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【ボイス:9月24日】田村雄三選手の声

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 天皇杯2回戦で久々に見ることができたベルマーレらしいアグレッシブな攻撃、その後に続いたリーグ戦、アウェイ・磐田で2点のビハインドを追いついた意地。わずかではあるけれど良い兆しを感じさせたその戦いを、この先に繋げようと臨んだ試合・神奈川ダービーで手にしたのは、やりきれない厳しい現実だった。
 チームは今、苦しんでいる。J1に生き残るための努力は最善を尽くしているが、勝てない状況に。そしてサポートする誰もが感じているのが、希望を持つことの大切さと難しさ。
 今回は、選手会長としてJ2時代からベルマーレを支えてきた田村雄三選手が登場。今の状況にどんな思いを持っているのか、前に進むためにどんな努力をしているのか、胸のうちを語ってもらった。

voice_100924_04チームを前に向かせるのが自分の役割。
ブーイングに言い訳はできない。

「夜、眠れなかった。目を閉じられなかったです」

 J1の舞台に生き残るために、チームとサポーターがいつも以上に気持ちをひとつに戦うことを誓って臨んだ神奈川ダービー、VS川崎フロンターレ戦。ホーム平塚競技場に1万2千人以上の観客を集めたこの試合でベルマーレは、6点という大量失点で敗戦を喫した。その試合を振り返って、田村選手はこう語った。

「今、この結果の時に何を言っても言い訳だし、この時期にきてコミュニケーションがどうのと言っているのも恥ずかしい話。悔しいのは悔しいけど、この気持ちを言葉にするなら、情けないという言葉が一番近い」

 試合前の選手を鼓舞する勝利への花道で、サポーターからの思いは十分に感じていた。その思いのこもった激励が、試合後にはブーイングに変わった。
 田村選手が情けないと語るそれがひとつ。

「ブーイングも罵声も仕方がない。選手が気持ちを表しきれていれば、例え負けても『負けたけど、よくやった』と言ってもらえると思う。そう言ってもらえないのは、選手のせい。気持ちがない選手はいないけど、誰かが弱気になっているのかもしれないし、気持ちというのはどうしてもネガティブな方に引っ張られてしまう。そういうのを打開して前向きに変えていくのが自分の役割だと思うけど、試合の中で変えられなかったから気持ちがないと言われているのだと思う」

 情けないと感じるもうひとつが、昨年から積んできたものが活かしきれない歯痒さ。試合後のコメントで田村選手を含めて何人かの選手から語られたコミュニケーションの不足は、今季加入した選手とのことではなく、昨年から共に練習を積んできた選手同士の方が多くの問題を露呈している。また、あれほど鋭かったコレクティブなカウンター攻撃も影を潜めているし、何より、その攻撃を支えてきた全員守備が体を成していない。

「ディフェンスラインも監督に言われたことはやっている。でもそれは、中断明け後に加えられた修正の部分ばかりのように感じる。京都戦で追いつかれたあたりから失点に過敏になっているので、修正の指示を気にするのはわかる。誰でも自分のせいで失点するのは怖い」

 ポジションごとにある基本のタスク、それに加えてチームの約束事がある。 W杯による中断明け後、ディフェンスラインに加えられた約束事は前半の戦い方で失点した形を修正するためのものだった。ところが今の最終ラインは、第19節の対京都サンガ戦の最後にした失点を悔やむあまりに本来のタスクを置き去りにして、その約束事を全うすることばかりに気を取られているように感じるという。その意識の行き違いが連携のミスという結果となって表れている。
 もちろんそこは試合中に修正を話し合ったが、失点数が物語るのが連携しきれなかったという現実。それがコミュニケーションの不足という言葉になって語られたのだ。監督の指示をチームの意志として統一できていない情けなさ。

「ソリさん(反町監督)のやり方は基本的に去年と変わってないと思う。去年、J2でやっていたようなアグレッシプなサッカーをやろうとしていると思うけど、ミスや失点が重なって、それを修正する指示にみんなが気を取られすぎているのかもしれない。指示を守ることが大事なんじゃなくて、指示を活かしてどう戦うかが大事だと思う。監督は、『俺が責任を取る』と言ってくれるけど、やるのは選手。誰も変わりになってはくれないし、誰も助けてはくれないという意識で戦わなければ。失点を恐れるあまり、ミスをすることが恐くて消極的なプレーになるなら、失点は全部俺のせいにしてくれても構わないと思っているんですけど」

