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【ボイス:12月27日】菊池大介選手の声

J1への定着を目指し戦ってきたが、3度目の降格を経験することとなった今シーズン。
しかし、その趣は1999年の時とも、2010年の時とも違うと、誰もが感じているはず。
なぜならそこには、湘南スタイルという希望があるからというのが答えのひとつだろう。
湘南スタイルにとって2014年は、継続と深化のシーズンと位置づけられた。
そこに向けて選手たちは今、どんな思いを暖めているのだろうか?
菊池大介選手が心に描く、湘南スタイルでつかむ未来を解き明かす。

レベルの違いは際の部分
せめぎ合いを制するJ1チーム

 6勝7分21敗、得点34、失点62、得失点差-28、18チーム中16位。これが2013年シーズンにベルマーレがJ1のステージで残した結果としての数字だ。
 この数字だけを見ると、降格はやむを得ない結果かもしれないと思える。しかし、数字では計れない経験を積めたことは、シーズンを通して伝わってきた。であれば、この経験は必ず来シーズンに生かさなければならない。
 曺貴裁監督がその覚悟をもって来季も指揮を執ることはすでに発表された。とはいえ、曺監督が指揮するサッカーを体現するのは、結局は選手たち。その選手がどんな思いを持って来シーズンを見据えているのかが知りたいところだ。菊池選手にはまず、1年間の手応えから振り返ってもらった。

「今年、チームとして降格することはまったく考えていなかったから、降格という結果は正直すごく悔しい。自分たちのやりたいことをもっとできたと思うと同時に、できている時間も多かったのに勝てなかったというところがもったいないなと思っています。特に終盤は1点差のゲームが多かったんですけど、それがどういうことかっていうと、守備は最少失点、1点以下に抑えるっていうのと、攻撃は2点以上取ることができなかったということ。そこがこの結果の要因だと思います」

 J2で培ってきたハイプレッシャーと縦への速い攻撃への姿勢は変わらず継続していたが、シーズン序盤は、“胸を借りる”という言葉がそのまま当てはまるような内容の試合が多かった。守備の意図がはまらないが故に守備に追われて時間だけが過ぎていくような展開もあり、攻撃面でも精彩を欠いて2点以上のビハインドを追っての敗戦も経験した。

「J2のレベルが低いというわけではないけど、自分たちがどれだけチャンスを作っても、ペースを握っていても、J1のチームはちょっとした隙をつく力や決め切る力がある。守備でも最後、際のところで守り切る力がすごい。そこは、身をもって感じました」

 それでも曺監督は、結果にかかわらずリーグ戦、カップ戦を問わず、攻撃に重心を置いたスタイルを継続した。中断期間にはフィジカルの強化を図るなど、足元を見つめ直すトレーニングも加えられた。その成果もあって中断明けからは、引けを取らない戦いぶりを見せられるようになり、シーズン終盤には貫いてきた意地の実りを感じさせる試合内容となっていく。

「自分たちのスタイルだったり、やるべきことや、やろうとしていることについては、自信を持ってやってきた。そこに悔いはないんですけど、サッカーはやっぱり勝負、『決める』『守る』ってことが一番重要。勝つためのそういう部分が僕を含めて足りなかったというのがありますね」

 結果が出ない時にありがちなのは、自信を失い、自らのスタイルを疑い、そのスタイル自体を見失っていく負のスパイラルに陥るパターン。しかし、どんな結果の試合のあとでも馬入グラウンドでは、意気消沈している選手の姿は一度も見られなかった。なぜなら、全員が試合のタイムアップの笛の音から次の試合の準備が始まっていることを知っていたからだ。

