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【ボイス:2015年9月4日】大槻周平選手 [3]

人生初のケガが教えてくれたのはサッカーができる幸せ

 2014年シーズンのチームは数字の上でもさまざまな記録を残しているが、大槻選手は開幕連勝記録を更新した14連勝に貢献したひとりだった。15連勝をかけて臨んだ第15節の愛媛FC戦(2014年5月24日開催)で前半15分に負傷退場した。その試合でチームは初めての敗戦を喫し、大槻選手自身はこの後のシーズンをピッチではなく、ケガと戦うこととなった。

「僕、ケガ自体人生でしたことがなくて。最初は本当に実感がなかったです。ケガの状況もなかなかわからなくて、1回ちょっと走ってみたんですけどかなり痛くて。その時は先が見えなかったんですけど、手術が決まってからはやることもはっきりしたし、リハビリ期間も大事やって思えるようになった」

 負傷した当初、痛みの原因がなかなかわからず、正式な診断が下りるまでには思った以上の時間がかかった。さらに、診断が下りたあとは手術をするかしないかという選択が待っていた。手術をすると決めた理由は

「先生にこのままじゃ、100%の力でサッカーできんって言われて。手術せえへんかっても80%までは戻る、でも手術をすれば100%まで戻るって言われて。僕は、この世界は100%の力を出せないとやっていけないと思ったんで『手術します』って言いました」

 手術を受ければリハビリ期間を含めて半年間は治療にあてることになる。つまりはシーズンを棒に振ることになるという選択だった。

「去年の最初、ずっと試合に出させてもらって、僕は試合に連続して出ることもなかったんで、ケガする前にああやって経験できたことはリハビリの間も試合をイメージすることができた。あの14試合は本当に大きかったなって思います。
 でも、ケガの間は相当苦しかった。サッカーが本当に好きやったんやなとか、サッカーをやれてるだけでも幸せなんやなっていうのを感じました。他にも家族とか友達とか、曺さんやコーチングスタッフの人たちからいろいろ言葉をかけてもらって。そういう人たちがいたから頑張れた。去年はみんなのおかげでJ1に上がれて、自分も絶対にJ1でやるっていう気持ちがあったから、そこで踏ん張れたっていうのもあります」

 ひと試合ごとに湘南スタイルを突き詰め、熟成されていくチームを横目で見ながらリハビリに専念した。

「『置いていかれている』っていう気持ちもあったけど、『僕は今、なかなかできない経験をしている』っていうポジティブな気持ちで自分はやるべきことを一生懸命やるしかないと思った。だから試合のときはしっかり応援するし、リハビリになったら今できることをしっかりやる。置かれた状況で100%やることが今年に繋がると思ったんで、その思いを毎日持ち続けてました」

 復帰した今は、改めてサッカーができる喜びを日々感じている。

「『サッカー、楽しい!』って、ホントにそれに尽きる。入院含めて一カ月くらいは何もしてはいけない寝たきりの状態やったんで、疲れることがうれしくて(笑)。今は、1日1日を噛み締めがなら『サッカー、やれてるんや』っていうありがたい気持ちを持ちながら、それをグラウンドに落とし込めているんで良いふうにいってるのかなと思います」

 ケガを負って以来、初めてボールを蹴るときには多少なりとも怖さがあったと言う。しかし、チームのJ1復帰がすでに決まっていたこともあって、そこでためらているような時間的な余裕はなく、勇気を持って実戦に復帰していくことに集中した。
 それでも、自分の感覚的な100%を取り戻すには、公式戦での経験が必要だった。また、実践から離れていた間に失った試合勘を取り戻すのにも同じくらいの時間を要した。

「開幕から最初の頃は違和感もあったし、ちょっと寒くて結構傷口がうずいたりっていうのがあって、なかなか自分の思っているような感覚ではなかった。
 試合勘も公式戦と練習試合では全然違う。キャンプでも試合をたくさんやらせてもらったけど、J1だとお客さんも多くて雰囲気も全然違うし、相手のプレッシャーも全然違って、そういうのも含めて10試合くらい経ってから、だいぶ動けてきたなっていう感覚がありました。ブランクは、自分の中ではないようにしようとしたんですけど、やっぱりそこは埋められなかったです」

 そうは言っても、開幕戦にスターティングイレブンとして名を連ねてからここまでシーズン、昨年1年間フルに戦って来た選手と比べても遜色のないプレーでチームに貢献してきた。そのプレーは、10カ月のブランクを感じさせるものではなかった印象だ。

「フィジカル面は、メディカルスタッフのおかげでそんなに落ちることがなかった。僕も厳しいメニューをやって欲しいってお願いしたので、本当に厳しいメニューを作っていただいて、一緒にやってくれたんで。
 あとはリハビリのときは上から観ることが多かったんですけど、どういうタイミングで動き出すとパスを出しやすいかとかイメージしながらフォワードの動きを観たり。なるべく試合勘を落とさないように、と言ってもイメージすることしかできなかったんですけど。家に帰ってからは海外の選手の動きをテレビで観たり。結構たくさん観たので、そういうのが今に繋がっているのかなとは思います」

 今は、100%の力でプレーができていると感覚的にも感じられている。チームとしてもJ1のレベルに慣れてきた。そして、まだまだ上位をうかがうチャンスはある。これからの活躍にかかる期待は大きい。