 来年もこの舞台に生き残るために戦えるリーグ戦は残すところ11試合という、差し迫った状況ではある。しかしこの足踏みは、勢いと前に向かう気持ちの強さだけで突き進めた昨年とは違う、高いレベルにいるからこその試練でもある。トップリーグで求められているのは、昨年からもう一つレベルを上げた、自分と仲間を信じてやりきる勇気。サッカー選手としての人生を続けるのであれば、この経験こそ糧にすべきものだ。反町監督が川崎戦後に会見で語った『サッカー選手としてのプライド』をベースにして、今この時を戦いきる勇気を選手全員が持たなければならない。

voice_100924_02たかがサッカー、されどサッカー。
去年の分まで、どんな状況も楽しみたい。

 昨年、ぎりぎりの戦いを続けて昇格を勝ち取った中で、田村選手は一つ、反省していることがあるという。それは、

「終わったあとかな、甲府戦にしろ水戸戦にしろ、俺、全然楽しめてなかったことに気がついた。ガチで勝たなくちゃいけないみたいな感じで思っていて。確かに勝たなきゃいけない試合だったんだけど。でもそれまでは、1年を通して結構楽しめていたんですよ。ところが終盤になってJ1というのをつかみ始めた頃から楽しめなくなった。らしくなく、ちょっと精神的にきたかなというのはあった。まぁ水戸戦は極限の試合だったけど…」

 反町監督は、就任当初から変わらず、そしてなかなか勝利をつかむことができないこの状況の今も、選手が試合に向かうためにロッカーを出る時、サッカーを楽しんでこいといって送り出す。

「監督は、『たかがサッカーなんだから、楽しんで来い』、『責任をとるのは俺だから』って必ずいう。でもやるのは選手だから、結果がでないのは最終的には選手の責任だと思うんです。だから俺は、たかがサッカーだけど、されどサッカーって思う。去年は、その大一番で楽しめてなかったので、今年はもう、やってやろうじゃねえか、どんな状況も楽しもう!と考えてやっている。
 そういう意味でも、最近の試合はチーム全員が楽しむとか、ボールに対する執着心が足りなかったと感じています。
 結果を厳しく求めると、そうなっちゃうのかな。でも、結果を求めて戦うこととサッカーを楽しむことは、両立すると思います。『この試合は重要な試合』と思うと、まだまだすぐに楽しむことを忘れちゃうけど」

 “たかがサッカー、されどサッカー”。その勝敗に選手は心身を削り、サポーターは全力で一喜一憂する。その勝敗まで含めて“サッカーを楽しむ”というのは、どんなことだろうか?

「ソリさんは、サッカーを楽しんでいると思いますよ。自分が楽しんでなければ、そんな言葉は出てこないと思う。だから俺の中には、ミーティングの最後に言われる『サッカーを楽しもう』っていう言葉がいつもあるわけですよ。試合をしながらそれができたら、しかも全員ができたら、すごく良いことだと思う。
 俺自身は、マッチアップする選手がどこのチームでも中心になっている選手だから、毎試合毎試合すごく刺激があるし、すごく楽しみな部分もあるし、すごく責任を感じるところもある。そういうことをすべて楽しめたらと思う。そうしたら雰囲気も変わるし、サッカーも変わるかもしれない。ソリさんが求めているのは、そこだと思う。技術どうこうより、サッカーを楽しむことによってメンタルで上回る。そうすれば仙台戦のようなミスもしないだろうし。サッカーを楽しむっていうのは、そういうことに繋がっていくと思いますね」

 選手がサッカーを楽しんでいる時、それは必ずスタジアム中に伝染する。その空気感がサッカーの魅力のひとつであり、これに勝利というご褒美が加わったときは、最高に熱い幸せがスタジアムを包み込む。今シーズンもこの幸せをまだまだ期待したい。

voice_100924_03うまさに刺激されて、今さらながらサッカーに目覚めて。
まずは、テラさん超えが目標に。

 J1に昇格したことによって中央大学の先輩である中村憲剛選手(川崎フロンターレ)との対戦も実現し、選手として自分がめざす方向性や理想もいっそう広がるようになった。

「すごいなって思ったのは、マルキーニョス(鹿島アントラーズ)とかエジミウソン(浦和レッズ)。ポンテ(浦和レッズ)とかもうまいけど、すごいなと思ったのはこの2人。基本的に外国人選手の方がうまさを感じる。『え、そこで収めるの?』っていううまさ。日本人は裏に抜ける方が多い印象があるし、そういう選手とヨーイドンで競争するポジションではないので、うまさや強さで印象に残った選手というのは、日本人ではあまりパッと名前は挙がらないですね。
 チームとしては、フロンターレの中盤はうまかったし、アントラーズも試合運びとかすごいと思った」

