PARTNERパートナーとの取り組み

SHODAN -湘談-

「優しい地域になってほしい」
オフィシャルクラブパートナーとともに描く次代への願い

南対談企画「SHODAN-湘談-」第9回は、株式会社湘南ジャーナル社 代表取締役の定成幸代さんをゲストにお迎えし、同社とベルマーレがタッグを組んでスタートさせた共生社会づくりプロジェクトについて意見を交わしました。水谷尚人社長、そしてプロジェクトの立ち上げから携わる渋谷剛PR部長兼社会連携部も加わった語らいには、この取り組みの背景にある想い、そして次代への希望が満ちています。 以下敬称略

――オフィシャルクラブパートナーの湘南ジャーナル社とベルマーレが共生社会づくりのプロジェクトを始めた経緯を教えてください。

定成 まず、湘南地域に根差したメディアとしての弊社を評価いただき、代表取締役を務める私が平塚養護学校協議会の副会長に選んでいただいたことがそもそものきっかけです。
平塚市は、盲学校、ろう学校、平塚養護学校、湘南養護学校と、4つの特別支援学校があり、さまざまな障がいを持つ子どもたちに対する教育環境が整っている地域です。ただ、学校協議会の一員となり、その4校を訪問したときに、校長先生や教職員の方々、生徒たちとの対話を通じて、各学校が抱える課題を目の当たりにしました。そこで地域のヒーローであるベルマーレに力を借り、共生社会づくりのお手伝いをしてもらえないかと考え、ご相談したところからプロジェクトがスタートしました。

――特別支援学校における課題とは?

定成 一般的な公立の学校は、学校自体が多くの人々に開放されていることから、地域とのつながりを構築しやすいんですね。その結果、個性豊かなコミュニティ・スクール(※)が実現し、実際、良い変化や効果も数多く生まれていると思います。
でも、さまざまな障がいを持つ子どもたちが通う特別支援学校は、教育だけでなく、心や体のケアも必要で、なにより安心・安全の確保が第一に求められる特別な環境なので、地域に開かれた教育現場を構築することは容易ではありません。加えて、先生たちは安全を担保しながら子どもたちを日々守っているので、疲弊しているし時間もない。だから彼らをもっと外に出してあげたいと思っていても実行するのは難しい。するとどうなるかというと、子どもたちは閉鎖的な学校環境のなかですべてをやってもらうことに慣れてしまい、社会に出たときにギャップをものすごく感じて、途端に潰れてしまうんです。
では、彼らが社会に出たときにソフトランディングできるようにするにはどうすればいいか。一般的な学校と同じように、地域に開かれた環境をつくり、切れ目ない支援を行なう必要がある。そのためには、体力や発信力、影響力など、通常のコミュニティ・スクールの何十倍ものエネルギーを要します。
また、忘れてはならないのが、障がいを持つ子どもの親御さんの存在です。親御さんは精神的にも肉体的にも多くの負担や悩みを抱えています。外に出られなくなり、鬱になってしまうケースもある。障がいを持つ子どもだけでなく、その家族を守ることが地域として必要ですし、そうした理解なしにこの活動はできないと思っています。
そんな私の考えを渋谷さんにお話ししたんですよね。

渋谷 はい。最初は平塚養護学校をご紹介いただいたところからスタートしました。私もこの地域で10数年活動していますが、踏み込んだことのない世界で、はじめは定成さんと平塚養護学校の子どもたちのためにクラブとしてなにかできることはないか、光を当ててあげることができないかというマインドでした。
でも、ほかの特別支援学校もご紹介いただき、足を運ぶなかで、彼らになにかしてあげるというスタンスではなく、まずは私たちが彼らから学ばなければいけない、ギブではなく一緒になにかできないかと思うようになりました。ベルマーレを応援してくださっている方々にも、クラブの発信力や選手の影響力を活かして、ひとりでも多く関心を持っていただけたらと思っています。コロナ禍もあり、いまのところはなにもできていないのですが……。

