

 ベルマーレに在籍して3年目を迎えた阿部選手にとってJ1リーグは、3年ぶりの舞台。ゲームのレベルやスタジアムの雰囲気など、個人的には勝手知ったる、というところ。とはいえ、サッカーはチームで戦うもの。ここまでの試合の中で、どんな手応えを感じているのだろうか?

「J2からJ1に上がって、相手チームの個々の能力は当然違いますし、どう対応していくのかという部分ではチーム的なことと個人的なこととあるけど、チームとしてはJ1というものを試合を通して感じることができて、J1の経験がない選手でもここまでの戦いである程度ベースはできたんじゃないかと思います。
 個人的に言えば、J2でやってきたことをJ1で継続して出せているところが良いところ。もっともっとやっていかなきゃいけないのは、プレッシャーの部分だったり、僕の理想としては当然、点も取れてディフェンスもするというのがあるので、運動量と切り替えの部分、判断の部分でもっとスピードを上げていくこと。やっぱりJ1になるともっと上げていかなくてはいけないというのはあります」

 1試合1試合、戦いの中で選手が成長しているのは見ている側にも伝わっている。だからこそ黒星が先行していても、次こそはという期待が萎えることはない。では、選手自身はどんなモチベーションで現在を戦っているのだろうか?

「周りのレベルはやっぱり高いですし、結果はなかなかすぐにはついてこないと思うんです。ただ練習でもそうですけど、やり続けることが大事。例えば、強いイメージのあるガンバ大阪でも今季はなかなか勝てないという結果があるから、強いチームでも付け入る隙はある思うんですね。だからそういうチームと対戦する時には、自分たちがマジメに取り組んできた練習を信じて、その練習をいかに試合に還元するかを考えたい。なかなか勝てないからどうしよう?と考えるのではなくて、まずしっかり練習をして、それをゲームで出せるようにという形で努力していこうと僕は思ってます。ソリさん(反町監督)も練習でやってないことは試合で出せないと言ってますし、それは僕たち選手も感じてるので」

 誰ひとり後ろ向きな考えの選手はいないことが伺える。
 また今年は、練習に加えて、昨年以上にミーティングにも時間がかけられている。例えば、リーグ戦5試合とナビスコカップ1試合を戦ったあと、反町監督は、その戦いぶりについて選手に総括を伝えるミーティングを行った。このミーティングでは、今チームに必要なことをひとつずつ整理したビデオを選手に見せ、その後のトレーニングで実践での理解を深めた。これは、J1リーグを戦い抜き、生き残っていくために行われたもので、J2時代にはなかったこと。その効果が試された第6節のジュビロ磐田戦は、引分という結果だったが大いに飛躍の可能性を感じた戦いぶりが展開された。もちろん試合前には、昨年と変わらず必ず小1時間のミーティングがもたれている。練習も含めて事前の準備にこだわる阿部選手にミーティングの効果を尋ねてみた。

「ミーティングは、いい感じのプレーの映像を流して。ディフェンスなら、こういうプレッシャーのかけ方は良いよとか、こういうプレーにはこういう風なプレッシャーのかけ方をしていこうとか。攻撃の部分では、こういう風に繋いでシュートまでいけたら良いよとか。映像を見せることによって選手同士のイメージを統一させようとしているんだと思います。
 映像を見たあと練習をすると、やっぱり違いますね。映像が頭の中に残っていて、ある程度理解していて、それを身体を動かして表現する。勉強の復習じゃないけど、わかりやすい。方向性がはっきり見えてくる。練習の中で当然悪い部分とか失敗もあるけど、『今、何が悪かったから失敗したんだろう?』とか、『今、ディフェンスの時に俺ちょっと早く行きすぎた』とか、そういう話し合いがすぐに選手同士でできる。ひとりだけじゃなくて連動してどう行くかという意識の統一という部分で効果があると思います」

 勝利のために今できることのすべてが尽くされていることがわかる。それに全力で取り組むとともに、試合で選手にできることは

「とにかくベストを尽くします。それで結果がついてきたら、それはもううれしいことですし、ダメだったらまた練習からやり直せば良い話なので。とりあえずベストを尽くすことですね」

