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【ボイス:12月24日】永木亮太の声

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開幕14連勝とさい先よくスタートを切り、
勝ち点を100の大台に乗せるまで走りきった2014年シーズン。
昨年の無念さと悔しさを糧に臨んだ今シーズンは
昇格を目の前の目標として追いながら、さらにその先を見据えて、
湘南スタイルの継続と深化を図り、
J1基準のプレーをスタンダードにすることを志してきた。
そのチームを1年を通して引っぱり支えてきたキャプテン・永木亮太選手が
シーズンを振り返るとともに、来シーズンへ向けた思いを言葉に紡いだ。

ピッチの中ではケンカもあり
要求をぶつけあって湘南スタイルを追求

voice_nagaki001 2014年11月23日、アウェイ大分の地でタイムアップの笛の音を聞いて、今シーズンが終了した。最終節のスコアは3対2。この試合の勝敗にプレーオフ進出をかけていた大分トリニータの粘り強い戦いぶりを振り切って勝ち点3を積み上げ、トータルの勝ち点を101まで伸ばした。1年でのJ1復帰と優勝と、100を越えた勝ち点を手にしたシーズンだった。

「結果がシンプルに良かったので、自分としてもチームとしても本当に充実した1年でした。自分もプレー面で成長できたと思うし、チームとしても新しい選手がたくさん入ってきましたけど、シーズンの間、停滞することなく右肩上がりで成長できていた実感のある1年だった。僕は4年目で、昔の湘南も知っているから、そういうことを踏まえて今年の湘南は本当に今までで一番強かったなと思える。そういうことも含めて良かったなと思います」

 振り返れば、リーグ戦を9試合を残しての最速昇格や6試合残しての優勝など、数々のJリーグ記録を塗り替えた。その戦いぶりは、クラブとしても、また選手の多くが初めての経験を重ねたシーズンとなった。さまざまな出来事の中でも永木選手にとって一番印象的なことはと言えば、

「やっぱり優勝です。僕は小学校からずっとサッカーをやってきましたけど、タイトルには恵まれない選手だったから。大学のときに1回、インカレ(2008年開催第57回全日本大学サッカー選手権大会)を取りましたけど決勝は累積で出てないし、一昨年の昇格は2位ですし。
 優勝はやっぱり昇格とは違う達成感があるから、J2ですけどプロのリーグで優勝できたっていうのは、自分の中ですごく大きいこと。今年の目標にもしてたし、シーズン前からサポーターのみんなの前でも発言していたので、実現できたのはすごくうれしいです」

 今季は、J1から1年で降格した現実を受けとめながら引き続き指揮を執った曺貴裁監督のもと、『湘南スタイルの継続と深化』をテーマに選手全員が目標を高く設定して臨んだ。こういったチーム状況の中、2年連続でキャプテンを務めることになった永木選手は、人一倍、目標にこだわってきた。

「自分のプレーが成長した、だけではもうもの足りないと思ったから。自分のプレーの成長と同時にプロの世界なのでやっぱり結果をしっかり求めていかなければいけない。それに1年で昇格と優勝をしないと、自分自身も達成感を味わえないと思ったから。そこは常にストイックに思い描きながらやってました」

 そうは言っても、優勝はチームで勝ち取るもの。個々に成長を遂げたうえにチームとしての成熟度や一致団結した気持ちなどが必要だ。個人の力で簡単にコントロールできるものではない。

voice_nagaki002_re「今年も自分はキャプテンを任されたので、自分の成長も大事ですけど、チームの成長も考えました。チームの成長っていうのは個人個人が成長して、その力が集結することでチーム力が上がっていくということ。自分以外の選手も成長しないとチームとして成績は上がらないと思った。だから、今までの3年間やってきた以上に練習中から厳しくみんなに言いました」

 言葉で、プレーで、湘南スタイルを伝える役割を担った。なぜなら、スタイルは監督が描いたものでも実際にプレーするのは選手たち。キックオフのピッチに立つ11人、ベンチに入る7人、バックアップとなる残りの選手たち全員が練習から同じ絵を描いてプレーする必要がある。それは例え大学を卒業したばかりのルーキーでも。永木選手が担ったこの役割について、ホーム最終戦となった第41節対横浜FC戦の試合後会見で曺監督が語ったコメントが印象に残る。「選手たちは、3点目を取りにいく中で、ピッチでやるべきプレーをしていた。永木が後半、若い選手を一度怒っていましたけど、それがチームとしての力だと思います」。
 監督が100の言葉を重ねるより、ピッチに立つ選手のひとつのプレーのほうが雄弁だ。スタイルを表現する上でやるべきプレー、やってはいけないプレー、またその時々のシチュエーションに合わせたプレーとその選択について、ピッチの中で実際にプレーしながら声にも出して伝えてきた。

