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【ボイス:11月20日】田村雄三選手の声

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 2009年シーズンも、あと3試合。J1への昇格の席は、2つが埋まり、残るひとつを勝ち点で並ぶヴァンフォーレ甲府と争う。
 この最後の大詰めの時期に来て、自分たちの力で昇格を勝ち取れる位置にいるのは、昇格争いに絡めるようになって初めてのこと。厳しい戦いは続くが、それが経験できるのも、積み上げてきたものがあればこそ、だ。
 特に、ここ2~3年のチームの成長ぶりには目を見張るものがある。
 リバウンドメンタリティを植え付けた菅野前監督から、自分で考えることを要求する反町監督へバトンが受け渡され、選手の自主性が育ってきたように思える。その結果であろう、先頭を走ること、声を出すこと、どんなに小さなことでも選手みんなが自分がチームに貢献できることを自分で考え、実行している。
 そういった選手の中で、ひと際強い力でチームを支えているのが田村雄三選手。派手さはないけれど、熱い思いがほとばしるプレーで、強烈な存在感を放つ。
 入団5年目、3度目の昇格争いに身を置く今、覚悟を持って戦いに臨んでいる。

voice_091120_03一人ひとりに自覚を促した、
マンツーマンディフェンスと日替わりキャプテン。

 J1昇格へ向けての戦いの日々も大詰めを迎えつつあるリーグ終盤。週末には、勝ち点で並ぶ甲府との直接対決が待っている。
 勝ち点が並んだのは、大一番を前にした第48節、ホームで戦った東京ヴェルディ戦。甲府に勝ち点2差をつけられて4位にいたベルマーレは、その差を埋めようと強い思いで臨んだが、先制しながらも逆転を許してしまう。ロスタイムも残り数秒というところで阿部選手が決めた得点で同点に追いつき、何とか勝ち点1を得たが、試合終了直後は手にすることができなかった勝ち点2の大きさを重く感じることとなった。
 結果的には、同時刻に試合を行っていた甲府がアビスパ福岡に敗れたために、必死の思いでもぎ取った勝ち点1が生きるという恵まれた展開となったが、めざしていたのは勝ち点3だったことを思うと手放しではよろこべない。田村選手も、ヴェルディ戦については、納得していないというのが本音のようだった。

「入り自体はそんなに悪くなかったと思いますし、そういう中で自分たちのミスで点を入れられたっていう感じもある。あの試合なら永里源気(2004~2008年ベルマーレに在籍)が元気だったので、そこを試合中にもうちょっとケアできたらなというのはあるけど、そのあたりが実行に移せなかったというか。
 うーん、絶対に勝たなければいけない試合だったと思うから、終わってみたら、甲府の結果もあって3位ですけど、ヴェルディに勝っていれば、このあと甲府で勝てばホームで決められたかなとか、そういうのもいろいろ思いますし。終わり方としたら劇的で勢いがつくかもしれないけど、僕自身は、ちょっともったいなかったなっていう、そっちの方の思いがありますね」

 ケアしようとしてしきれなかった左サイド。ヴェルディの得点はすべてベルマーレの左サイドを起点とされたもの。クロスからの失点が気になる最近のベルマーレと戦うにあたっては、これはまさに相手のもくろみ通りだったということになるだろう。

「源気は独特の間もありますし、そこが源気のうまさだったかもしれないし。ヴェルディの配置的には右側(ベルマーレの左サイド)から攻めようとしていたと思うので、そういうところからやられたのはちょっと。課題というか、今さら課題なんてないんですけど、悔やまれますね。
 4-3-3は、単純に考えて前が1枚多くて、中盤が1枚少ない。前には強い分、自分の脇がひとり足りない分、空くわけで。自分が2人分動けば良いっていう話でもありますし、そこに行く前に取るっていうこともある。
 あそこに俺がひとりでいるっていうのは、俺にまかされたところ、そこをどうにかしろってことだと思う。極論すると、お前がそこをひとりで守れば、前には人数いるんだから、点が取れるんだよということ」

