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【ボイス:7月5日】梶川諒太選手の声

1ヶ月以上の中断期間をはさんだ、今季のJ1リーグ。
特殊なシーズンといえばそうだが、再びJ1・1年生を戦うベルマーレにとっては、
自分たちの力を自覚し、再度磨く時間をもって、中断明けの試合に臨めることとなった。
曺監督は、中断までの公式戦で、怪我をしてタイミングが合わなかった選手以外は全員起用している。
特に過密日程によって選手を大きく入れ替えた試合もあったが、
誰が出場しても、フォーメーションに変化があっても、目指すスタイルは貫かれている。
その一貫した姿勢とフレキシブルなアプローチは、湘南スタイルの進化を予感させる。
その可能性の大きさを感じさせるひとりが、今季加入した梶川諒太選手。
再開のピッチにかける思いは、力強い。

自分が先頭切って引っぱるくらいの責任感を持って
中断明けからの試合に臨みたい。

 日本代表のカレンダーに合わせてスケジュールが組まれるJ1リーグ。今季は、ワールドカップ予選とコンフェデレーションズカップの開催によって、リーグ戦は13節まで、ナビスコカップはグループリーグを終えて中断期間に入った。開幕から2ヶ月半、ベルマーレのその間の記録は、リーグ戦が2勝3分8敗で16位、ナビスコカップは2勝1分3敗でグループリーグ敗退となった。

「J1は、個人個人がすごくうまいと思う。J2だったら相手のミスを誘えたプレーもJ1では通用しなくて甘くないなと思いましたし、自分たちがいい流れをつかんでいても、1本のパスで点を取られた場面もあった。勝ち方を知っているなと感じました。
 開幕のマリノス戦(3月2日開催/第1節vs横浜F・マリノス)でも、こっちが勝っている状況でも相手はまったくあわててないなと感じました。多分、『いつでもやってやるぞ』的な感じでパスをまわしてたと思うし、こっちが疲れるのを待っていたかのように最後にしっかりやられた。経験豊富な選手が多いから、隙を見せたら簡単にやられちゃうんだなと思いました」

 ベテランと呼ばれる選手、あるいは若くてもトップリーグで揉まれてきた選手は、高いレベルの技術に加え、サッカーのテクニカルな部分とはまた別の、試合の流れを読み、90分間の中で最終的に勝利に繋がる流れを呼び込んでいく、そんなしたたかな能力も身に付けていた。

「特に、バイタルエリアだったり、相手にとって怖いところは厳しい。そこまではボールを持たせてくれても、やっぱり最後の勝負どころは厳しく潰しにくる。そういうところで自分自身がもうひとランク上に成長していかないと、点を取ったり、アシストしたり、ゴールに絡むことはできない。ここまでは、そういうところの厳しさを感じました」

 中断までの試合で、良い内容でも勝ち点という結果に結びつかない戦いを何度も経験した。そしてまた、そのチームの一員として戦ってきた自分自身も、J1は初めて上がったステージだ。

「積極的にガンガンやろうという思いでシーズンに入ってできた部分はあったので、最初は『やれるんかな』と思ったんですけど、そこからもうひとランク上にいけてない。『チャレンジする』ということができていない。しかも、逆にやられた時に全然対応できない、みたいな」

 勢いと気持ちだけでは補えないものがある。しかし、それを肌で感じられたのも、そのステージに上がってこそ。チームは、リーグ再開へ向けてあらためてトレーニングを積んでいるが、中断期間最初に与えられた1週間のオフは、それまでのリーグ戦を振り返るのにちょうど良い時間となった。

「移籍してきて、チームの雰囲気とか、目指すサッカーとか、『どういうチームかな?』って、人についていく感じになっちゃってたんですけど、それじゃあやっぱりダメだなって思った。そうじゃなくて、やっぱり自分が先頭切ってやるくらいの責任感を持たないと、ただの駒のひとつで終わっちゃう。自分自身、これからもっと上を目指したいと思っているなかで、それじゃあ全然成長に繋がらない。オフの間にいろいろ考えて、もっともっと自分が引っぱっていくんだという気持ちでいないと上は目指せないって思った。まず、自分自身の意識を変えていかないといけない」