「もちろん試合に出た選手は感じるところはあると思うし、そういう部分で気持ちが落ちてしまうこともあると思うんですけど、ただ、その気持ちを持って練習をしてしまうと、その次の試合には出られない。競争がある中で、そういう雰囲気をチームに出してしまうと良くない方向に進んでしまうということはみんなが分かって練習に取り組めていたので。
 選手はみんな試合に出たいと思っている。そこが曺さんの力の大きいところ。ベルマーレみたいにしっかり練習を見てくれて、その練習の中で本当に良かった選手を使ってくれるチームはなかなかないと思うから。曺さんが作ってくれるそういう空気の中で競争心やモチベーションを高めたり、自信を深めたりすることができたのかなと思います」

 2014年の湘南スタイルは、継続と深化がテーマ。際にこだわり、『決める』『守る』をしっかりと身につけるための準備が今、着々と整えられている。

プロとして学ぶべきことは多かった
自分自身のコントロールに苦しんだシーズン

 チームは個人の集まり。一人ひとりの力を伸ばすこともチーム力を上げることに繋がる。菊池選手自身は、この1年どんな課題を抱え、戦ってきたのだろうか?

「成長する要素もたくさんあったし、自分がこれからサッカーを続けていく上で大事になるものやヒントが今までで一番たくさん見つけられた年ではあったと思うんですけど、やっぱり結果を見たり、自分の成績や試合による波を考えると、本当に情けないというか、不甲斐ない1年だった。ひと言でいうと、今までで一番悪かったと思います」

 リーグ戦34試合中30試合に出場。フル出場7試合、途中交代16試合、途中出場7試合。その中で2得点を挙げている。

「これだけ試合に出させてもらって、得点やアシストという結果もそうですけど、チームに貢献できなかったというのが一番悔しい。去年・一昨年からそうなんですけど、試合によって好不調が大きかった。良い時は本当に、なんて言うんだろう、ミスをする感じがなくて、自分のペースでやれているなというのを感じられる。悪い時というのは、ミスをした次のプレーとか、何をやっても成功しないなっていうネガティブな感情があったり。波があることが一番の課題だって分かっている中で改善できなかったところが一番悔しい。それは、自分の意識の問題だったり、試合に向けてやっていく練習段階での自分のミス、気持ちの部分での自分のミス、だと思います」

 試合ごとに好不調の波を感じるというのは、若い選手から多く聞かれる課題のひとつ。ただし、菊池選手は今までも常にその課題を一番に挙げてきた。意識していたにもかかわらず、その課題に振り回された1年となってしまった。

「シーズンの最後の方なんですけど、曺さんと話をさせてもらって、すごく厳しくその部分について言われました。自分の中では当然、試合はもちろん、毎日毎日練習から本気でやっていたつもりだったし、手を抜かずに真剣に取り組んできたつもりだった。でも曺さんに言われて、そこにもう一度しっかり向き合って練習や試合に取り組んだ結果、やっと最後になって自分のクオリティが上がって、練習でも試合でも良いパフォーマンスを見せられるようになってきた。ということは、やっぱりどこかで甘さがあったんだと思うし、自分の中でただの“つもり”だったというか、どこか本気でやってなかったんだなっていうのは、すごく感じました」

 出場したほとんどの試合で最前線の攻撃的な3枚の一角を担ってきた。そのポジションで今シーズンは2得点を挙げている。その2つのゴールはともに一瞬の判断とスキルの伴った、ファインゴールだった。しかし、最前線の選手としてこの数字はあまりにも物足りない。もちろんカテゴリーが上がったことも影響しているだろうが、2つの得点を見れば、すべてにおいてもっと良質なパフォーマンスが可能なのではと思うのが当然だ。

「自分で気づいてどうにかできていれば良かったけど、正直に言って自分では気づけなかった。モチベーションだったり、身体のコントロールだったり、本気で取り組むっていうことを1年の最初からやることができていれば、チームとしても何かが違ったと思うし、僕にとっても違ったものになったのかなという感じはしてます。
 でも曺さんと話して、それに気づけて、遅かったけど気づけたことをプラスに捉えていきたい。来年はJ2だけど、本当に“今”から向き合っていく。プロとして自分と向き合って、コツコツやっていけば、結果というのは後からついてきてくれるかなと。曺さんはよく、“プロセス”って言いますけど、結果よりプロセスを大事にして、個人としてはやっていけたら良いのかなと思います」

