ボイス

【ボイス:2016年6月2日】坪井慶介選手

テレビに映らない駆け引きこそ
ディフェンダーの見せどころ

 試合中の見どころを問うと、

「ディフェンダーとかゴールキーパーって、テレビに映るのはいつも失点シーンばっかりだったりするんです。だから、意外と地味な作業をしているところに気付いている人には『いやー、見てるね! 嬉しいね!』と思いますよ。やりがいあるな、手を抜かないでやっててよかったなって」

 得点を競うゲームであるサッカーはゴール前の攻防は攻守の選手、どちらにとっても大きな見せ場。攻撃陣の意外性に満ちたアイデアや連携プレー、応戦する守備陣の駆け引きの裏を読む頭を使った対応や身体を張った1対1など、気迫あふれるプレーが展開される。しかし、そこに行くまでの過程にもまた、駆け引きが隠されている。

「攻撃のためのスプリントというような派手だったり、目立つプレーはないんですけど、ボールが全然ないのに、いつもうるさく『ワーワーワーワー』言ってるなというところを見てもらえば」

 前線からの守備が要の湘南スタイルは最終ラインまでコンパクトに連動しているため、ボールのある位置や前線の選手の動きに応じてラインのコントロールなどが行われている。また前の選手を動かすことによって守備の連動性を高めたり、攻撃への移行をスムーズに行うこともある。坪井選手は、最終ラインから試合展開を読みながら様々なポジションの選手に声をかけることによって少しでも有利にゲームを進められるよう、後押しをする。これは、テレビでは映ることのない部分でもある。

「要するに、スタジアムに足を運んでくれと(笑)。そういうことです」

 浦和の3バックも攻撃に特徴があるが、湘南スタイルもまた3バックの攻撃参加は欠かせないもの。

「どんどんチャレンジしていこうと思ってます。自分は守備が得意だからそれだけでいいとは思ってない。もちろん守備の仕事はちゃんとしなきゃいけないですけど。浦和では、ビルドアップをしてどうこうというより、どちらかというとインターセプトしてそのままドリブルで持ち上がったりとか、そういうことの方が多かったですね。
 まぁでも、思い切ってやっているところを見てほしいかな。ドリブルで持ち運ぶのもそうですし、前線につけるパスもそうだと思うし、機を見て自分がスペースにランニングしていくこともあると思うんで。『あのおっさん、元気にやってんな』って」

 坪井選手が最終ラインに入るとラインを強気に上げていくのも試合への期待を高める要素の一つ。

「そこは意識して。そこは本当にベルマーレの良さだと思うんで。行って、かわされていなされて、でも『それが別にどうしたの?』っていう。『2度追い、3度追いすればいいんでしょ?』っていうのが良さ。剥がされたから『ああ』と落ち込むチームじゃないんで。
 前線の選手が行って、剥がされて、そのままラインを下げちゃうと、前の選手は行けなくなってしまう。『そんなにスペースがあったら僕らも行けないよ』ってなってくると思うんで。そこはやっぱりお互い助け合っていかないと思っているので、その表れだと思います」

 3バックの中央は、ベルマーレに来てからの経験だ。

「これだけ真ん中をやるのはここに来てからなんで、非常に新鮮で楽しい。もちろんいいことばかりじゃないけどそれも含めて楽しいです」

 いいことばかりじゃないというのは、

「もちろんプロのいち選手としてここに来てるわけですから、常に試合に出たい、ピッチに立ちたいと思っている。さっきも言ったようにレッズで良かった時に、今となればもっと努力できたんじゃないかという後悔があるんで、そこはやっぱり決して満足しちゃいけない。ストイックには見せたくないんですけどね。楽しそうにやってるなと見てもらえればいいんですけどね」

 どこまでも自分自身に要求し続ける坪井選手。日々積み重ねているその努力の成果をスタジアムで確かめてほしい。

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取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行