「自分の気持ちもあるから言い返してくる選手もいます。でもそれは全然問題なくて、まぁ本当に言い合いになる場合もあるけど、お互いにそれだけチームのためやサッカーに対して真剣な証拠なんで、良い緊張感も生まれるし、むしろチームにとって良いくらいに思ってます。もちろん何も言い返さない選手もいますけど、そういう選手はそういう選手で言われたことをちゃんと受けとめてくれているようで、声をかける頻度が徐々に減ってきて、言わなくてもわかるようになってきている。
 やっぱり真剣にやっているとお互いに熱くなるし、自分が求めているプレーじゃないとどうしても言いたくなる。でもそういうのって、お互いに言って全然良いと思う。逆にその場で要求しないであとで他の選手にグチグチ『アイツ、なんでパス出さなかったんだよ』とか言ってもまったく意味がないし、逆に雰囲気を悪くしてしまう。だったら、その場でケンカしてでもいいから言うくらいの方が良い。そこはお互いの信頼関係もありますけど、言い合っても次のプレーの時には普通になってるし、子どもじゃないんで険悪な雰囲気になったりもしない。そういう人間性を持った選手たちだったから、そこはホントに良かったし、そういう部分が自分では今年はちょっと変わったなって思います」

voice_nagaki003_re 2013年シーズン、初めてキャプテンを任された当初は、その立場を少し持て余し気味にしていた言葉がよく聞こえてきた。それでもシーズンが深まるごとに責任感を増していき、キャプテン2年目の今シーズンは、意識して自分を変えることによって実際にチームに大きな影響を与え、見違えるほど強くたくましくなった。

「キャプテンもやるなら1年目と2年目では変わらなきゃいけないと思ってました。具体的に変えようと思ったのはやっぱり発言すること。特に今年は新加入選手が多かったし、大卒のプロ1年目とか若い選手もたくさんいた中で、ピッチに入ったときに湘南スタイルとしてやっていいプレー、やってはいけないプレーがある。自分も4年目でいろいろ経験してきた中で、そういう経験をもとに自分で言える範囲のことは厳しく言うようにしてきました。試合中もそうですけど練習中も自分が思う今やってはいけないプレーをしたときには特に厳しく言って意識づけて。自分も言うことによって責任感っていうのが跳ね返ってくるので、簡単に言えることじゃないんですけど、そこはもう言ってもいい、逆に自分にもプレッシャーをかけるという意味でも言ってました」

 開幕戦から多くの新加入選手がピッチに立ち、湘南スタイルで躍動した。しかも結果も伴って。これは、永木選手を筆頭に、湘南スタイルを形づくり、繋いできた選手たちの思いと努力の成果でもあったようだ。

ケガも目標のクリアも
すべての経験が選手としての糧に

 個人的な面にスポットを当てても、さまざまなことがあった今シーズン。何より大きな出来事は、ケガでの戦線離脱だろう。トレーニングと試合を繰り返す日々を送る以上、小さなケガは絶え間なくあったが、練習ができないほどの痛みがこれほど長く続いた経験はなかったという。

「ケガは肉離れだったんですけど、今までのサッカー人生の中で肉離れってしたことがなくて、最初はよくわからなかった。痛いなと思ったからすぐに検査には行ったんですけど。
 少し休んで、合流したところで悪化しちゃって。結局ケガの部分が珍しい位置だったこともあって治療も難しくて、なかなか復帰のめどが立たなかったんです。
 チームは勝てていたので良かったですけど、早くやりたい気持ちもあるし、出ている選手が活躍してると焦りも出てくるし。痛みが全然取れない不安感もあって、もう治らないんじゃないかなとか、どうしても考えちゃいました。
 それでも、ケガの選手の気持ちとか今までわからなかったんですけど、自分がこうなってみて初めてわかったところがある。その時、コバショウ(古林将太)とかがまだリハビリしてたので、改めてコバショウもすごいなと思いました」

