会長のPHOTO日記

2018.12.31

【会長のPHOTO日記:12月31日】「緑の軌跡・・・ルヴァンカップ優勝」

IMG_4884◆V-VIP
「ダメですよ、ちゃんと座ってもらわないと」
ルヴァンカップ決勝戦にいらっしゃるJリーグや両チームのスポンサー、
株主など招待者をご案内するVIP受付。Jリーグのベテラン女性スタッフの一言に簡単には縦に首を振れない。彼女の説明によると私はV-VIP席に座わらなければいけないという。
昔から、どこのアウェイ会場でも先方が用意してくださった来賓席には座らない。なぜなら、来賓席の近くは必ず対戦相手のスポンサーや大切な関係者がいらして、試合中、失点しても、得点しても周りを気にしながら嬉んだり、怒ったりしなければいけない。なので、いつも空きがあればアウェイ寄りのスタンドの上段や記者席が指定席になっている。
以前から、「先方がわざわざ用意してくださった席に座らないのは失礼ですよ」と大人の対応が普通にできる水谷が代わりに座ってくれている。ところが今日は会長、社長二人とも着席を厳命された。しかもVIP席のさらに上段、チェアマンや日サッカー協会会長、ヤマザキビスケット社の飯島社長などとご一緒の席である。
「毎年、両チームのトップの方にはスポンサー様の接待役をお願いしているんです。眞壁さんのお隣はフジテレビの社長様ですからね。お願いしますよ」
それでも、そこではうちのスポンサーやストックホルダーに挨拶もし難いし、そんな皆さんの上席には座れないと抵抗していると、横にいるベルマーレの女性スタッフたちが「あきらめないさい、決勝なんだから」と目線を送ってくる。
渋々承諾して、現場を確認させてもらうことにした。キックオフギリギリまで選手を送り出し、試合終了時には勝っても負けても選手たちをいち早く迎えるために、最短の動線を確認しておく必要がある。
来賓用のエレベーターは2階と3階に止まる。日本代表戦に観戦に来るときは2階で降りる。というか3階は行ってはいけない。初めて3階で降りて、重厚なソファーに囲まれた広いラウンジを抜けてV-VIP席に出て、思わず目を細めた。緑に染まったゴール裏、夢に見たこともない現実の風景は身動きのできない絶景だった。
朝、開門時にサポーターを出迎えた。どの顔も笑顔で希望に満ち溢れていた。一度は存続を危ぶまれたクラブを支え続けた人々の屈託無い笑顔は、今までの多くの失敗や苦労の価値を自らに再認識させるのに十分すぎるものだった。
その一方で朝出会った多くの笑顔のために、ベルマーレのサッカーを十分発揮できたら悔いはないなと思う自分がいた。しかしその1時間後、目の前に広がった絶景に感謝をしつつ、勝たなければならないと、その笑顔の裏にある過去を想えば必ず勝たなければならないと、大きく気持ちを切り替えた。そのための主役たちが余念のない準備をするロッカールームへ非常口を経由する最短距離を確認し駆け降りながら、今月に入ってからのこの試合に臨む日々を思い出した。

◆Landscape/風景
IMG_4900「僕らはそう思われているんですよ。決勝に行く確率も含め、小さなクラブなんだ。だからこそルヴァンに勝って、ジュビロにもエスパルスにも勝ちます。勝ってから言いたいことは言います」ルヴァンカップ決勝からのタイトスケジュールの件でJリーグに再調整に行き、なんの成果も上げられずに帰った日。その報告をすると監督は冷静に語った。その冷静な指揮官は数日後の鳥栖戦に勝利をもたらし、柏との壮絶な準決勝を勝ち抜きルヴァンカップ決勝のチケットを勝ち取った。
柏との準決勝は壮絶な戦いとなった。アウェイ第1戦を引き分け、ホームでの決戦は先制しては追いつかれ、延長でも決着がつかずPK戦へ。梅崎が外した瞬間、僕を含め多くの人が敗退を覚悟したと思う。それでもBMWスタジアムは物凄いサポーターの声援に包まれ、柏のキッカーのボールを枠の外へ押しやった。恐らくベルマーレ平塚時代を含め最高潮の声援の塊は間違えなく遠い昔、新潟や仙台で経験したスタジアムが試合の流れを変えてしまった、あの見えない力と変わりない。そう、決勝へのチケットは冷静な熱血漢と立ち向かう選手達、そしてサポーターが掴み取ったものなのだ。そしてその流れは埼スタまで続いている。
いよいよ決勝まで1週間を切った頃、監督はあちこちで勝つと言い出した。気合で言っているのでなく、営業の全体会議に顔を出して「勝つからその準備をして下さい」と真顔で話している。そして選手やスタッフに「この決勝を勝ち抜いて観ている風景を変えよう、勝ってもっと高い所から違う風景を見よう。そうすれば自らのサッカー感も、回りからの評価もっと変わるに違いない」
試合当日も「お前らたぶん勝つよ」とミーテングで語っている。違う風景、それは観たことのない風景。そこへの憧れと冒険心は少しずつ「自信」というWordに変わりだしていた。