定成 渋谷さんがいなかったら私も今回の取り組みはたぶん発想できなかったと思うんですよ。だから渋谷さんと一緒に全校を回ったことは大きかったですね。

――共生社会に対して定成さんが関心を持たれたのは、学校協議会の副会長となり、特別支援学校の課題を知ったことに辿れるのですね。

定成 そうですね。ただ、障がいではないんですけど、私は生まれつき顔に大きな母斑があって、それで小学生のときにいじめに遭ったんですよね。「しみ」とか「日本地図」とか言われて、自分のなかで「差」というものをものすごく意識するようになった。だから、なんていうのかな……人との差を個性として捉えるように意識が育ったんです。
幼い頃の体験に加え、アメリカに留学した際の経験も大きいですね。あるとき、車椅子の方がバス停にひとりぽつんといらして、日本のようなスロープのバスではないので、この方どうするんだろうと思っていたら、運転手が下りて担いでバスに乗せたんですよ。そのときに、それを当たり前にやる運転手も、当たり前に受け入れている社会もすごいなと思ったんです。目の見えない方と盲導犬を連れてバーに行っても、周りの人は気にしないし、「あ、目が見えないんだ」と普通に接している。
だから私はどんな人がいても全然驚かないんですよね。個性と捉えているから興味が湧くし、むしろすごく魅力的に映る。この共生社会プロジェクトには、これまでのいろんな経験が活きています。

水谷 こういうことは、定成さんのようにオープンに取り組んだほうがいいですよね。マニュアル通りにやろうと思ってもうまくいかないじゃないですか。

定成 そうなんです。たとえば私の知り合いの外国人が来たときに、子どもたちはお互い言葉が喋れないのに遊び始めるんですよね。自分と相手に違いがあってもまったく気にしない。だから小さい頃からそういう経験をするのは大事かなと思っています。

水谷 U-11年代の海外のチームを招く「COPA BELLMARE」でも、1日目のレセプションから子どもたちは普通に喋っていますもんね。

定成 覚えている英語を駆使して一生懸命コミュニケーションを取ろうとしますよね。それってほんとに人間らしいと思うし、障がい者にも同じように機会があるべきだと思うんです。でもそれをするにはすごくパワーが必要ですよね。だからベルマーレさんが今回一緒に立ち上がってくれることは大きなエネルギーになると思っています。
先ほどお話しした平塚市の4校の支援には、NPO法人やボランティア団体、またいろんな地元企業が手を上げてくださっています。ベルマーレのパートナー企業にも協力していただけたらうれしいですね。

――ベルマーレとしてはどんな役割を担っていきたいですか?

渋谷 クラブのミッションとして「夢づくり人づくり」を私たちは掲げていますが、いままではサッカーやスポーツを通じて夢づくり人づくりに携わっていきましょうというイメージで考えていました。でも今回、こんなことやれたらいいねと定成さんと話したり、最終的にどんなことをクラブとしてやれるかなと考えたりしているなかで、もっと大きな視点で夢づくり人づくりを捉えなければいけないし、地域の方が抱えるさまざまな課題に対してクラブができることはもっとありそうだなと思うようになりました。

ありがたいことに、我々は多くのファン・サポーターに応援していただいています。そしてクラブの取り組みに自分もついていこうと思ってくださる方、ベルマーレの考えに賛同してくださる方がいる。ベルマーレのいいところは、クラブとファン・サポーター、アカデミーの子どもたちが一緒に取り組むことだと思っているので、他人事ではなく、自分事として関わり、発信してくださる方を増やしていきたいと思っています。
障がいを持つ子と同じ時間をともにすることで、アカデミーの子どもたちやトップチームの選手たちは感じるものがあると思う。そして、たとえば駅前の点字ブロックの上に自転車があったらパッとどけてあげたり、信号で困っている方がいたら手を差し伸べたり、そういう当たり前のことができる人たちをクラブとして一緒につくっていく。また障がい者の方々にも、学校では当たり前のようにやってくれたことが社会に出ると自分でここまでやらなければいけないんだとか、人にはこういう伝え方をしなければいけないんだといったことを感じてもらえるかもしれないし、あのスターがこんなことを言ってくれたから頑張ろうかなと、まさに「夢づくり人づくり」に繋がることもあるかもしれない。
先ほど地元企業による支援の話がありましたが、このプロジェクトに賛同し、我々と一緒に活動してくださるパートナー企業が増えたらうれしいですし、直接的には活動できなくてもベルマーレがやるなら支援するよと言っていただけるように、先を見据えて取り組みたいと思っています。

水谷 経営者としての観点だけで言うと、ベルマーレの規模感でこのプロジェクトに取り組むのは大変なことだと正直思います。でも、ご一緒させてもらえばなにかお役に立てるかもしれないし、渋谷をはじめ、トップチームやアカデミーの選手たちが成長する。それはすごく大きな意義だと思っています。
いま社内では、地域の課題を解決しよう、ソリューションカンパニーになろうと話していますが、先ほどのお話にもあったように、一つひとつ突き詰めていくと相当なパワーが必要です。でも定成さんが明るくてパワーのある方だからこそ一緒にやれると思っています。

