ボイス

【ボイス:7月30日】ハングギョン選手の声

長いシーズンのちょうど折り返し地点に、
短い期間ではあるが再び中断がはさまれたJ1リーグ。
ここまで戦った試合でベルマーレは、
2試合続けて同じメンバーで試合がスタートしたことはない。
今シーズンもまた、すべてのポジションで激しいスタメン争いが繰り広げられている。
そんな中で唯一、警告の累積による出場停止以外の試合をフル出場しているのがハン グギョン選手。
「湘南の心臓」というキャッチフレーズにふさわしい存在感が光る。

チャンスは待っていても来ない、
自ら作り出すもの

 曺監督が指揮を執って2シーズン目ともなれば見る側にとっても、2試合続けて同じイレブンで試合がスタートしたことがないスタメン争いのサバイバルぶりも慣れたもの。だからこそ、ハン選手の安定した出場ぶりは逆に目を引く。しかし、そんな見る側の驚きもハン選手にとってはどこ吹く風というところだ。

「誰が出場するかは監督が決めること。試合になれば自分は、監督が指示したこと、チームのためになることだけに集中してプレーをするので、それ以外のことはあまり気にしていません」

 このことについて曺監督は、「言われるまで気がつかなかった」と語る。
はぐらかしている部分もあるかもしれないが、それ以上にハン選手のパフォーマンスが常に安定し、普段の練習から100%の力が発揮できているということでもあるのだろう。
 ポジションは、永木選手とともにボランチを担うことがもっとも多い。しかし、今シーズンはフォーメーションにバリエーションが増えていることもあって、ダブルボランチやアンカーなど、試合ごと、あるいは試合中でも時間帯に応じてタスクが変わる。

「ワンボランチであったり、アンカーであったり、ツーボランチであったり。と言ってもボランチとしての役割がそう変わることはないので、システムの変更によって自分のプレーが変わることはない。常に自分は、守備の中心になることを考えているし、攻撃の起点になることもできる。いつもチームのためにどうすれば良いのかということだけを考えています」

 ポジションよりも気になっているのは、いまだ得点が挙げられていないこと。

「チャンスが来たら、という考えではダメだと思う。チャンスは自分で作らなければいけないと思っている。まだまだ自分の能力が足りないということですね」

 自らのプレーを分析する言葉から伺えるのは、献身的なプレーを支える謙虚でストイックな性格。リーグ前半のチームの戦いぶりについての振り返りでも厳しい言葉が並ぶ。

「前半を終わってみて、勝てた試合を取りこぼすようなことが多かったし、相手をリスペクトするあまり、自分たちの実力が出せなかったこともあった。そういう残念な試合が多かった気がします。
 負けた理由は、相手よりも能力が劣っていた部分もあるけど、サッカーというのは、“自信”がある・ないということがプレーに大きく影響すると思っているので、チーム全体として自信を持って試合に挑めなかったというのが一番の原因だと思っています。
 順位は、成績が悪ければ下がるものだから、妥当だと思います」

 J1とJ2の違いについて感じていることは

「J2は、僕たちが意図してプレッシングをかけることによって相手がボールを失うのではなくて、個人的なミスによってボールを失う。つまり、相手が自らミスをしてくれたというのが多かった。でもJ1の選手たちはそういうイージーなミスはほとんどしない。それに、ゴール前の決定力に差がある。J1は、決めなければいけないところは、必ず決める、J2のチームは決められない。
 うちのチームにも同じことがいえると思います。先制ゴールを挙げれば、その後の試合展開がラクになるのに、なかなか先制できなかった。まだまだ決定力がないと思います」

 7月10日に行われた第15節の柏レイソル戦は、出場停止によって今シーズン初めてスタンドから観戦した。この試合では、待望の先制点が生まれたが結果的に逆転を許してしまっている。

「試合を観ながら、うちのチームはまだまだだなというのを感じました。
 あの試合は、柏に押されているとか、柏のほうがうまいという印象はなくて、むしろ自分たちのペースの試合でした。先制点を挙げて、その後にも追加点のチャンスもあったのに、そこで得点を挙げることができなかった。柏は、たった2回のチャンスをしっかりモノにして逆転した。その決定力の差というのが、下にいるチームと上にいるチームの差だと感じました」

 現在、17位。それでもJ1で生き残らなければならない。

「うちのチームには、スーパースターはいない。だから、個人の力ではなく、みんなでまとまって集団で戦うしかない」

 日々のトレーニングは意図したプレッシングによってボールを奪うために積んでいるもの。攻守に渡ってピッチ上に同じイメージを描きながらシーズンの終わりまで、チーム一丸となって戦っていく。

国を代表するのは誇り
自分をサポートする、すべてに感謝

 リーグ戦前半が終了した時点で挟まれたブレイクは、東アジアカップが開催される代表のカレンダーによるもの。ハン選手は、ブラジルワールドカップに向けたアジア最終予選に続いて2度目の招集を受け、このカップ戦に韓国代表として参加した。

「国を代表するチームに選ばれたことはやっぱり名誉なことだし、光栄です。その反面、責任とプレッシャーは比べるものがないくらい大きい。それでも、その責任とプレッシャーに打ち勝たなければ国家代表の選手ではないと思っています。それに、代表に選ばれるということは、自分だけのものではない。周りにいるすべてのもの、すべての人たちに感謝しなければならない。そういう感謝の気持ちは、常に持っています」