 常に主導権を握ってゲームを進めるのが、最善の対応策。守備に回った場合は、中盤まででボールを奪取する。何よりサイドを突破させない事が大切だ。

「そういう形になった時にいかに落ち着いて対処するか、ボールに近い人が行って、どんどんずれながら慌てずに遅らせるか、ということ。
 第一クールの時は、クロスからの失点をなくそうということで、ほとんど失点してなかった。もちろん今も課題としているけど、最近はちょっとやられているのはある。真ん中から崩されたっていうのは、ほとんどないと思うけど。
 それにうち、最後はマンツーマンなので、相手が動けばうちのディフェンスも動く、そこでうまくクロスを入れられちゃうと、多少遅れる部分もあると思うし、相手も研究した上でそういうことをやっていると思う。だけど、自分たちもそれを絶対にやらせないように練習をしているわけなので、そういう意味でやられているのはちょっと残念というか悔しいです」

 守備については、ゾーンディフェンスが主流だが、ベルマーレではマンツーマンディフェンスが採用されている。マンツーマンで遅れることがあるというのなら、ゾーンディフェンスの方が良いのではないだろうか?という疑問がわくが、

「リーグ戦が始まる前に去年を振り返って試合を観たんですけど、『あ、なんでこんなにマークについていないんだろう?』って思うシーンがたくさんあった。去年はゾーンでマークについていたんだけど、だいたいこの辺、みたいな感覚でマークをしていたことがビデオを観てわかった。結局人をつかまえていないからシュートを打たれる。反町監督が去年までの試合をどれくらい観ているかわからないですけど、そういうのもあってマンツーマンにしたのかなと思います」

 責任の所在がはっきりと、誰の目にも明らかになるマンツーマンディフェンスだから、失点後、シュートを決めた相手選手を確認すれば、誰がマークを外したかは一目瞭然だ。だが、失点のあと、選手同士で責めるようなシーンを観ることはない。むしろ、ぎりぎりで守り切ったあとに話をしているシーンの方が目立つ。

「一人ひとりがすごい責任を感じているし。誰かがやってくれるっていうんじゃなくて、一人ひとりが責任を持ってやっている。
 キャプテンを決めてないっていうのも、そういうところだと思いますし」

 選手一人ひとりが背負う責任の重さを知っているからこそ、失点に絡んでしまった仲間を責めない。実際、ヴェルディ戦の失点について田村選手が口にするのは、自分に課せられたタスクについてであり、反省点だ。
 もしかしたら今、選手一人ひとりが背負っているものは、戦いに送り出す立場からの想像を遥かに超えた重さなのかもしれない。ヴェルディ戦を振り返った感想からは、そんなことが伺えた。 

voice_091120_02攻撃的な守備。
それが田村流のアクション。

 入団当初はディフェンス登録。実際に試合出場を果たしてきたのもディフェンダーとしてのポジションが多かったが、菅野前監督が本格的にボランチで起用し、今シーズンはそのままミッドフィルダー登録となった。サッカー歴をたどると、大学までどちらのポジションでも起用されていた記録が残っている。

「小学校の時からだんだん後ろに下がってきたんですよね。
 大学は、憲剛さん(川崎フロンターレ:中村憲剛選手)がいた時は、今に近いっていうか、憲剛さんがアジエルのように前で自由にやっていて、その時は3バックだったので、その3バックの前で懸命にディフェンスをしていました。守備的なボランチですね、はい」

 サッカーを始めた子どもの頃は、誰もがフォワード。そういった中で少しずつ、個性に応じてポジションが割り振られていく。田村選手は、どこに配されようと、より高く買われていたのは、守備的な能力のようだ。

「前の選手じゃないなって、自分で思ったんじゃないですか。
 今もそうなんですけど、正直、残り3試合になって俺、自分で伝説になるようなすごいシュート決めてやろうなんて、一切思わないですから。一個もないっす!攻撃は、一切ノータッチなんで(笑)。いや、ノータッチじゃないですけど(笑)。
 あ、むしろその前、相手選手がドリブルしたのを止めて、ちょんって繋いだのが起点でゴールになったらうれしいなって言うくらいです。あんまり目立ちたくないんです。黒子でいたい、Mr.黒子でいたいです。
 確かに、年に1回くらいは点を取ったこともあったけど、でもそういう欲を出しちゃうと余計なことになっちゃうんで。俺がボールを追い越すことは大概ない。基本的に中1枚なので、ボールを追い越して、もしそのパスがミスったり、自分がミスったりすると多分すごいスペースが空いちゃうと思うんですよ。だから基本的にボールを追い越さないようにしているんですよね。リスクマネジメントの田村って呼ばれたいくらいです(笑)。そこを徹底してやろうかと」