 診断がはっきりして復帰のめどがついてからは、少し落ち着いて気持ちを切り替えることができた。

「それからは、自分が今できることをしっかりやろうと」

 そこで筋トレに励んだ結果、復帰した時にはさらに一回り大きな身体でピッチに立つことになった。

「ケガの時期を活かして太くなったんですけど、僕はやらないと小さくなってしまうから。今は、自分のストロングポイントくらいに思ってるところですけど、まだJ1のトップレベルにいるわけではないんで。身体も早くそのレベルに近づきたい」

voice_nagaki006 数字の目標は、6得点、10アシスト。これは開幕前に曺監督が選手一人ひとりに具体的な数字の目標を設定させた時に決めた数字だ。シーズンを終えてみれば、得点6、アシストはリーグトップの11を記録した。個人の目標もきっちりとクリアした。

「目標は、例えば20何ゴールとかすごく高くする選手もいるけど、自分はこれを達成したら充実した1年だろうなというくらいの数字にしました。それが達成できたのはちょっとうれしかった。それに数字をクリアしたのは自信になりましたね」

 もちろん目標は、数字以外にもある。

「抽象的な言い方ですけど、最近よく言われている、“ボックストゥボックス”の意識というか、そこのプレーの頻度と精度。守備の時はしっかり戻って守備をしたり、攻撃の時はそこまで行ってアシストだったりゴールで終わるとか。やっぱり世界で活躍しているボランチの選手は、その回数が多かったり、その精度が高かったりする。逆に日本のボランチの選手に足りないところだと自分でも思うし、曺さんにも言われているので、そこの範囲での仕事量を増やそうと思っていた。自分なりですけど、少しずつ良くなってきているかなという実感はあります」

 “ボックストゥボックス”とは、自陣のペナルティボックスから相手のペナルティボックスまで、攻守に渡ってカバーするプレーを表す言葉。守備の時には自陣深く戻り、攻撃の時には相手のペナルティボックス内まで侵入する。攻守ともに関わるため、その距離を走りきるスプリント能力と90分間動ける体力が求められる。そのうえ、攻守両面で決定的な瞬間に重要なエリアに居るからには、そこでのプレーの精度が必要だ。永木選手はルーキーの頃から運動量の豊富さには定評があり、曺監督が指揮を執る湘南スタイルでもその運動量を活かして要の選手に成長してきた。加えて今シーズンは、ここまで積んできた経験からか動きに変化が表れ、質が高まっている。

「走るだけなら簡単なんですけど、闇雲にはいかなくなりました。ポジショニングとかに頭を使って、少しずつ良くなってきている。それはやっぱり経験だと思うんですね。
 4年目でちょっと生意気なことを言うようですけど、経験ってやっぱりすごいなと思いますね。経験って例えば、才能があって技術があってフィジカルもあって総合的に能力が優れた1年目の選手と、能力は全然劣っている5年目の選手でも経験の差は埋まらないという印象を受けていて……。ポジショニングもそうだし、行くところ、行かないところ、そういう部分での判断は経験の差で全然違うんだなっていうのを自分は今年感じている。そういう経験値は能力で埋められるようなものじゃなくて、試合に出ないと身につかないし、時間も必要。ある程度、そういう経験値がついてきたからタイミングよく上がったり、戻るところはしっかり戻ったり、要所要所『ここ』っていうところで動けたんじゃないかと思います。そういう経験値はまだまだ増やせる年だと思っているので、来年以降も増やしていきたい」

 経験によってさらなる気づきを得たことも収穫のひとつ。来年はどんな経験を積み、その経験値はどんなプレーとなって表現されるのか? スタジアムで確認したい。

勝ち続けてもつきまとう不安
その気持ちが成長を促す原動力

voice_nagaki005 湘南スタイルの「継続と深化」をテーマに、J1基準のレベルを目指して戦ってきた1年。結果も数字もその目標を達成したと客観的に評価できるだけの内容を手にしている。では、実際にピッチでプレーをしてきた選手がJ1に向けての手応えはどう感じているのかが気になるところだ。