IMG_1643◆Message
馴染の少ないロッカールームに入り選手達に声をかけて歩くと、山根選手と何人かの選手が壁に目を向けじっと活字を追いかけていた。目先にあるのはアカデミーの子ども達が書いた激励のメッセージ。そのメッセージには「湘南スタイルで相手に競り勝って下さい」「走り勝て」「NONSTOP FOOTBALLlで優勝」などなど、単に必勝とかでなくBELLMAREのDNAが満ちあふれていた。それは小学生からTOPチームまでの一体感でもあり、長い階段を一歩一歩登り続けた結果でもある。そしてその一体感は試合前の選手達を確実に後押ししていた。
選手達の邪魔にならないようにロッカールームを後にしてピッチに向かう。ホームのベンチに向かい2枚の遺影を練習のピッチが見えるように飾った。1枚は石井さん。藤和不動産サッカー部創立時からベルマーレ平塚まで長きにわたりクラブを支えてくださった。今年50周年迎えるベルマーレの生き字引でもあった。昨年夏ごろお会いした時に、50周年のシーズンを華やかに演出したいと伝えると、とにかく藤和、フジタ、平塚、湘南のOB名簿を絶対つくろうと言っていただいた。そうしてもう1枚は茅ヶ崎の服部市長。ベルマーレが大好きで長きにわたり応援をいただいた。「鎌田は戻らないですね〜」と穏やかな笑顔で僕を困らせた。「平塚の皆さんが苦労されて存続させたチームですから」と、平塚を超えて目立つ事を気にされ、常に控え目に熱く応援をいただいた。50年の年月には他にもベルマーレ に様々な思いを残して旅立たれた様々な人々がいる。そんな多くの想いも間もなく始まる戦いを見守ってくれるに違いない。
その足でコレオグラフィーの準備を終えたサポーターが控えるゴール裏に向かった。監督は勝つと言っている。緑で染まったスタンドを見てから自らも勝つと信じている。であればその時カップをサポーターに掲げてもらいたい。しかしここはBMWではない、はたしてスタジアムの構造上ピッチからカップが渡せるのか。スタンドとグラウンドには微妙な空間があり、辛うじて渡せる距離であることと、万が一届かない時は空間で仕切られていないサイドで渡し、サポーターの手渡しで中央まで移動させること確認してウォームアップに備える選手達のいるロッカーに向かう。ゴール裏にもコレオグラフィーをはじめ様々なメーセージが用意されていた。ベルマーレを取り巻く多くの人々の様々な想いとメッセージに包まれ、埼玉スタジアムのキックオフが迫っていた。