 田村選手自身も、気になるのは攻撃よりも守備の方。反町監督は、よく自分たちのサッカーを仕掛けると言うが、田村選手にとってみれば、“仕掛ける”という言葉も守備面での仕掛けを意味する。

「自分はどっちかというとディフェンスの選手なので、相手のアクションにあわせるよりは、自分たちのアクションからボールを奪いにいくっていうっていう感覚の方が近いですね。反さん(反町監督)がよくゲームの時に『アクションアクション』って言いますけど、チームが攻撃をしている時ほど自分は、どこにボールが落ちてくるかな、転がってくるかなとかそういうことを考えてます。だいたいの予想を立てたりとか。
 それと、例えば幸平さん(臼井)が上がったら、後ろの人数を数えて、相手フォワード2人に対して3人、プラス1絶対いるように。そういうのも自分はアクションだと思ってます。そうそう簡単に点は取らせないぞと、ピンチになる前に防ごうと思ってます」

 田村流のアクションがもっとも発揮されるのが、やはりアンカーとしての役割を全うしている時。以前は、1対1の強さの方がクローズアップされたが、今年は読みの良さが光る。

「エサ、バラまいてますから。ボールを持ってる選手に対して、テラさん(寺川)とか紘司さん(坂本)が追いかけてきてくれてるから、ここに立てばこっちには出せないな、出してもテラさんの足に当たるなとか、そう思ったらこっち側に出させるようにエサまいて。
 こっちにヤマを張ってるフリをして反対側を緩めておいて、そっちに出た時に取るとか、どっちにトラップをするかな?と狙うとか、その時に取れなくても次が狙えるとか。そうできるようにエサをバラまいてますよ。
 そうやってボールが取れるのがベストな形ですけど、それができなくても誰かと挟み込めたりしたらいいんじゃないかと」

 現在は、4バックの前でピッチの横幅68mをプレーエリアとしているが、このシステムになったのは監督が変わった今シーズンから。新しいシステムを構築するにあたって、どんなふうにポジションを理解していったのか、振り返ってもらった。

「はっきり覚えてないんですけど、4-3-3の練習は、沖縄キャンプの終わり頃からはじめたと思います。キャンプの前半はホント走りだけだった。後半にちょっとボールを使ったけど、反さんの考えるサッカーを浸透させるような練習だったから、ゲーム的な感じは本当に終わり頃しかやらなかったので、アンカーを指示されたのは、その頃ですかね?キャンプ明けにフィンランド(代表)とやったとき(2009年2月1日実施の練習試合)はそうでした。僕自身は、海外サッカーとか観ないので、4-3-3と聞いてもイメージも湧かなかった。
 このポジションをやる時に言われたのは、逆サイドからペナ幅何回シャトルランできるかだ、とか言われて、俺、結構単純で物事考えるタイプじゃないんで、『じゃあ、走らなきゃいけないな』と。どっちかというと、自分には合ってたかなと思います。考える前に走れば良いんだなと思いましたし、潰せばいいんだろみたいな感じでしたから」

 どこでも与えられたポジションをやる、ということを信条にしている田村選手らしい明快さだ。

「最初は、ホントめちゃめちゃきつかったですよ、要領がわかるまでは相当。開幕するまでにはある程度整理できましたけど。
 それでいいスタートは切れたけど、第2クール入る前位に研究されて、課題も出てきて。中盤が1枚で薄くなっている所を使われて、じゃあどうする?ってなった時に、そこは引くんじゃなくて逆に使われる前にボールをとろう、ということになった。それが実行できたのが4連敗したあとのアウェイの横浜FC戦からだと思います。
 そこからうまく積み重ねてきたんですけど、また勝ったり負けたりした時期もありました。こういう経験をふまえて、相手の出方というのもありますけど、やっぱり自分たちで仕掛けた方が良いと思いますね」

