ボイス

2014.05.16

【ボイス:5月16日】監督・曺貴裁の声

ゴールデンウィークの連戦を終えてなお、開幕から13連勝を数え、Jリーグ記録を更新している。
この素晴らしい結果を手にしながら、
選手たちから聞こえてくるのは、課題と反省、次へのチャレンジの言葉ばかり。
昨年足りなかった力を今シーズン戦うJ2リーグの42試合で培うのだという強い決意と
強くなりたいという切実な思いが伝わってくる。
目の前の1試合1試合を戦いながらも、見据えているのはJ1の舞台だ。
昨年の悔しさと無念さがもたらした今シーズンの戦う姿勢と、そこにあるテーマを、
3年目のシーズンを迎えた指揮官・曺貴裁監督が解き明かす。


勝ち点3を取る確率を上げるために
“継続と深化”を求め続ける

 2013年、J1での挑戦はリーグ戦6勝7分21敗で年間成績16位という結果をもって降格となり、終わりを告げた。数字だけを追うと降格は仕方のない結果と言えるが、シーズンを通してその戦いぶりにはいつでも希望があった。なぜなら、湘南スタイルを貫き真っ向勝負を挑むことによって試合を重ねるごとに成長が見えたからだ。
 迎えた2014年シーズンは、再びJ2の舞台を戦う。このシーズンに向けて、曺監督は、“継続と深化”をテーマに掲げた。

「僕はこのチームでしか監督をやったことがないからそれが正しいかはわからないけど、監督を長く続けるのであれば、続けるメリットを最大限に出すことを考えた。そこで、今までチームを見ていて良かったと思うことは継続していかなきゃいけないと思ったし、どんなリーグに居ようとその良さは出した方が良いと思った。ただし、J1を経験したものの、僕を含めた自分たちの力不足で降格をしてしまった。だから、その良さは継承させながらも、勝ちに繋がる、勝ち点3を取れる確率を上げるスタイルのサッカーをやらなければいけない。そこはそれぞれ、選手たちも自分自身も、チームの目標に向かってそこに至るだけの力を、隙なくたくましくさらに深めていかなければならないという思いを持って、やってます」

 求めているのは勝利。そのための、“継続と深化” である。しかし、チームとともに成長し希望の象徴となった選手たちの何人かは、オファーを受けてJ1のチームへ、あるいは課題を持って他チームへ移籍していった。もちろん新戦力を迎えてはいるが、選手が入れ替わる中で “継続” とは、一体どう捉えればいいのだろうか。

「サッカーに限らずプロスポーツは、勝ち負けに絶対はない。だからどのチームも勝つための確率を上げる作業を必死にやってゲームに臨む。そうやって湘南ベルマーレが過去に積み上げてきたものが選手の能力によって培われたチームスタイルだとしたら、選手が入れ替わったら継続性はない。けれども、クラブとしての土台がしっかりあるチームならば、新しく入ってきた選手はそれを学ぼうとするし、選手と選手が繋がって、新しい良さが出るようになる。湘南ベルマーレには、間違いなく脈々と深いところを流れるものがあって、その土台に対して選手がパフォーマンスを発揮しているチーム。選手が替わったからサッカーのスタイルが変わるというのは、裏を返せば個人に依存したスタイルだったということ。うちはそういうスタイルではないし、そういうものを目指してもいない」

 曺監督は、ここに至るまでの2シーズンを支え、ほとんどの試合に出場し続けた選手たちがステップアップを果たしたことを喜ぶと同時に、新しく迎えた選手がもたらす変化を歓迎する。

「彼らは実際に今、J1でプレーしているわけだから間違いなく能力はあるし、湘南のためにすごくよくやってくれた、それは何の疑いもない。ただ、彼らがいた中での湘南スタイルと、新しい選手たちで作る湘南スタイルは、流れているものは一緒でも、外観が違うというか。船があって、そのモーターとかエンジンとかその船を動かす仕組みは変わってなくても、みんなから見えるところ、船の形とか、天候に合わせた帆の張り方とか、そういうものが変わっているし、逆に見えるところは変わっていかなきゃいけない思っている。天候や状況によってや、製品によってだったり。その中で僕は、新しく来た人がこの船に乗って『快適だな』『気分が良いな』と思ってもらえるように、先導しなきゃいけない」

