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【ボイス:6月30日】大野和成選手の声

勝っても負けても、目指すサッカーに変わりはない。常々そう語る曺監督がこだわるのは、毎試合勝ち点3を目指して戦うこと。同時に、ネガティブな結果も成功体験に厚みを加えると、結果を問わず、試合のすべてを選手の成長の糧とする指導を行っている。その成果が出ているのか、ベテラン・若手を問わず、どの選手も成長が見て取れる。中でもここ最近、大きな変化を見せているのが大野和成選手。どん欲な向上心が伝わるプレーが印象的だ。

ゼロから戦い抜いてスタメンの座を勝ち取る
そのために練習から120%で!

 ホームで迎えたカターレ富山戦で9試合ぶりに勝ち点3を手にしたベルマーレ。中3日で連戦となったアウェイ山形戦は、勝ち点差4ながら首位を走るチームとの負けられない大一番。この試合で、出場停止が明けた大野選手が今季初めて3バックの中央に入り、果敢なラインコントロールを見せた。

「真ん中は、やっぱりバランスを見ないといけないので、そこを一番意識しています。ラインコントロールは、自分が主導するということ。
 サイドは、前線に上がったりするから結構体力を使うんですけど、真ん中は体力的にはそんなにきつくない。だけど、頭を使うし、周りを見る方に疲れる。初めてのポジションなので新鮮だし、やりがいはあります」

 山形戦に続き、ホームで戦った岡山戦でも3バックの中央に入り、勝利に貢献。しかもこの試合は、完封した。

「完封を意識すると逆にやられてしまうので、大胆にやろうって思っている。それが良かったと思う」

 大野選手から“大胆”という言葉が語られたが、富山戦以降、チームにアグレッシブさが戻ってきた。ディフェンスラインの強きな高さは、まさにその象徴。特に大野選手のラインコントロールは、強烈なチャレンジ精神がみなぎっている。遠藤選手の離脱で心配されたポジションだったが、どの選手が中央に入ってもその選手の個性と意識の高さが伝わってくる。「全員が戦力。めざすサッカーに変わりはない」と語る曺監督の言葉通り、選手が代わっても変わらない湘南スタイルが貫かれている。
 しかし、どのポジションも誰が入っても遜色ないプレーをしているということは、見方を変えれば練習段階でのポジション争いが、どれほど激しいかということ。

「曺さんは、前の試合で良くても、次の週の練習が良くなかったら使わないと常々言っている。常に危機感はありますし、練習から120%やらないと試合に出られない」

 今季新加入した大野選手、まさにそんな環境を望んでの移籍だった。
 
「去年、愛媛(FC)にシーズン途中から行って、試合経験をたくさん積ませてもらいました。ハーフシーズンだけど、90分フルタイムでずっと試合に出られたから、90分戦うということや試合に出続ける中で、課題もすごく見つけられた。それはすごく良かったし、感謝もしているんですけど、もう一度、ゼロからレギュラー争いを勝ち抜いて、試合に出たいっていう思いがあったので、移籍を考えました。
 オファーは何チームかいただいたんですけど、その中で湘南は、若返りを図るっていうし、アグレッシブにやるサッカーだと聞いたので、アグレッシブっていうのは、自分の持ち味とも一致しているから、湘南でならもう一度成長できるかなと思って選びました」

 新しいポジションへの挑戦にやりがいを力強く語る大野選手。その選択に間違いはなかったようだ。

突き詰めてこそのセカンドステップ
練習での積み重ねを大切に

 3バックの中央は新しい挑戦だが、今季は左サイドを中心に、4バックになった時にはサイドバックに入るなど、最終ラインはどこでもフレキシブルに対応し、安定したプレーを見せている。最終ラインに加え、ユース年代やアルビレックス新潟のトップチームでは、ボランチも経験している。

「ボランチだったら前へ攻撃参加できるし、ディフェンスラインだったら強くて良いフォワードとのマッチアップが経験できる。どっちもおもしろさはありますね」

 ベルマーレでは、ディフェンスラインにいながらアシストや得点も記録している。

「攻撃はそんなに好きでも、得意でもない。自分が攻撃の中心になろうとは思わない。だけど、良い形でボールを奪えたら、自然と上がって行ける。ボールがなくても自分が上がることで、ボールを持っている選手の選択肢が広がれば良いし。前から攻撃的に守備に行くみたいな感じですね。やっぱりリスクを冒さないと良い攻撃ができないと思うので。でも最近は、攻撃に参加することもおもしろいと思ってます」

「良い攻撃のためのリスク」という言葉を端的に表すプレーが開幕の京都サンガF.C.戦で見せた、インターセプトからの流れに乗ったアシストだろう。ボールを奪った後は、ためらうことなく前線へボールを運んだ。