 オーケストラの指揮を執るのは反町監督だが、各ポジションの選手が自分らしい理解でさまざまな“アクション”を仕掛ける。それがベルマーレの強さ。
 残り3試合、どんなハーモニーが奏でられるか、その目で耳で確かめよう。

voice_091120_05男がかっこいいと思う男、
反さんを信頼しています。

 田村選手にとって欠かせないセンターバックとのコンビネーション。効率よくエサをまき、ボールを狙い通りに奪取するためには、センターバックと距離を近くして、ラインを高く保つという条件がある。しかし、90分の中で常にラインを高く保つことは難しい。また、センターバックの選手の特徴によっても変わることがある。
 例えば、現在スタメンでセンターバックを務めるジャーン選手は、裏にスペースを作らないよう比較的ラインを低くしたいタイプで、村松選手は高くラインを保ちたがる。

「大輔(村松)は走力もあって裏にも強いですし、ジャーンはどっちかっていうと自分の前に敵を置いて、ディフェンスはそこからでいいっていうタイプ。だからジャーンとは、試合中もラインを高く上げるように話しています。ラインを上げると選手間の幅が狭まってプレッシャーがかかるから敵も良いパスは出せない、だから裏を取られることはそうないよって言って。相手がボールを蹴る瞬間に下がってくれれば十分間に合うからっていう話をして、ラインをコントロールしています。
 それにラインは高くしたいけど、ジャーンはジャーンの良いところがあって、大輔は大輔の良いところがあって、監督もスタッフもそれはわかってる。そういう上で、ということだから。監督は、ベースの部分は言うけど、試合中は自分たちで感じろ、と言いますから」

 良いところも弱点もわかった上で選んだ11人。反町監督は、自分が選んだメンバーを信頼し、試合が始まったあとは、選手自身に判断を任せることが多い。そのせいか、試合の間、反町監督が席を立ち、大声で指示を送る姿を見ることは少ない。

「俺は、試合中はベンチの方は見ないんで、わからないんですけど。
 もともと反さんが最初に、試合になったら大声出しても観客の声で聞こえないからお前たちに任せる、というようなことを言っていた。
 だから、相手がどう出てくるかとか、例えば前節3-5-2だった相手が試合が始まったら4-4-2だったりということは、自分たちで感じろって。相手の出方とか、相手がこういう風に攻めてきてるなとか、そういうのを試合をしながら感じて、その中で自分たちで考えてやれば良いと。
 試合は、ミーティングとかいろいろなことを含めて、最高の準備をしてもらった上で、反さんが選んだ11人を送り出しているわけで。戦っている選手も信じて送り出されているっていうのを思って、その責任を感じながらプレーしています」

 どんなに戦術を立てても、何を言っても、キックオフの笛が吹かれれば、試合は選手のもの。選手自身がピッチに立つ責任に、誇りとよろこびを感じていなければ、結果は言わずと知れている。
 田村選手の言葉からは、反町監督から、良い影響を受けていることが伺える。

「最初は、反町さんイコールすごい人、みたいな感覚があった。だから反さんが監督って聞いた時に、すごい人が来たと思った。それに五輪のあと、サッカーはやりたくないと言っていた人が、もう1回監督をやろうと引き受けたんだから、相当な覚悟があるんだろうなと。
 実際に接した感想は、男が、この人かっこいいなと思う男。自分の口で、『責任取るのは俺なんだから、お前らは一生懸命、思いっきりやってこい。縮こまるな』と言ってくれることがすごいと思う。普通は、そう思っていたとしても、同時に誰か俺を守ってよと思う部分が多少あると思うのに。
 他にも、普通はなかなか言えないようなことをズバッと言う。選手はみんな平等だし。俺は、ブラジル人選手は助っ人だからってちょっと気を遣っていたところがあったんだけど、反さんのおかげで変な気は遣わないでいいんだなと思えるようになった。今は気を遣いすぎないで本当に自然体の仲間という感じ。
 サッカー観も影響受けましたね。
 ゴールに入れるのがサッカーだから、横パスよりタテにどんどん入れろって。『ああ、確かに』って。当たり前なんだけど、忘れていたことを言ってくれる。
 『サッカー選手なんて練習やって、メシ食って、休むしかないんだ』とか。『確かに!』って(笑)。
 多分反さん、腹の中で思っていることを全部言ってるんだと思う。嘘がないからすごく言葉に説得力がある。
 だから信じられるし、ついて行きたいと思う。監督として、本当に信頼しています」