 プロ選手は1年1年が勝負。移籍によって変わった環境や目指すサッカースタイルも成長の糧にしてこそ、その経験に価値が生まれる。だからこそ、中断明けへ向けてのトレーニングが再開されてからは、意識を変えて臨んでいる。

「身体が大きいわけではないので、試合の流れを変えたりチームの中で違う存在感のある、頭を使った部分を持っていなきゃいけないと思います。もっともっと積極的にボールを呼び込んだり、チームが悪い時にその流れを変えるプレーをしたり、みんなを乗せるプレーをして、自分自身、ここからもうひとつ上のランクに行きたい」

 自らチームを引っぱっていくことに目覚めた梶川選手。その意識がどんなプレーを生み出すのか、スタジアムで確かめたい。

走って考えて周りを見て
小柄な体躯ならではのプレーも強みに

 とにかく走る。ボールを持っている・いないにかかわらず、ピッチをところ狭しと駆け回る。

「そうですね、サッカー選手としては、ドリブルですごく抜けるとかという選手じゃないので、多分そういった道でしか自分は生きていけない。相手に身体で潰されないようにするには、とにかく動き回ってできるだけワンタッチ、ツータッチで出て行くっていうことをしないと。特に去年はそういったことを感じて、ボールをたくさん触ってチームに流れを作るとか、早くはたいて前に出て行くとか、そういうプレーを意識しました」

 小柄な体躯ながら、その動きで存在感をアピールする。

 5歳年上のお兄さんについてサッカーを始めたのが4歳のとき。年上に混ざっていた頃はもちろん、同学年の子どもたちと比べても小柄だった。

「保育園の頃から大学までずーっと、クラスの中で真ん中とかもなくてちっちゃかった。今は、プレーしているときはそこまで感じないですけど、写真や映像を見ると自分でもちっちゃいなと思います」

 中学から高校にかけて、身体的に急激に成長するチームメイトを見て、さすがに悩んだ時期もあった。しかし、高校時代に指導されたサッカーがフィジカルよりも走力が重視されていたこともあって、その中で自分のスタイルを確立していくことに目を向けられた。

「高校も大学もホントに走るチームだったので。走らされた分、培われた体力っていうのはここで活きてるって思いますね。苦しかったですけど、高校や大学で教わった監督やコーチに感謝しなければいけないと思いました(笑)」

 ボールに数多く絡みながらも、少ないタッチ数でボールをチームメイトに預けるということは、常に周りの状況も把握しているということだ。また、身体の特徴を個性として捉え、ネガティブに考えるのではなく、むしろメリットとして利用することを考えている。

「やっぱりボールを持ち過ぎちゃうと潰されちゃうので、ダイレクトとかツータッチでやるためにはどうするかっていうのをすごく考えました。早く状況を確認しようとか、どうすれば早く確認できるか、とか。

 それに、身体が小さい分、やっぱりボールタッチとか細かくなるかなって思います。それは、大きい相手からしたら多分イヤだと思う。向こうが1歩でやるところを、こっちは2歩でできるんで、それをうまく利用できたら良いと思うし、利用しなきゃいけないことだと思う」

 そしてもうひとつ、梶川選手自身が自分の強みとして挙げたのが、

「すごく負けず嫌いっていうのが、ここまで来られたひとつの要因。大学の時もそうですけど、ガンバ(大阪)に加入した友達がおるんですけど、みんなはそいつのことを『すごいな』って言っていて、自分も一緒に『すごいな』って言ってたし、本当にそう思うんですけど、でも、『負けたくない、絶対上に行ってやる』っていう、そういう気持ちも常にあって、自分はそういう気持ちを大切にしてきた。このチームでも、『誰々すごいな』って思うけど、やっぱり『負けたくない』っていう気持ちが強い。
 『すごいよなー』って言って終わっちゃったら、その人を超えることは絶対できないから、秘めた思いって言うか、そういうのは大切にしています」