「あれはうまくいったかな。チームがきつい時間だからこそああいうプレーができたと思うし、自分の持ち味でもある。
 あの試合は、前半1回上がったのに横パスしてハーフタイムに曺さんに怒られたんです。『持ち上がったら前に行け』って。あの時はホント、大介(菊池)しか見えてなかった。大介も足元だけでもらっていたら多分ゴールはなかったと思うんですね、全力でトップスピードで入ってきたからあの得点に繋がったんだと思います。自分は、パスを出したくらいですね」

 3バックの一角からの最前線まで駆け上がる湘南スタイルは、攻撃面が多く語られるが、緻密な連携による守備があってこそ成り立つ。

「インターセプトは狙いやすくするために前の選手に指示を出してパスコースを限定してもらうことがすごく大事。やっぱりフリーで持たれたら取れないし、裏も狙われてるから簡単には行けない。ボランチやサイドハーフの選手が追ってくれて、パスコースがそこしかないという状況を作ってくれるからこそ。
 スタメンが入れ替わって違う選手が入っても、練習でいろんなメンバーと組んでるから特徴もわかっている。だから、いざ試合となれば誰と組んでも違和感はまったくないですね」

 長いトンネルを抜けた今、雰囲気は開幕の頃のような空気を取り戻しつつあるが、積み上げた経験を振り返れば、戻ったのではなく、まったく違うゾーンにいることがわかる。曺監督は、そのゾーンをセカンドステップという言葉で表した。

「やろうとしてるサッカーは全然間違ってないし、今から変えるつもりもない。相手が研究してくるのは当然だから、その上で僕たちがもうひとつ精度を上げて、ひとつ上のレベルにいければ、本当にいいサッカーができると思うし、結果もついてくるはず。チームとしても個人としてもパスやプレーの精度を上げるしかない。そこをやるのは、やっぱり練習だと思う。試合に向けてもそうだけど、個人のレベルアップを図りたいと思います」

どんなにできても通過点
いつかは圧倒的な存在に

 オリンピックイヤーでもある今年は、ロンドンへの思いを胸に秘めてリーグ戦を戦う選手たちがいる。大野選手は、常に年代別の代表に名を連ねてきた。

「関塚さんが監督になるまでは、怪我で辞退したことはあっても、ずっと声はかかっていたんだけど。
 ロンドンは、行きたかったっすけどね。ワールドユースも逃しているし。今は、『がんばってください』って感じ」

 すでに予備登録まで発表され、U-23に入る可能性はなくなった。今は、その悔しさを糧に成長するしかない。

「目標は、今はやっぱりJ1で活躍したい。そのためにはもっとやらなければいけないし、全然こんなんじゃ満足できない。今は、それに向けて頑張ってる最中という感じ」

 新潟時代にJ1の試合を経験している。

「J1は、個々の能力が高いので。お客さんもより多いし、スタジアムもいい。それでやりがいもある。
 J2は組織で守ってくるチームが多い。そこは全然違うかなと思います。でもJ2でもいい選手はいっぱいいるから、その中で自分のポジショニングなどもっと磨けば、J1に行った時にも活きると思う」

 デビュー戦でマッチアップした、サンフレッチェ広島の佐藤寿人選手の印象が強烈に残っている。

「パワー系は、結構得意なんです。ゴリゴリ来てくれた方が自分的にはラク。外国人選手は、イライラさせたもん勝ち。
 佐藤選手は、ナビスコで広島とやった時にマッチアップしたんですけど、今までにないタイプだった。裏への動きがすごいし、狙っているし。フィジカルが強いわけじゃないのに、ホント出足が早くてうまいので、今までで一番マークにつきづらかった。こういうタイプの選手もいるんだって、すごく勉強になったし、ラインの駆け引きがうまくて、やってて楽しかったです」

 印象に残る選手について、大野選手からは、それ以上の名前が挙がってこなかった。よほどセンセーショナルだったということと同時に、めざすところの高さがのぞいた。

「むしろJ2で負けてるようじゃ、上を目指せないと思っているんで。うまいなって思う選手はいるけど、『すげえな』っていう人は、ちょっといない。絶対かなわないとは全然思わないから、『やれるな』っていう感じ」

 負けず嫌いが向上心をさらにあおる。

「満足したら先はないし、満足できるのは、どこかはわからない。とりあえず今は、対戦相手に、『こいつは抜けない』って思われる位、圧倒的な存在になりたい」

 チームの勝利のために惜しみなく動くことで、結果的に自分自身の幅を広げ、成長も遂げている。どの試合でも、常に自分自身にチャレンジしていることが伝わるプレーが魅力の大野選手は、試合のたびに進化が見える。チームの成熟とともに、選手個々の成長プロセスも、記憶に刻みたい。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行