 反町監督への絶大な信頼。ただ、ここで見逃せないのが、どんなに素晴らしい教えでも、受け入れられる素直さや度量がなければ何の意味もないということ。先輩たちの教えに素直に感動し、学んで行くその姿勢こそが田村選手の成長の秘密。

「反さんが監督として指揮を執ってくれて本当に楽しい。サッカー自体が逃げのサッカーじゃない。横パスなんかするな、タテにどんどんつけろ!ですし。『確かにそうだよな、サッカーってそうだ、ゴールに入れたもん勝ちだよな』というのをすごく学んだというか、印象づけられた。
 それに自分でも、ただの潰し屋ならどこにでもいるから、ちょっとずつ何か変化しなくちゃなと思うようになった。
 ディフェンスラインから1つ前のポジションに入って、とにかく運動量を見せてどうにか潰そうって、それでいっぱいいっぱいだった一昨年があって、去年である程度整理されて。去年ももちろんそれプラス何かできないと毎年成長している自分じゃないけど、そういう中で今年は反さんが『サッカーはミスのスポーツ。ミスがつきもののスポーツでミスを恐れていたら何もならない』って言ってくれた。その言葉を聞いて本当にチャレンジしようって思えた。欲じゃないけど、自分の中で毎年成長するためのプラスα、何かをしていかないといけないと思えた。そうやってチャレンジしようって思えたのは、自分の中ではちょっと変化だったのかなと思います」

 100%の信頼が生み出したのは、成長したいと意欲的になったチャレンジ精神。そういった変化を呼ぶパワーが就任1年目にも拘らず、昇格への可能性を大きくしているのだろう。

voice_091120_04プレッシャーだった2年の経験を今こそ活かす、
どんなことでもやる、覚悟はできている。

 田村選手というと、気になるのがファウルのこと。プレー自体は、クリーンだけれど、ポジション柄、ぎりぎりのプレーも少なくない。今季は、1試合に2枚のイエローカードで2回退場になっている。人一倍チームのことを思いながら、ひとり少ない状況をチームに作ってしまうことについては、どう思っているのだろうか?

「今年、こんなに退場するとは思わなかったですけど、良くはないです。でもなんで俺なんだろうっていうのもありました。
 俺自身は、選手として自分で自分のことを過小評価はしてないですし、自分が出られない時に出る仲間に対しては、ちゃんとやってくれると信じてもいます。
 そういう意味で自分を守る必要はないので、行くとこは行こうかなと思ってます」

 “行くところは行く”の意味はというと、

「最初に2試合出場停止になった、ホームでやった栃木戦ですかね、あれはテラさんがペナの前でボールを取られて、その選手がドリブルしようとして、『こいつ打つな』と思ったので、ボールに関係なく、イエロー覚悟で止めに行きました。自分が2試合出場停止になるなと思ったけど。その時は、ここで点を取られるくらいなら止めちゃえみたいな。
 代償としてイエローカードだけど、そこでズバンとやられて負けた方がイヤだなと思います。なんで俺、あそこで滑れなかったんだろう?なんで俺、カードにビビってんだろう?という後悔はしたくない」

 最終的に引き分けた試合だが、前半のうちに得点したベルマーレに対して、後半の中頃に得点を決めた栃木SCは、尻上がりに調子を上げて攻めて来ていた。栃木に傾いた流れを感じていたからこそ、のイエローカードということだ。もちろん、褒められるものではないがそこにあるのは、やらない後悔より、結果は退場の上に2試合の出場停止でも、勝つことにまっすぐ繋がった道を選びたい、という思い。

「もしこれで優勝が決まるっていう試合で、1点リードしていて残り5分という状況で相手チームに点が入りそうになったら、俺、手ではじき出しますよ。あとはノジさん(野澤)、PKを止めてくれと託します。
 もちろんイエローはもらわない方が良い、その点で自分はまだまだ未熟なところがあると思うんですけど、でもそういう姿勢をなくした自分ではいたくない。自分がイエローをもらっちゃうからって逃げ腰になる自分は自分らしくないって思います。
 退場するのはもちろんイヤです、チームに迷惑をかけますから。だからイエローはもらわないで、点を防ぐプレーをできるのが一番だとは思いますけど。だからあのセレッソ戦の大一番もそうですし、栃木戦も、やっちゃったなぁっとは思ってます」