 また練習からやり直せば良いというのは、何とも阿部選手らしい答え。ベルマーレがJ1で生き残る最大の鍵は練習にあるということだろう。

voice_100514_05試合へ臨む準備は100%!
結果を出すのは、選手の仕事。

 勝ち点はなかなか奪えないが、それでもチーム力が上がっていると期待が高まるのは、ミドルシュートも含めて、攻撃が自分たちの狙う形で終えられているところ。特に阿部選手の威力あるシュートは、たとえ得点にならなくても味方に勇気を与えるように思える。

「シュートで終わろうっていうイメージは、前より増えたと思います。シュートで終わると、変な攻められ方はしないんですよ。それにセンタリングとかもそうだけど、変にごちゃごちゃになってやりきれないで終わるのと、やり切って終わるのとでは、感じが違う。だからもうやり切って終わろうと。今、それが必要なのかな、という感じがしてます」

 これもまたリーグ戦を戦う中で学んだこと。学びを目に見える形にまでできているところに成長が感じられる。

「点を取り合うスポーツなので、ゴールが見えて自分が『あ、これはいける』と思った時には打とうと思ってます。みんなもそうですね、どんどん前へ行こうっていう。ボールの取られ方、失い方が悪い時とは、ちょっと違うと思います。みんなが前へ前へ、シュートで終わろうっていうイメージがあると、やっぱり前に出ていきやすいんじゃないですかね」

 ミドルシュートといえば、磐田戦ではトリッキーなセットプレーも披露した。

「あれは練習でやりました。相手がゴール前を固めてきてゾーンで守るので、だったらそこよりも遠くから、マークが来ないところからちょっと外して打てばチャンスになるだろうって話で。練習ではすごい、ズドーンとしたシュートを決めたんですけど…、まぁひとつオプションとして。
 相手をだますとか、相手の弱いところをついてく、という部分では本当に良かったと思います。その辺りの分析は、監督やコーチが本当に細かくやってくれます。ハマるときはハマるんで、あとは選手がどう信じてやっていくか、ですね」

 監督やコーチングスタッフへの信頼の厚さが伺える言葉がこぼれてきた。確かに、阿部選手の良さは年を重ねるごとに磨きがかかっているし、その存在感は、今シーズンも試合を重ねるごとに増してる。その秘密は、監督への信頼もひとつの要因となっている。

「ソリさんと周りのスタッフの真剣さっていうのに、『ああ、まったく妥協してない、プロだな』と思う。それだったら僕たちもプロとしてやっているわけですから、やっぱりプロの監督やスタッフについていきたいと思うわけです。そういう面ですごいプロ意識を感じた。
 ソリさん、すごいなと思いました。いろいろ見て研究するし、チームの士気を上げるという面では、調子の良い選手を使っていって競争させたり、個人的にも成長させてもらってるし。ソリさんに限らずコーチたちも、一体感というのがすごい。いろいろチームを見てきたけど、今のチームは、僕がすごく好きな感じですね」

 チームの雰囲気としては、阿部選手がプロ選手となった原博実元・監督が率いたFC東京時代を思い起こすという。

「FC東京がナビスコで優勝した時(2005年)は、そういう一体感がありました。何チームか渡り歩いてますけど、なかなかそういうチームはなかった。それが今はすごく似た感じで、あとはもう選手がついて行かなきゃいけない感じが出ている。やっぱり良くないチームって、文句が多かったり、誰かのせいにしたりということが多い。
 ホントに良いチームだと思います。あとは結果というのを出していかなきゃ。それは選手の仕事だし、やっていかなければいけない厳しい世界」

 監督やコーチングスタッフによるお膳立ては完璧だと選手が感じるチームは、そうそうないだろう。その分、言い訳はできないということも選手自身が感じている。その結果、昨年得たのはJ1昇格。では、今年は何を手にできるだろうか?