 13節まで戦って、“継続”の実りがもっともわかりやすく感じられたのが第7節アウェイで戦ったジェフユナイテッド千葉戦ではないだろうか。2年前のここでの対戦のピッチに立った選手は永木亮太選手と菊池大介選手だけだが、この日ピッチに立った選手は全員勝ち切るために徹底的にスタイルを貫き、90分走り抜いた。得点を重ねても、攻撃の手を緩めることなく、戦うハートを燃やし続けた。この試合のピッチには、受け継がれて来たスタイルに新しい色が鮮やかに施された2014年バージョンの湘南スタイルが表現された。
 また、この戦いぶりには、曺監督が3年目のシーズンを引き受けるにあたっての決意も映し出されていた。

「去年、選手が悪くて勝てなかった試合は1つもない。俺がやろうとすることに対して、選手は真剣に向き合ってトレーニングや試合をしているし、それは俺が一番わかっている。なのにJ1に残留させることができずに、J1でプレーをする機会を失わせてしまった。そのことにすごく責任を感じている。自分がこうしようということに対して選手がやろうとしてくれて、それで結果が出なければ、僕の働きかけが悪かったなと思うしかない。だから、クラブから続けてほしいと言われたときにその責任を本当に返せるのかを自分の中でしっかり考えた。
 やはり、『良いゲームをする』という評価だけじゃなくて、勝っていくことが必要。それは、何をやっても勝てば良いということではなくて、我々の大事にしているものを貫きながら勝ちを持ってくることに心底向き合っていかなければならない。心底なのか、もっと奥深い底なのか、そこはわからないけど、さらにそういうものを考えなければいけない」


 “良い試合”をしてもJ1に残留することはできなかった。昨年足りなかった勝ち点3へのこだわりが、“深化”を求めている。

「深化というのは、自分自身にもう少し目を向けること。『お前らみんな、サッカーに対して、試合に対して、練習に対して、1年間本当に良い準備をして、やり切ったスタイルを続けましたか?』『はっきりイエスと言えますか?』という話なんです。でも人間、365日ずっと続けられるわけがない。それでもそうやって自分に矢印を向けていくと、間違いなく自分のプレーに対する責任感が出る。映像を観たりだとか、サッカーに関するいろんなことをやって、努力をする。やるのは俺たち自身なんだから、もっともっと自分たちの質を上げて深めていかないと、何も変わらないよということです」

 勝ち点3を得るためには、質を上げなければならない。どう守り、どう攻めるか。スタイルを貫き、質を上げることを目指した結果の無失点であり、6ゴールだった。こうしてピッチで表現される湘南スタイルの根底には、曺監督の揺るがない哲学がある。

「俺は、終始一貫、『前に行け』とか、『おもしろい試合をしないとだめ』とか、『プロは興行だ』と言っている。同時に、選手たちに、ドルトムントやザルツブルグの映像はたくさん観せるけど、バルサやレアルの映像は観せないです。自分では観ますけど」

 観ている人がワクワクと楽しめるサッカーを実践することこそがプロの仕事。その仕事をいろいろな面からサポートするのが指導者としての責任だ。

「俺の言葉や観せる映像のすべてが彼らへの俺のリスペクト。俺は評論家じゃないからどのチームが良いとか悪いとかを言う立場にあるんじゃなくて、あなたたちが良くなるために、たまたま俺が監督をしているんで、俺が思っているのは、『あなたたちのためになることは全部やる』ということ。至って、単純で簡単。
 だから、我々は切り替えが速いのがスタイルで、それって3年間変わってない。でも、今年の試合は、3年間ずっと観てる人は何か変わったなと思う部分があるじゃないですか。僕からしたら、それが“深化”です」

 勝つための深化を求める2014年シーズン。ここまで負けなしの13戦全勝という結果を得てはいるが、課題が出ない試合はなく、次の試合ではその課題と向き合いながらの戦いが続いている。自分に向けた矢印と正面切って向き合うシーズンの終わりには、どんな未来が待っているのだろうか?


個人の成長がチームの成長を呼ぶ
それこそがキャプテン

 新加入選手がもたらす変化を歓迎する一方で、「複数年継続して在籍する選手こそ最大の補強」とも曺監督は言う。中でも昨年からキャプテンを務め、今シーズンも全試合に出場している永木選手の存在は大きい。どのポジションの選手でも攻守両面のプレーが求められる湘南スタイルにおいて要となるボランチを担い、最終ラインから最前線までをプレーエリアとしている。その運動量は、チーム随一。タイムアップ間近な時間帯まで攻撃的な姿勢を貫くチームにあって、90分走ったあとのアディショナルタイムでもペナルティエリアを全速力で駆け抜ける姿が見られる。