 イエローカードに目をつぶると、そこに見えるのは、昇格を争う状況の中で見せる勝利への執念、勝ち点1へのこだわり。つまりは、J1昇格への思いの強さだ。

「J1は、なんとしてでも上がるしかない。自分はJ1に上がるためなら、『これ行ったら骨折するな』と思うところでも行きます。
 正直な話、年間通して選手は、すごいプレッシャーを感じてきた。考えれば考えるほど、いろんな人の思いやそういうものを背負って立っている。でももうここまできたら、俺はもう超えたかなって。それを超えて、勝つために自分がやるべきことを全うするしかない。本当に最後に笑えれば良いと思うだけ。
 中途半端では上がれないと思うんですよね。年間通して戦ってきて、『あの試合勝ってればな、なんであの試合勝てなかっただろう、勝っていれば勝ち点積めているのに』と思うけど、勝ったり負けたりの積み重ねが今、最終節までわからない状況にしてしまったんだし、それは自分たちのせい。だけど、例年になく、自力で上がるチャンスがある。じゃあどうするかっていったら、目の前の敵を潰すしかない。一人ひとりが今まで以上のプラスもうひと頑張りの力を出せば、かなうんじゃないかなと。俺自身は、身を削ってでもやる」

 昨年、一昨年は終盤、ここぞという試合で勝てなかった。昇格のプレッシャーに簡単に負けてしまった。その経験を今こそ活かしたい。

「俺が思ったのは、過去2年間で経験した、絶対勝たなくちゃいけないっていうプレッシャーが自分の中で活きているから、超えた感じになれたのかなということ。初舞台じゃない。だから今年初めて昇格争いをしている選手がプレッシャーを感じているだろうこともわかる。
 それと、よく思うのは、『仙台は去年入替戦までいって負けてるんだから、俺たちよりずっと悔しい思いをしてたんだ』ということ。去年の悔しさの分でいったら俺らが負けてる分、仙台は先に決まったのかなと思う。かといって、自分たちが悔しくなかったのかっていったら嘘ですし。それで今、3位かなと。
 もちろん48節頑張ったから3位というのもある。そう思うと、『残り3試合、俺らもっとできるだろう!』と。ここでやらなかったらいつやるんだっていう話。
 ここからは、気持ち次第だと思う。技術じゃなくて『絶対上がる!』って思う気持ちが、チームとして、練習をやっている全員で揃うかということ。良い方向に向いていると思います」

 今年は、若手も少しずつ成長し、去年の昇格争いを試合出場という形で経験していない選手も昇格争いの渦中で頑張っている。田村選手は、そういった選手が感じているであろうプレッシャーまで思いやりながら、自分のぶれない気持ちを語る。

「自分は本当に断固たる決意というか覚悟は持っています。勝つためには、なんでもしようと思います。かといって特別なことをしたらリズムが狂うから、普段は至って今まで通りにやって、チームの雰囲気とかを含めてあと1ヶ月、みんなで乗り切っていければなと思います。
 正直、『俺たち、緊張感ある試合できて良いな』っていうしびれるワクワク感はあります。特に次なんて直接対決の最高の舞台。チケットは完売でアウェイ。相手を黙らせるにはたまらない条件が揃った。『やってやろうじゃないか』と思う。
 メンバーはまだわからないですけど、その試合にベルマーレ代表として出たら、誇りと責任を持ってやるっていうこともすごく感じていますし、そのプレッシャーに負けないで90分、フルにやろうと思う自分もいる。
 でも、残り3試合というふうには考えられないんです。自分たちは1段1段上るしかないんですよ、あと3つの階段を。3つを上るには、まず1段上らなくちゃならないので、ホントに甲府戦のことしか考えてない。残りの3つ全部大事な試合だと思うけど、残りの2つをもっと大事にするために、まず甲府戦を勝たないと本当に意味がない。甲府戦、勝つのみ、戦うのみ。
 今は、甲府に勝って勝ち点を3差に広げる。ホームに、勝って帰ってくる、としか言えないです」

 階段は1段ずつしか上れない、という言葉に過去2年間の経験が生きていることが伺える。
 ピッチに立つのは、ベルマーレに関わるすべての人の思いを背負った選手たち。まずは甲府戦、選手と心をひとつにして、みんなで挑もう。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行