「今年は1年目、チャレンジャーなので、練習をやりながらどこまでいけるか探っていければ。理想はしっかり掲げながら、目の前のことをひとつずつやっていくことですね。良い方向にのぼっていけたら良いところも見えてくるし、悪いところは悪いところで勉強し直さなきゃ。ひとつずつやりながら、あまり思い詰めないで、ポジティブに、でも失敗は同じことを繰り返さないために原因をしっかり探って。そういうことをやっていかなければいけないかなと思ってます」

 手応えはつかんでいる。あとは結果に繋げていくだけ。今は阿部選手とともに、目の前の試合に集中し、選手たちが最大限の力を発揮できるようサポートをしていこう。

voice_100514_02チャンスは必ず巡ってくる、
その時のために100%完璧な準備を整えておく。

 今シーズンの開幕戦のスターティングイレブンは、11年ぶりのJ1リーグということもあって誰もが期待を込めて注目していた。が、昨年、昇格のかかった最終節で決勝点を挙げた阿部選手が控えに回ったそのメンバーを見て、チーム内の競争の激しさを感じた人も多かったのではないだろうか?特に今年は、フォワードの選手が多く補強され、その競争は激化している。

「そうですね、良い選手というのはいっぱいいるし、選手個人は、僕自身も含めて試合に出たいという気持ちは持っていなければいけない。ただそれで、メンバーを外れたからって、要は個人の気持ちだけでやると、チームとしてまとまらなくなる。スタメンじゃなくても、途中出場でもチームを助けなきゃいけない役割がある。点を取って勝たせるとか、流れを変えるとか。やっぱりタスキを繋いで、じゃないけど、勝利に、ひとつの方向に向かわないとチームっていうのは、バラバラになってしまうし、強くもならない。
 それと、やっぱりそういう時は監督とコーチを信じて、今は自分の状態が良くないから外れているんだから、自分の状態を良くしよう、レベルアップしよう、で、最終的にそのポジションにいれば良いって考えてやっています。当たり前のように競争がある中を僕も今までやってきたので、そこは焦らず自分がやることをやっていけば良いんじゃないかなって思ってます」

 そういう時はやはり個人のスポーツだったらと思うこともあるようだ。でも、自分が選んだのは、チームスポーツなので、と笑った。

「それに、逆に外れた時にいろいろ考えちゃう時って、自分が練習で100%、もっとこういうことができるんじゃないか?って突き詰めてないときなんですよ。僕は、ですけど。
 若い時にやっぱり『俺はこうなのに、なんでだ!』って感じになった時があった。人のせいにしちゃいました。でも、100%自分でやるべきことをやっていたら、人のせいにするより、いずれチャンスは回ってくるし、実力がついた時に変わるよっていうイメージが自分の中にできてくる。だから人のせいにもしなくなるし、自分のレベルを上げれば自ずと道は見えてくるっていう風な感じ」

 阿部選手の練習熱心は、こういう経験も積み重ねた結果でもあるわけだ。

「必ずスタメンになれるわけではないけど、今はそういう時期じゃない、いずれチャンスは来るから、その時のためにちゃんと準備をしておかないと、と思う。厳しい世界ですから、チャンスが回ってきても準備ができてなければまた逃すことになってしまう。チャンスをモノにするためにも、100%準備しておこうっていう感じですね」

 もちろんスタメンに定着している今でも、気持ちが緩むことは全くない。

「みんな狙ってるし、それはわかってる、そこは競争だから。常に危機感を持ちながらやっている。それに、ライバルがいるのは刺激にもなるけど、学ぶところもあるんですよ」

 30歳を目前にしながら、阿部選手の進化はさらに加速中だ。それは、アウェイで迎えた第9節、5月1日に行われたVS川崎フロンターレ戦で挙げた先制点、そしてPKを獲得したプレーからもわかる。とにかく前へ、ゴールを奪うのだ、その気持ちにつき動かされて身体が反応していることが伝わってきた。
 今、スタジアムで披露される阿部選手のプレーは、気持ちに身体が反応するまで、毎日繰り返し練習で身体に叩き込んできたもの。これからどんなプレーが花開いていくのか、楽しみと期待の尽きないスタジアムで、阿部選手の日々の努力の成果を確かめてほしい。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行