「僕の感じでは、亮太は元々すごく良い選手ですよ」

 永木選手を評価する曺監督の言葉には、成長というよりも本来持っているものが表面に表れたのだというようなニュアンスが込められていた。

「ただ、彼が高校・大学と育って、プロに入って1年目、2年目、3年目と過ごす中で、あいつ自身が自分の能力がどれだけあるのか自分で決めちゃっているところがどこかあったと思う。だけど、去年キャプテンになってJ1を経験して、シーズンの終わりにはJ1のクラブからオファーをもらって、自分自身も自分のポテンシャルを本当に信じられるようになった。変なカラ自信じゃなくてね。
 だから、ミスをしても、すぐに立て直せる。それにボックスからボックスまで走って点を取ってまた戻ってくるっていうスタイルをチームとして植え付けなきゃいけないっていうことをすごく意識してやっているよね。で、キャプテンがそういう意識でやっていたら、他の選手は、ただ自分のプレーをすればいいということではなくて、自分がもっともっと成長してこういうプレーに挑戦しなきゃいけないってなる。監督が1000回言うより、そういう選手が1回言った方が説得力がある」

 永木選手のプレーからは、「チームのために湘南スタイルを体現し続けるのだ」という決意をもった姿勢で試合に臨んでいるのが伝わってくる。

「亮太をキャプテンにした時、周囲から『どうして永木がキャプテンなんですか?』ってさんざん言われたけど(笑)。
 亮太は、キャプテンをやることで見る世界が間違いなく変わるだろうなと思ってました。で、それを見てまわりも変わるだろうなと。
 キャプテンっていうのは、その選手がキャプテンをやることによって成長する。プラス、そのことによってチームが伸びる人がやるべきなんですよ。俺は、亮太に成長してもらいたいのがひとつ、あとはそれを通してチームも成長してもらいたかったっていうのもひとつ、理由としてありましたね」

 ミスを恐れないアグレッシブな姿勢もまた、湘南スタイルを象徴している。しかも、間隙を縫って縦パスを入れる勇気あるプレーもさることながら、そのボールが相手に渡った場合もいち早くディフェンスに回り、どこまでもあきらめることなく追い続ける責任感も頼もしい。何より、果敢に攻め、ミスをリカバリーしながら、90分間走り切る。そのプレーには、キャプテンらしい自信と力強さが感じられる。

「後から『キャプテンになって永木変わったね』って言われたけど、リーダーシップがあって声を出すからキャプテンというわけじゃない。それは、リーダーシップがあって声を出す人、で良いんです。僕からしたらそういう人をキャプテンにはできない。選手の適材適所、選手が持っている可能性というものを指導者がどう見るか。その組み合わせでチームを作る。だから、選手が替わったらチーム力が落ちるんじゃないかという見方もあるけど、僕はそういうのも全然心配していない」

 チームと連動しながら成長してほしいという思いは現在進行形。だからこそ、今シーズンもキャプテンマークを巻いている。この先どんな成長がみられるのか、そんなところにも注目していきたい。


「3点取ろう」と自分の言葉で選手に言える
それが継続の成果

 1年で降格したとはいえ、その戦いぶりは評価を得た。また、そういった周囲の声を超えて、選手たちは2年間戦ってきた湘南スタイルに手応えを感じ、自信を持っている。J1で通用するチームに必ずなる、と。だからこそ目標は、1年でのJ1復帰。“優勝”を口にする選手もいる。

「僕は優勝とかJ1昇格よりも、このチームが次の試合で、前の試合のチームよりも強くなることしか考えてない。(アビスパ)福岡戦が終わったあとに、(ロアッソ)熊本戦の試合より強いチームになること。その結果は、もちろん優勝だったりすると思いますけど、僕にはそんな余裕はない。次の試合でいかに彼らの100%の最大値を引き出すか、それに向けて準備をするだけ。終わったらその次に向けて準備をするだけ。選手が『優勝したい』と思うの良いことだし、逆に思ってもらいたいけど、僕は次の1試合しか考えていない」

 それでも曺監督は、指揮を執って3シーズン目で初めて具体的な数字の目標を設定した。

「勝ち点80って挙げたのは、過去最強の湘南は勝ち点80を取ったことがないんで、そういう意味で。これは、42試合制になってから2シーズン、3シーズン勝ってないし、前に昇格したときは75しか取れなかったんで。そういう意味の80です。要は、過去で一番強勝ったなと思われる湘南になろう、だから、『2点目3点目が必要なんだよ』というのもそういう意味。最後コーナーキックで試合が終わる、誰かのシュートで終わるという試合が多くありますけど、あれくらい攻めの姿勢を見せて終わるっていうのは、相手に対するダメージも大きいし。上から目線っていう意味ではなくて、それくらいを目指さないとJ1に昇格しても、また同じことを繰り返すだけなんじゃないかという話です」