 自分の気持ちをまっすぐに受け止め、エネルギーに変えていく。曺監督が以前に語った、「ものごとをポジティブに考えられるのも能力のひとつ」という言葉は、まさに梶川選手を表すようだ。

最後の最後まで
主導権を握って走り抜きたい

 走力とアタッキングエリアでの思いきりの良いプレーが魅力の梶川選手。ベルマーレでも、持ち味を遺憾なく発揮し、今やチームにとってなくてはならない存在となった。その梶川選手も、現在のチームの走力には驚きを隠せない。そしてその武器をなんとかより効果的に活かしたいと考えている。

「みんなかなり走りますよね。結構きついフィジカルや走るトレーニングをしていて、だからみんな走れる。どんなチームでも、絶対に走るのが苦手な選手っているんですけど、ここまでほぼ全員、タイム的に大きな差がなく走れるチームはなかなかない。
 あとは、それをピッチで、走らされるんじゃなくて、自分たちで主導権を握って走れたら、相手にとってそれほど怖いことはないんじゃないかなと思います」

 中断前の試合で突きつけられた課題は、最後の15分の戦い方。そこまでは良い内容で押し込んでいても、終盤に流れを奪われてしまう、あるいは主導権を奪い合う中で走らされ、結果終盤に力尽きてしまう、そんな試合が多かった。そこにあるのは、体力の問題より技術的な問題だと考えている。

「特にここまでは、回されて自分たちが追いかけるっていう展開で相手はあまり疲れてないなというシーンが多かった。逆に、自分たちが技術的なパスをしっかりコントロールできるようになれば、相手にとってイヤな時間帯でこっちが主導権を握って走れるようになれると思います。走れるっていうことは、相手にとって絶対にイヤなことだと思うし、そのストロングポイントをさらに強めるためには、技術的な部分も個人個人が伸ばしていかないといけないと思います」

 積極的な攻撃の形を意図するパスがミスになると、大きなチャンスもたちまちピンチに早変わりする。攻撃への姿勢と連動する動き、そして個々の技術の精度がどこまで上がるっていくかが、このあとのシーズンの行方を握っているようだ。確かに勝利を得ている試合は、そういった狙いがうまくハマったシーンが数多く実現できている。梶川選手が今シーズン、一番印象に残っている試合は

「自分がピッチに立って、やっと勝てたナビスコの清水戦(5月15日開催/ナビスコカップvs清水エスパルス)ですね。ポジション的にも自由にやらせてもらったというのもありましたけど、あの試合はボールに関わる回数もすごく多かったですし、前も向けたし、前にもどんどん行けた。ボールタッチのフィーリングもすごく良かったんで、今シーズンの試合の中ではあのゲームが良かったと思います」

 湘南スタイルを体現するシステムとして、昨季は3-4-3のフォーメーションを中心に戦ってきたが、今季はフォーメーションにさまざまな変化を施し、よりアグレッシブな戦いが模索されている。
 梶川選手自身は、3-4-3のときは3トップのシャドー、あるいはボランチでプレーすることが多い。ところが清水戦は今までにないフォーメーションでチャレンジした。

「あの試合は、ワントップの3トップではなく、僕がトップ下気味の3トップでした。練習試合で試した時にすごくうまくいった感じがあって、それで一度試してみようという形で使ってもらいました。
 本当に自由に、僕が後ろに下がってボールをもらって、もらったらそのポジションにいた選手が前に行ってくれる。替わりながらやるっていうのが約束事で、ただただ自由にやらせてもらったなっていう感じ。ボールに触る回数も多くて、自分自身、ボールに触りながらリズムを作るタイプなので、それが活きた試合だったと思います」

 再開後、J1を戦い抜くためには、湘南スタイルの進化は欠かせない。梶川選手が示したように、すべての選手がその原動力となる。

取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行