定成 はは(笑)。違うものや新しいものを受け入れるには勇気がいりますよね。共生社会はタブーとの戦いになるので、突き抜けないとできないところもある。ベルマーレはさまざまな苦しい経験をし、たくましく育ってきたクラブで、それを誇りに思う人たちがこの地域にはたくさんいます。だからこそ、ベルマーレの皆さんがともに行動してくださるのはすごく大きい。
渋谷さんがおっしゃったように、ベルマーレが「やってあげる」ではなく、ベルマーレの皆さんも育っていく。一方で、私たちは障がいのある子どもたちに夢をつくってあげられるかもしれない。まさに「夢づくり人づくり」に向けてやっていけたらと思っています。

――ベルマーレにはどんなことを期待しますか?

定成 地域のスターとしての影響力がいちばんですね。子どもたちにとってベルマーレは夢なんです。そういう存在が自分たちを優先してくれる。それは彼らにとってこのうえない喜びだと思います。
ですからベルマーレには、彼らを表に連れ出すパワーを期待しています。親御さんや先生もベルマーレが関わると、「うれしい」「会える」って沸くんですよ。つまりモチベーションなんですよね。地域のスターが引っ張ってくれることは、彼らの原動力になるんです。

水谷 障がい者ではありませんが、フットサルチームの久光重貴が小児がん病棟を慰問した際に子どもたちの顔つきが明るく変わる様子を僕も見てきました。
あるとき先生に、「すごい」と言われた。「この子たちはもう一生本物を見ることがないかもしれない。でも本物のプロフットサル選手である久光さんが来てくれて、一緒にボールを蹴ってくれて、みんなすごく笑顔になったでしょう」と。そして、「子どもたちが笑顔になると親が笑顔になる。親が笑顔になると看護師さんが笑顔になる。看護師さんが笑顔になると私もうれしい。だから笑顔の連鎖が生まれるこの活動をぜひ続けてください」と言っていただいた。そのときにアスリートのパワーをあらためて感じました。

定成 たしかにそうですね。いまは医療が進歩し、技術が発展したことで、障がい者と診断されることが増えてきているんです。そのときに、それを障がいと言うか個性とするかはすごく大きな議論があると思う。日本ではすべてを障がいとしてラベリングしてしまうんだけど、その結果なかなか天才が生まれてこないし、秀でた能力を出しづらい国になっていると思うんですよね。病気と捉えるのではなく、天才が生まれるものだと考えれば全然タブーではないのだけれど、病名のラベリングが強化されてしまっているので、そこから脱しないとインクルーシブ社会としては世界から遅れている国になりますよね。
ただ、とはいえほかの国にも差別はあるし、私もアメリカで皮膚が黄色いと言われました。だから一筋縄ではいかないのだけど、できるかぎり優しい街にしたいですよね。優しい地域になってほしい。たとえばみんなが手話であいさつできるとか、ほんとにシンプルなんですけど、それができるだけでこの地域はものすごく優しいって思うんです。
ベルマーレには、そういう一つひとつを達成していく代表者になってほしい。小さな実績でも最初がいちばん大事だから、渋谷さんにも学校と地域を繋げるパイプ役として入っていただけるように私も頑張りたいと思っています。

渋谷 よろしくお願いします。

定成 うちの会社ってほんとベルマーレが好きなんですよね。「新たな取り組みを生み出し、地域を応援する・地域の人の役に立つ情報を発信する」という初代代表である祖父のDNAをもとに、先代の父はすべての熱をベルマーレに注ぎました。
そして私の使命は、地域に根差し、差別や多様性をテーマに取り組んでいくことかなと感じています。その発信場所として、また地域と繋がっていくためのものとして、湘南ジャーナルの存在意義があると思っています。

水谷 ありがとうございます。これは新たなチャレンジだし、続けることが大事ですよね。そのうえで我々としては、フロントはもちろん、選手やコーチなど現場もきちんとこの取り組みを共有していかなければいけない。

定成 地域のカラーになっていくと思うから、一枚岩になることは大事かもしれないですね。水谷さんがいつもおっしゃっている、みんなが同じ方向を向くというところですよね。

水谷 はい。なぜクラブとしてこの取り組みを行なっているのか、誰が聞かれてもきちんと答えられるように全員が認識していることが重要だと考えています。引き続きよろしくお願いします。

(インタビュアー 隈元 大吾)

※コミュニティ・スクール…学校・保護者・地域住民・学識経験者等をふくむ地域社会が学校運営に参加することで地域と学校が一体となり持続性を確保して教育活動の改善や子どもたちの健全育成に取り組む制度