 13節まで終えて、開幕戦と11節の水戸ホーリーホック戦を除いた11試合で複数得点を取っている。この複数得点について試合後にディフェンダーである丸山祐市選手が「毎試合3得点を目指したい」と話していたことが印象深い。ディフェンスの選手が失点よりも得点へのこだわりを見せているということは、日頃からの指導によるところが大きいことが伺えるからだ。

「『3点取ろう』って、俺自身が言うこと自体が簡単なことではないんです。でも、今年のチームはそういうふうに言えるようになった。“自分の言葉”で言わなきゃイヤだなと思っていたんだけど、今年は、『3点取るぞ』と言える自分がいます。言える理由はわからないけど。
 相手が強いとか弱いとかじゃない。それくらいのつもりで行こうって言ったら、選手にそういうエネルギーが出てくる感覚がある。理由は本当にわからないけど、それが“継続”の良いところなのかなと思う。それに、岐阜戦じゃないけど仮に2点取られても勝てる」

 選手が入れ替わりながらも、チームに上積みができているこその「3点取ろう」という言葉。ここまで結果がついてきている今なら、誰もが“継続”の強みを実感しているはずだ。


バックアップメンバーのモチベーションが鍵を握る
選手全員がレベルアップしてこそ

 各節を振り返ると、新加入でスターティングイレブンに名を連ねている選手が5人。それでもピッチで繰り広げられる湘南スタイルは成熟度を増している。その理由のひとつに、新加入選手の意識に変化があるからだと曺監督は言う。

「我々のクラブに来た選手の雰囲気や前提としての心構えは、『湘南に行くとこういうスタイルでやる』とか『若い選手がたくさん出ている』ということを理解していて、『1年目からやってやろう』という選手が多い。それは、新人選手も移籍して来た選手も間違いなくある。選手の方のクラブに対する見方が変わりましたね、間違いなく」

 強化部は、ベルマーレにとってのあるべきサッカーの理想を掲げ、選手獲得の基準や強化のコンセプトを長年積み上げてきた。そのひとつの結果が、大卒ルーキーである菊地俊介選手や三竿雄斗選手が開幕戦から躍動している姿なのかもしれない。
 また、試合出場の機会を得ていない選手まで、目が行き届いているのも曺監督らしいところ。

「皆さん、試合に出ている選手は成長していて、出てない選手はだめなんだっていう印象を持ってるだろうけど、全然そんなことはないんですよ。
 大卒の俊輝(石川)とかはなかなか試合に出るチャンスがなかったけど、あいつもすごくまじめで、ミスしたらメンタル的にやられちゃうみたいなところもあったんだけど、この2~3カ月ですごく変わりましたよ。
 例えば今、俊介がボランチをやっているけど、彼は元々中学くらいまでは攻撃的なポジションだったのが大学ではセンターバックだったから、俊輝からしたら自分と同じポジションを同級生の違うポジションの選手がやっていることに、内心いろいろ思っていると思いますよ。『自分には信頼がないのかな』とか。
 でも本人にもたまに話すけど、選手って自分のレベルを上げていくしかないんですよ、究極は。選手はどこに行っても試合に出る出ないは、監督が決めること。絶対に自分では決められない。
 それでも、俊介というライバルが居て、そのライバルと競争することによって走れるようになっていたり、ボールが蹴れたり、守備の個人センスが上がっていたら、試合に出ていないという事実はあるにせよ、その選手のためになるかならないかっていったら、絶対になるんですよ」

 曺監督は、常に練習から100%を出し切ることを選手たちに要求する。その土台があってこその試合出場だ。もちろん選手は、どんなきっかけでも試合に出ればそれだけで必ずと言っていいほど成長する。しかし、例えば怪我の選手のかわりに出場機会を掴むのと、ライバルと競って切磋琢磨して掴み取った試合出場では、土台の部分で違いが出て、後々に影響するという。

「そういうチャンスの掴み方って脆い。それよりも、出られない間も自分の課題に向き合いながら日々練習した中でチャンスを掴んだ選手っていうのは、もう鰻上りに伸びていきます。
 『こいつは頑張っているから』『こいつはスピードがあるから』『こいつは試合を決められるから』って、それだけで試合に使ったら、その選手のためにならない。俺は、選手の将来的なものも含めて起用する。
 だから逆に、試合に出られていない選手がどう思っているかなというのを考える。チームが13連勝していたら、『俺、出遅れてるんじゃないか』って、気後れしているヤツも居るなとか感じている。
 それでも選手は毎日毎日の練習を大事にして、ごはんを食べて寝るしかなくて。人間だから、ロボットじゃないから、感情があるから、そんな風にできないときもある。それでも自分と向き合ってやるしかない」
 