 大学時代、中村選手が自由に攻撃できるようにサポートしていたのは田村選手。ホーム&アウェイの2戦を戦い終え、試合後にはアドバイスももらった。

「向こうの狙い通りにやられてしまったから、そのアドバイスを活かしていきたい。
 まぁ、憲剛さんはどうでも良いですから(笑)。憲剛さんは得点に繋がる良いところにパスを出す選手なので俺とはタイプが違う。俺は、その前の過程がどうだったのかっていう話ですから。誰が憲剛さんにそのボールを出したんだとか。そこです。
 だからボランチの選手はよく見るようになりました。明神(智和選手・ガンバ大阪)さんだったら遠藤(保仁選手・ガンバ大阪)さんに繋げようとか、稲本(潤一選手・川崎フロンターレ)さんだったら憲剛さんだったり。そこからそこまでの過程が、奪ってからのパスが正確だったりとか、良いところにつけるとか、そういうことをいっそう考えるようになった。
 そういうところがJ2とは違ってJ1はすごく刺激になりました。そういう人たちのようになりたいって、今さら思って。この年にしてまだまだ成長できるなって思った。この職業、おもしろいなーと思います」

 今年の12月に28歳になる。サッカー選手としてはこれからますます脂がのってくる年代であり、“今さら”という言葉はあまりにも不似合いな年齢だ。

「行けますかね、テラさん超えたいな。テラさん、36歳だもんな。望(加藤コーチ)さんは39歳までやっていたんですよね」

 気になるのは、ボランチの選手たち。昨年から明神選手のことは気にしていたが、今年は代表選手たちともマッチアップしているだけに観察する目もさらに鋭くなっている。

「テレビでも観ますし、対戦した時にはやっぱり刺激を受ける。阿部(勇樹選手・レスター・シティFC)さんは、何しても強かった。身体も強いし、うまいし、速いし、運動量も多いし、見習う点はたくさんあった。近いなと思ったのは稲本さん。でもやっぱり好きなのは明神さん。なんか目立たない玄人という感じで、一番好き。ノゾさんに聞いたら、『あいつも下手だったよ』っていうんで。『じゃあノゾさん、俺も全然可能性ありますね』って言ったら、『あるある!』って(笑)」

 今シーズンはもうひとつ、刺激的な経験をしている。それは、ホームで迎えた第16節清水エスパルス戦でのこと。反町監督がチームの指揮を執るようになってから、警告の累積による出場停止や怪我以外でスタメンを外れることはなかった田村選手がリザーブスタートとなったのだ。しかもこの試合も失点が多く、守備的な使われ方をすることが多い田村選手は結局1試合をベンチから見守った。

「やっぱりまだまだということでしょう。普通に外されたんだと思います。別にスタッフの誰からも何も言われなかったし。それに俺も『チクショー!』とか思う年でもないし。だから別に悔しいとは思わなかったです。もちろん次は!という気持ちはありますよ。でも外されたことについては、フテってもしょうがないし、盛り下がってもしょうがないし。チームのために何ができるのかを考えた。良い経験になりました」

voice_100924_05 その後は再びチームの中核としてリーグ戦の出場を果たしている。残りのシーズンについては、

「ベンチにいるときは、みんな頑張れ、頑張ってくれって思って見ていたんですよ。自分は絶対じゃないってあらためて思ったし、常に競争があって、選手はいつもそのことを考えている。ましてやこういうふうに成績が悪かったらメンバーを大きく入れ替えることも当然あるわけだから、みんなにチャンスがあって誰も気は抜けない。だから毎週毎週試合があるけど、そこにはチームの中で競争があってそれを勝ち抜いて、それで試合に出ている。
 しかも、試合に出る以上は、試合に出ていない選手の分まで背負ってやらなくちゃいけない。そういう責任がある。そこをまず全うしようと思います。
 チームとしては、このあとは一戦一戦死ぬ気でやるしかない。勝ち点3をとらなきゃいけないですから。でも俺は、あまり残りの試合がどうとかは考えてない。その週の試合だけを考えて取り組んでる。今までもそうだったし、これからもそう。トイメンの敵に執着心を出して、J1の舞台を楽しみながら、厳しくやっていく」

 リーグ戦も残すところあと11試合。どこまで勝ち点を積み上げられるのか、その勝ち点でこの舞台に生き残れるのか、それは今から心配しても仕方がないこと。
 それよりもまず考えるべきは次の試合に必ず勝つこと。憂えていても、前向きに過ごしていても、時間は同じようにきちんと刻まれ、週末には試合が行われる。その間監督やコーチングスタッフは、次こそは最善の結果を得られるようにと寝る間を惜しんで努力を続けているし、選手も100%の力でトレーニングに取り組んでいる。
 そう、次の試合こそが見逃せない一戦だ。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行