「今年は最初からJ1の選手、J1のチームを基準にして練習してきました。だから対戦相手を考えた練習は試合の前日とかだけ。それ以外の練習では、守備の時は今のプレーはJ1の能力の高い選手だったらやられていたよ、とか、攻撃だったら、J1の能力の高いディフェンダーだったら今のところはしっかり守ってくるよとか、曺さんがよく言っていた。日頃からそういう意識で取り組んできたので、準備っていうことに関して言えば、一昨年昇格した時よりしっかりできているなっていうのがあります。……けど、“自信”という意味では、毎年そうなんですけど、自分はあんまり自信は持てないですね。今年も目標は立てましたけど、絶対勝てるとか、絶対やれるとか、そういうのってあんまり思ったことがなくて、自分の人生的に。……自信がないわけじゃないですけど、自分的には不安感の方が強いし、不安な気持ちっていうのは常にある。来年のこともそうですけど、もう絶対に落ちてはいけないんで……。J1には本当にレベルの高い選手やレベルの高い戦術のチームがたくさんあるので、やっぱり不安というものはあります」

 選手たちはシーズンを通して、勝っても勝ってもストイックに高いレベルを求め続けていた。それが続けられた理由のひとつは、永木選手が持っているような不安感によるものだったのかもしれない。誰もが持っている自信と不安、その最良のバランスは人それぞれだろうが、永木選手は自信を過信にせず、不安に向き合い明日の糧にして、この1年を過ごしてきた。それもまた昨年の経験があればこそ。

「その不安っていうのは自分にとってマイナスじゃなくて、その不安があるからこそ僕は日頃のトレーニングを頑張ったり、体幹や筋トレやったりするモチベーションになるので。なんて言うか、自分の中でその不安感っていうのは、ずっと持っていたいなという気持ちがあるんですよね。ケガをする不安があるから、ケガをしないようにするし。だからきっと来年もそんな感じですね(笑)。毎年、そうなんです、不安の方が大きい。
 14連勝しても不安でした。後半に崩れるんじゃないかとか。僕はたぶん、自信を持っちゃうとダメな気がする、逆に。絶対できるよとか、そういう気持ちにならない方がいい。なったらなったで怖いです。今年は良かったけど、華やかなサッカー人生は送ってないんで(笑)。でもそれが自分の成長に繋がる気持ちだと思います」

 勝ち続けても目標をクリアしても、永木選手が尽きることなく不安を感じるのは、より高い目標を目指して前に進んでいるからこそだろう。そうして積み重ねてきた結果は確かな経験値として自分の中に蓄えられ、揺るがない芯となっているはずだ。

voice_nagaki007「大卒で入ってきた三竿(雄斗)や俊(菊地俊介)を見ていると、試合を重ねるごとに良くなっていったし、自信に満ちあふれていった。そういう自然に身についた自信っていうのはすごく良いものだと思う。自分もそうですけど、自分で自信があるという意識がなくても自信があるからできるプレーがあって、そういうのが本当の自信だと思う。勝っておごるんじゃなくて、そういう“いい自信”に満ちあふれていたと思いますね」

 開幕戦のスターティングイレブンに名を連ねた新加入選手は4人。そのうち経験豊富といえるのは秋元選手だけ。リザーブに入った岡田選手も含めて、これまでのプロ生活の中で出場機会に恵まれた方ではなかった。

「今年新加入で入ってきた選手で、30試合、40試合出た選手、祐市(丸山)とか陽太(秋元)くん、あとは岡田(翔平)とか。陽太くんは愛媛(FC)でずっと試合に出てましたけど、他はなかなか公式戦に絡めなかった。年間3試合とかの選手たちが、試合をやるごとに、勝ち点を積み上げるごとに自信をつけて、本当にチームの力になってくれた。去年、主力で戦っていた薫(高山薫選手:現柏レイソル)やグギョン(ハン グギョン選手:現カタールSC)、カズ(大野和成選手:現アルビレックス新潟)が出てしまった穴を埋めてくれたと思うし、存在感を発揮してくれたからこそJ1に上がれた。本当に良かったと思ってます」

 永木選手が言うところの“いい自信”をつけたシーズンは、当初の勝ち点の目標は80でスタートした。ところが、9月の半ばにこの数字をクリアして目標を上方修正、最終節に勝利を収めて積み上げた結果は101。リーグ戦42試合という条件で挙げた勝ち点としては史上最多となった。