 13節が終わった時点で、リザーブまで含めれば25人の選手が公式戦で登録され、20人の選手が出場機会を得ている。今シーズン、チームに所属する選手は32人。このままいけば曺監督が指揮を執った2シーズン同様、1年を通してみれば、怪我をしている選手を除くすべての選手が必ず公式戦への出場機会を掴むだろうという勢いだ。
 曺監督は、試合出場のメンバーを固定することがない。また、誰が試合に出ても選手個々の特徴を活かしながら、湘南スタイルは遜色なく体現される。選手たちは、さまざまな思いを抱きながらも、1年間プロ選手としてモチベーションを落とすことなく、試合出場を渇望し続ける。

「試合に勝つことが目的でチームを作っているのであれば、絶対に全員ですよ。30~35人の集団で、一方はやる気があって一方はやる気がないなんて、そんな集団はあり得ない。
 逆に、試合に勝たなくても良いから成長だけさせてくれと言われたとしても、11人だけ頑張らせても、残りの選手が何のモチベーションもなければ成長もしない。良い練習をするためには、基本的に全員が理解をして納得してやる練習じゃないと。それに選手は、自分は見られている、求められている、そういった帰属意識があることを土台として感じていないと良い練習はできない。
 だからバックアップの選手がモチベーションをしっかり持って練習するということは、僕の中では本当にはずせない条件なんです。
 出場機会が得られていない選手には、『お前は今、こういうことだから使ってないけど、こう良くなってきているからこのまま続けてやれ』とも言うし、『あきらめているのか、お前』『いい加減にしろ』とも言う」


 曺監督は、途中出場の選手こそが試合の鍵を握っていると言う。

「松本戦でシマ(島村毅)と征也(藤田)と岡田翔平の3人が途中出場したけど、交代で出たこの3人がゲームを決めた。それは、湘南に残った選手と、ベンチで出られなかった選手全員の努力の賜物」

 賜物のひとつの例として挙げたのは松本戦の藤田選手。後半20分頃に一度、交代の準備をしたが交代直前に2得点目が決まって試合の流れが変わったため、曺監督はそこで藤田選手の交代を見送った。

「キャリアがある選手が移籍してきたチームで『出るぞ、行くぞ』という状況になったところで『ちょっと待て』と言われて、ラスト1分で再び出るぞってなったときのモチベーションって難しいと思う。これが、18歳、19歳で初めて試合に出る選手だったら別だと思いますよ。でもあいつ、点を取った時に本当にうれしそうで。練習で選手にも言ったけど、『キャリアのある選手が最後の1分間試合に出てアシストをして、こうやって喜べるか?』と。『それはチームにとってすごく大事なことなんだよ、自分が喜べるかどうか、ちょっと想像してみろ』と。この気持ちがチームを変えていくんだと。
 征也のことだけが言いたいわけじゃなくて、他のみんなもそうなんだけど。試合に出られなくなったらふてくされて、結果1分しか出られなかった、『どうせ俺なんか、敗戦処理じゃん』、逆なら『勝った試合の時間稼ぎじゃん』と思うのか。でも俺からしたら、そこでやれるかどうか。それを湘南に来て間もないヤツがやってくれたのは、元々征也が持っているパーソナリティでもあるんだけど、すごくありがたいと思った」

 曺監督は、その試合でベンチ外となった選手のことをバックアップメンバーと呼ぶ。監督にとって常に選手全員が横一線だ。

「みんな、90分間試合に出たい、先発で出たい、ベンチにいるより先発が良い、メンバーに入れないんだったらベンチの方が良い。みんなそうなんだけど、それぞれが何か役割を果たしているっていう気持ちがあれば、出る・出ないのストレスはもちろんあるけど、普段の練習は間違いなく充実します。
 毎日、『どうせレギュラー決まってるから頑張ってもしょうがないや』と思って来るのか、『やってやろう』と思って練習に来るのか。その前提が大事」

 統一された意識のもとで展開される湘南スタイル。結束の固さは、選手一人ひとりの気持ちを大切にしながら日々培っているものだ。そうして過ごすシーズンは、約3分の1を消化したところ。13連勝も道の途中の記録であって、最終的な結果ではない。“やってやろう”の熱い気持ちをJ1の舞台へ繋げるために、一丸となってこのシーズンを戦い抜く。

取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行