◆Make History
181027_080いつものように選手達のロッカーアウトを握手で見送る。小走りに3Fを目指す。席に続く通路を出ると更なる絶景が飛び込んできた。緑で埋まったゴール裏、50周年のコレオグラフィーはちょっぴり霞んで見えた。近隣のご来賓にご挨拶をして座り慣れないシートに着席した。左隣の水谷との間にベンチから引き揚げてきた2枚の遺影を立てかけると、新しい歴史をつくる笛が鳴り響いた。
キックオフ直後から活き活きとピッチを支配したのはベルマーレ。まさに今年のルヴァンカップで成長した坂や金子の描き出す湘南スタイルはマリノスを圧倒する。しかし、決まりそうで決まらない。そんな日は要注意な日になる。貧乏ゆすりを我慢しながらそんなことを危惧しだした頃、杉岡のミドルシュートが決まった。「よっしゃ~」と大きくガッツポーズするところだが、小さなガッツポーズと水谷との握手で品良く先制点を祝った。ハーフタイムはラウンジでスポンサーさんやホームタウンからの来賓の皆さんに挨拶をする。皆さん顔が期待に満ち溢れている。
後半に入るとマリノスが攻勢をかけてくる。昨年から積み上げた粘り強く体を張る、もうひとつの湘南スタイルがゴールを許さない。すると岡本とイッペイがペナルティエリアで交錯する。一瞬、ひやっとしたが笛は鳴らない。数名のマリノスの選手が主審を取り囲むがPKにはならない。この試合のピッチ上の審判は5名、Jリーグ戦に加え両ゴールライン沿いに1名ずつが配置されている。2名の審判が至近距離で見ている事実がジャッジのすべてである。2015年6月、対川崎F戦で菊池大介のミドルシュートがバーにあたりゴールを割ったかに見えたがノーゴールとなった。多くの映像がネットで流され物議をもたらした。Jリーグの複数の会議で声を大にして、もしこれが決勝戦や昇降格のかかった試合だったらどうするのかを問い続けた。結果、次の年より試験的に導入されたのが審判を2人増やす5人制だった。そんなことを思い出している間もマリノスの攻勢はますます強くなる。時計に目をやらないようにするが我慢できず確認する。その度に電池が無いんじゃないかと自分の腕時計も確認する。封印した貧乏ゆすりは震動に変わりつつある。今年は何度もアディショナルタイムに失点を許した。その度にチームは、選手は矢印を自らに向け日々取り組んできた。その努力が、成果が大一番で結果を生み出そうとしている。ふとベンチに目をやるとバイアやミキッチがしきりに選手を鼓舞し、腕をあげ時計をPRしている。試合前、練習中のピッチサイドにいると笑顔でミキッチがやってきて「会長、そんなに心配しないで。僕らは勝つよ」と声をかけてきた。よっぽど険しい顔をしていたんだろう。とても気持ちが落ち着いた。広島で3度のタイトルを取ってきた立役者が、ほとんど試合に出られない日々を過ごしながらも、温かくかけてくれた一言に感謝した。
シーズン半ば、坂にポジションを譲ったバイアが監督のところへやってきて、自分はどうプレーしたら、どう練習したらまたBMWに立てるのかと聞いてきたという。欧州の名門クラブで長くプレーしてきた彼が何を批判するわけでもない。監督は彼の謙虚さにいたく心打たれたと話してくれた。昨年まで活躍してくれた坪井や、今まさにピッチで己を取り戻しつつある梅崎などベテランの人間力がこのクラブを成長させてくれていることは間違いない。目の前で躍動する若手や生え抜きの選手、戻ってきてくれた島村や陽太、薫と積み上げてきた湘南スタイルは今一つの頂きに登り着こうとしている。その薫が必死にボールをキープし奮闘している時、待ちに待ったホイッスルが鳴り響いた。50年目に23年ぶりに、湘南を取り巻くすべての人々で、1968年からクラブで人生を懸けた全ての人々で勝ち取った優勝だ。

181027_264◆Wild Flower
水谷と握手をして穏やかに来賓に一礼をして、ダッシュで非常階段を駆け降りる。ピッチで監督、スタッフ、笑顔と涙の選手達と握手を重ねた。勝利のピッチから見るスタンドは感慨深いものがあった。多くの笑顔と多くの泣き顔、そして再び緑に揺れるスタジアム、笑顔で泣き顔で。世の中で、ほんの一瞬でこれだけの幸福感と笑顔をつくりだせる世界が他にいくつあるだろうか。ルヴァンカップを手にしながら、クラブのトップとして社長や監督、選手やコーチたち、そしてスタッフ等に支えられ、この至福の瞬間を多くの苦労をおかけした皆さんにお返しできることに深く感謝しなければいけないと思った。
携帯が次々に鳴り、メールの着信が続く。お祝をくれた人の中にはJ2やJ3で奮闘している仲間の多くの社長さん達がいた。少し上から目線になるが、ベルマーレがJリーグ25年目のシーズンにタイトルを取る意味は大きい。コツコツと前進と失敗を繰り返しながらもサッカーと向き合い、子ども達と向き合い、地域と向き合い、無骨ながら目指したことを続ければ頂点に立つことは決して不可能ではないという事実を残した。今、経営や強化で壁にぶち当たっているたくさんの仲間に伝えたい。お金の大小はあっても、夢は同じように掲げられ、時間は完全に平等に与えられている。どんな雑草にも必ず花が咲くということを忘れないでほしい。高価な胡蝶蘭や大輪薔薇は確かに美しい。ただ彼らは、タンポポやレンゲで見渡す限り埋まった圧巻の美しい景観は生み出だせない。ベルマーレにとってスポンサーもサポーターも、選手や子ども達も仲間だ。これからも一つになってライドグリーンのWild Flowerの平原を広げて行きたい。

ふと携帯に届いたメールに目がとまった。
“おめでとうございます。素直にうれしいです。引き続き頑張ってください”
と短いメール。多くのメールの返信はひと段落してからと思っていたが、これにはすぐに返信をした。
“大倉が産み育てたチームじゃないですか。今日のタイトルは20年間の皆の汗の成果です。感謝しています。喜んでもらって嬉しいです。お互い頑張りましょう。”
いろいろ思う人もいるとは思う。でも僕らは仲間であったし、日本サッカーの発展ためにも今でも仲間でなければならないと思っている。

反町監督が昇格を果たしたのが2009年、10年前。昇格まで10年。そして昇降格を繰り返しタイトルまで10年。そして世界へ、10年、、、、また笑われるけどね。

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