「この規模のクラブでこの数字はすごいと思う。親会社を持たない、予算も少ないチームで、J2とはいえここまでぶっちぎって優勝とか、100を越える勝ち点を取ったっていうのは、本当に誇りに思って良い。もちろん自分も含めてみんな、スタッフやサポーターに感謝する気持ちは強い。でも自分たちが日頃の練習から、勝ち続けても自分たちのプレーをするとか、相手をリスペクトするとか、そういう原点を忘れずにしっかりやってきたからこそ、この成績が取れたと思う。
 来季は他のチームに移籍する選手もいますけど、個人個人が本当に自信を持って良い。みんなが個々の財産にして良い結果だと思う」

 チームのために気持ちを込めて、勝利に対する執念を燃やして、思いを強く持ち続けてチーム一丸となって戦った。選手一人ひとりの胸に誇りを刻んだシーズンだったに違いない。
 

湘南スタイルでサッカー界に旋風を
2015年は大切な始まりの年

voice_nagaki008 どんなにチームに愛着を持ってシーズンを戦っても、契約社会で生きる選手たちはシーズンが終了すると、毎年毎年さまざまな選択を迫られる。選手にとっては、在籍するチームが属するカテゴリーや受けとる年俸がそのままその選手の価値となるだけに、少しでも高い評価を得たいと思うのが正直な気持ちだろう。永木選手は昨年に続き、今年もJ1クラブからオファーを受けた。そして、昨年同様今年もまた、ベルマーレに残る選択をした。

「去年は、カテゴリーが違ったので、どうしてもそこは……やっぱりJ1でやりたい気持ちもあったから悩みました」

 それでも信頼を寄せる曺監督が引き続き指揮を執ることが決まると、1年での復帰とJ1で通用する力をつけることを目標にベルマーレに残ることを決断した。復帰の目標を見事に達成した今、その決断を振り返ると

「シーズンが終わって、残って良かったねってサポーターの方や知り合いに言われることも多いですけど、なんかそれってしっくり来なくって。仮にそのチームに行ったとしたら、それはそれで良い1年になっていたかもしれないし。僕は、このチームで成長できると思ったからここに残ったわけだし、チームを決めたからにはそこでしっかり仕事をするということを自分の中に秘めてやっていました。それに関して言うと、1年間が終わって本当にやり切った気持ちもあるし、成長できたという実感もあるし、尚かつチームの成績も良かったので、本当に悔いのない選択だったと思う。だから正解だとか不正解だとかじゃなくて、成長できた自分がいるのはこのチームのおかげだと思うし、このチームを選んだのは自分なので、そういうふうに思えたことが一番良かったなと思います」

 昨年の選択を悔いないものとした今シーズン。この結果を手にするプロセスにはそれだけの努力とその積み重ねがあったということ。1年間J2で戦いながらも、高い評価を得て、再び、J1のクラブから声がかかった。しかもそこは、永木選手自身も長く一目置いてきたクラブだった。

「伝統のあるクラブでサッカーのスタイルもあって、いいチームだなと思っていた好きなチームだった。規模や資金力だけを比べるとオファーをいただいたチームの方が上だし、条件も聞いて、ちゃんと評価されていると感じたので、正直言うとそのチームに行ってもおもしろいかなとも少し思いました。
 ……けど、なんで最終的に残っているかって言うと、まずひとつは、うーん、今年昇格して、来年は本当にベルマーレにとって大事な1年と位置づけているから。もうJ2に落ちていると話にならない。J1に居続けて、居続けるだけでもダメ。毎年毎年、成績が右肩上がりになっていかないと、自分がこのチームに居る意味ってそこにあるので、そうならないとおもしろくない。そういう最初の1年。
 今年、これだけの成績を残したし、スタイルも確立した。J1のクラブのサッカーを見てもなかなかないスタイルで、このサッカーでどこまでできるかをもう一度、今年のメンバーもたくさん残るし、その仲間と、また新しく入ってくる選手たちでやってみたいという気持ちがひとつ。そして、どんどんどんどん成長していきたい、自分もチームも成長していったら一番良いなって思っています」

voice_nagaki010 2013年シーズンに果たせなかったJ1への定着。2年目の湘南スタイルはトップリーグのレベルの高さの中ではその特長をフルに発揮するまでに至らなかった。その無念さを秘め戦ってきた1年、その成果を来シーズン問いたい思いがある。