 ハン選手が怪我でロンドン五輪代表を離脱するというつらい経験をしたのは、ベルマーレをサポートする誰にとっても記憶に新しいところ。帰国後は、気持ちを入れ替えてリーグ戦に集中しているように振る舞って、そこにある思いについてはおくびにも出さずにいたが、その経験による傷の深さは。計り知れない。

「怪我をしてオリンピックに出られないというのがわかった瞬間は、悲しくて、これ以上悲しいことって他にあるのかなと思うくらい落ち込みました。1年分の涙が流れたんじゃないかと思うくらい泣いたし、この悲しみが消えることはないんじゃないかと思うくらいつらかった。
 でも僕は、オリンピック代表チームにいるとき、サッカー的にも成長したと思うけど、それよりも人間的に成長できたという印象がありました。残念ながらオリンピックの舞台には立てなかったけど、自分はこのチームにいる間にすごく成長できたから、そんなに悲しむことはないんじゃないかなって、思ったんです。それから、オリンピックは重要なイベントだけど、サッカー人生においても、長い人生においても、ただの一部だと思うように努力したんです。それで立ち直ることができました」

 プロのサッカー選手である以上、誰もが目指す国の代表。そこには、最高峰のレベルで戦う以上の喜びがある。

「オリンピック代表は23歳以下という制限がついていたけれど、フル代表は制限がなく、どの選手にもチャンスがあるもの。選手であればどこにいても自分を成長させる努力をしなければいけないし、自分が掲げる目標のところまでに行くために、もっと努力をしなければならないと思っている。自分自身を甘やかすことなく、努力していきたい」

 フル代表デビューとなった6月4日に行われたレバノン戦では、いつものボランチではなくもう一列前の攻撃的なポジションで出場した。結果として自分自身、納得がいかないパフォーマンスになったという。しかし、その経験もまた、糧として成長していかなければ、次はない。

「代表の招集があったら、自分は必ず呼んでもらいたいと思うから、そのために努力する。だからこそ、クラブでの普段の練習から常に努力するという強い思いを持っている。でも、代表は長い目で見るものだと思うから、1度失敗したからといって焦る必要もないと思う。ただ、呼ばれるごとに代表への思いは強くなっていることを実感しています」

 東アジアカップでは、中国戦にボランチとしてフル出場を果たした。その評価は上々だ。この試合で得たものは? また、フル代表で過ごした日々がどんなものだったのか? それはまた、別の機会に紹介しよう。

夢はワールドカップのピッチに立つこと
そのためにも日々成長を

 ベルマーレで迎える4度目のシーズン。線が細く、頼りない印象の10代からたった4年の間にフル代表に招集されるほどに成長した。

「日本に来たばかりの頃は、今のプレースタイルとはまったく違う選手でした。自分自身のプレースタイルを見つけ出し、確固たるものに築き上げてくれたのは、今、山雅(松本山雅FC)にいる反町監督。1年目は、『自分はこれしかできない選手なのか』とか、毎日悩むことが多くていつも苦しかったし、本当につらかった。でもつらい1年目があったからこそ、自分は成長できたんじゃないかと思います」

 11年ぶりにJ1に復帰した年に加入したハン選手。最初の数試合こそ出場機会に恵まれなかったものの、シーズンの後半はほとんどの試合に出場した。来日1年目で、J2への降格を経験することとなった。

「その1年目を耐えたからこそ、2年目はそこまでつらくなかった。ただ、チームの成績が悪くて、自分自身よりチームの試行錯誤から多くを学んだ年でした。
 3年目は、自分がオリンピックに出られないという問題はありましたけど、チームとしては本当に幸せなシーズンだったと思うし、最後に昇格を決めた瞬間は、僕は誰よりも喜んでいたと思います」

 大きな悲しみと喜びを味わった3年目のシーズンを過ごし、今、4年目のシーズンを再びJ1リーグで戦っている。

「幅が広くなったのか、自信がついたのか、どう表現していいかはわからないけど、試合に負けても精神的に揺らぐことなく、安定したシーズンを送っていると思います。
 動じないこと、揺るがないこと。うれしいときも、そのうれしいという感情に引きずられることなく、悲しいときも、悲しみに引きずられることなく、常に。最近よく考えることなんですけど、有名な言葉で『時はいつか過ぎる』というのがあるんだけど、うれしい瞬間も悲しい瞬間も、時が過ぎたらうれしさも悲しさもなくなる。そういう揺るぎない、流されないという感じになってきているんじゃないかと思います」

 巻き返しを狙うリーグ戦後半
ひとつでも多くの勝利を目指す

 前半戦の成績は3勝4分10敗の17位。選手と心をひとつにして、戦い続けてくれるさらなるサポートを願っている。

「選手はいつでも応援してもらいたいと思っています。いつでもスタジアムをいっぱいにしてほしいし、もしスタジアムに来られなかったとしても、心のどこかでベルマーレを応援してもらえれば選手たちは頑張れる。そういった気持ちに応えられるようにベストを尽くしたい」

 良いときも悪いときも最善を尽くして、目指すのは次のステップ。挫折を乗り越えてステップアップを続けるハン選手は、巻き返しを狙うリーグ後半に向けて心強い存在だ。

取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行