「もうひとつはやっぱり曺さん。決める前に話をさせてもらったんですけど、その言葉がすごく心に響いたっていうか。
 曺さんは、そのクラブに行っても今の自分の能力から考えて、普通に遜色なくできると思うよって言ってくれました。ただ、どっちかって言うとそのチームのスタイルに自分のプレーを捨てて合わせていかないと生き残っていけなくなる、と。それだったらこのチームに残って、このスタイルを表現してまわりの選手についてきてもらうほうが自分の成長に繋がるよ、と言われて。それと今、僕は代表をすごく意識しているんですけど、自分の原点を見るというか、一番自分の力が出せるところをしっかり見つめ直すと、湘南の方が近道なんじゃないっていうふうに言われたんです」

 今まで永木選手が代表について口にすることはほとんどなかった。その理由として、自分には少し遠い存在だという感覚があったことは否めない。ところが今は、4年後にロシアで開催されるワールドカップに出場することは目標となっている。その近道がベルマーレにある、と曺監督は説く。

「日本代表も監督が代わりましたけど、まだどちらかというとポゼッションサッカーをやっている。でも曺さんは、これから日本が世界の強豪と戦っていくためには、今のうちのスタイルに近いサッカーをしないと生き残っていけないっていうふうに考えてる。オシムさんのサッカーをずっとやっていければ良かったんですけど、オシムさんは途中で交代することになってしまったし。で、曺さんはその日本のサッカーを変えたいって言っていて、まず湘南ベルマーレがそういうサッカーを観せて、湘南ベルマーレから日本代表が何人か入るようになればだんだん変わっていくと思う、っていうか、『いく』って断言してたんですけど(笑)。
 これから日本がワールドカップで決勝トーナメントに残っていくためにはやっぱりサッカーを変えないといけない、自分は湘南ベルマーレを通して日本のサッカーを変える努力をする、自分も頑張るからその力になってくれって言われて。それはすごくおもしろいなって思うし、そういう監督のもとで自分もまた中心になって、このチームで自分のプレーもチームの力も上げて、それで日本代表に入って、日本のサッカーを変えていくことができればすごいことだと思う。その情熱に懸けたというか、負けたじゃないですけど(笑)。でも素直に一緒にやっていきたいなっていう気持ちになりました」

voice_nagaki011 曺監督が機会があるごとに口にする、ドイツ・ブンデスリーガのバイエルンやドルトムントなどが展開するサッカーは、新しい潮流であるゲーゲンプレッシングを取り入れた戦術をベースにしたスタイル。ポゼッション至上主義に一石を投じる戦術であり、曺監督はこの新しいスタイルが持つ可能性を高く評価し、湘南スタイルにも積極的に取り入れている。実際このスタイルで3年間戦い、手応えを得ているのは、ベルマーレに関わるすべての人が目の当たりにしていること。永木選手にかけた言葉は、曺監督自身の挑戦でもある。来季は、監督自身が立てた、とてつもなく大きな志を託した湘南スタイルでトップリーグに挑む。

「やっぱり曺さん、でかいです、正直。
 代表も、自分で届かないって思っていたら言葉にはしないんですけど。でも、去年の終わりくらいからインタビューとかで『代表を目指します』って言うようになったのは、届くところに来たからこそだと思う。自分で、そういうレベルまで来たなって思えるから言えるんだと思う。だから来年は本当に、その大きな夢に向かっていきたい。本当に来年は大事な年です」

 たくさんの夢が芽吹きの時を待っている。だからこそ、よりいっそうのサポートをしてほしいと永木選手は気持ちを込める。

「自分は毎年毎年成長できるチームを作り上げたいと思っています。曺さんも言っていましたけど、そこにはお金も必要です。僕たちにとっては、スタジアムに多くの人が足を運んでくれることがモチベーションになるし、チームにとっては資金力に繋がります。
 僕たちは、来年、試合を観てくれた人たちに何かを残せるような試合内容や結果を出していくつもりです。そういう気持ちを買ってもらって、家族や友人、一人でも多くの人を誘ってスタジアムに来てくれると、それが一番僕たちの力になります。来年だけじゃなくて再来年、その次の年も成長していくために、サポーターの力も一緒に上げてもらえるように。その最初の年である来年は勝負の年、お互いに成長できるように頑張りましょう」

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取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行