 振り返れば、反省の思いばかりがこぼれてくる菊池選手。だが、J1のステージを脅威と感じたような言葉はひとつも発することがなかった。あらためて初めてのJ1というステージについての問いの答えには、力強い決意があった。

「今年1年を見ると、本当に通用しなかったと思うので、そこは真摯に受けとめています。
 でも、相手がどうのこうの、というよりは自分に問題があったと思っているので、自分のコントロールができれば絶対に通用すると思うし、結果も残せると思います。次にJ1でやる時には、“やれるぞ”っていうのが伝わる目立つ選手になってなきゃいけないと思ってます」

 初めてのJ1のステージは、苦い結果に終わったが、その分、今を大切にし、未来へ懸ける思いは強くなっている。

自らが先頭に立って
J1仕様の湘南スタイルを作り上げる

 来シーズンもまた、継続される湘南スタイル。今シーズンの課題をクリアし、磨きをかけていく前に、あらためて、菊池選手が理解し、感じ取っている「湘南スタイル」を尋ねてみた。

「こういうスタイルで勝負しているチームは少ないし、このサッカーをレベルアップさせて極めていければ、これまでの日本にはないチームになれると思うし、日本の中で重要な存在になると思っている。それは、選手はもちろん、スタッフもそう思っていると思うし、みんな自信を持っているので、本当にそこはブレずにやっていきたい」

 また曺監督は、監督を続投する理由のひとつとして、「最終的にJ1で勝ち点3に繋がる湘南スタイルっていうものを作っていく」と語っている。加えていえば、就任初年度での自動昇格や、1年で降格したとはいえJ1で湘南スタイルを貫き通し、その可能性を示し続けてきたことを思えば、来シーズンの目標やクリアすべき課題のハードルはおのずと上がる。例え、2012年シーズンのJ2よりもそのレベルが上がっていたとしても。それはもちろん選手としても理解しているところだ。

「チームとしてもやるからには、優勝を目指すと思うし、個人的としてもそこは絶対に目指さなければいけないと思う。何よりもJ2仕様じゃなくて、J1仕様でやっていかなければいけない。そうじゃないと、また同じことの繰り返しになってしまう。
 来年、カテゴリーは落ちますけど、このチームには成長できる環境が揃っていると思うから、練習や試合をやっていく中で、今年の悔しさを忘れないでやらないといけない。結果が問われる1年というか…。個人的に今まで本当に不甲斐ないシーズンを過ごしてきて、こうやってJ2に落ちて、ここが一番やらなきゃいけないところだと思うし、自分は攻撃的な位置で試合に出ている以上、一番大事なことは数字だと思うので、そこにこだわりを持ってやりたい」

 今シーズン、なかなか結果は出なかったが、選手たちは湘南スタイルの進化の手応えを確実につかんでいる。

「結果が出なかったから観ている人にはその可能性が伝わりづらいところもあったかもしれない。でも、選手はポジティブに、どんどんどんどん積み重ねていけているなっていうのを感じている。まだまだ年数や経験が足りないのは分かっているので。
 例えば、(サンフレッチェ)広島は、結構前からああいうスタイルを貫いて、J2に落ちたり(2008年)、優勝してJ1に戻って今度はJ1で優勝したりしている。スタイルは違いますけど、そこに自分たちも近づいていると思っている。それは、みんなが見えているので。結果が出なかったことは本当に申し訳ないと思っているんですけど、ブレずに続けたいし、何年後か、本当に近いうちにJ1の一番高いところで良い成績を納められる自信はあります」

 菊池選手には、そのためにも自分自身が変わりたい、自分自身を変えていきたいという思いを強く抱いている。それは、先輩たちの後ろ姿から学んだこと。

「攻撃的なポジションにいる選手の得点が少ないのは、この結果になって当然のことなのかなと思う。やっぱり自分が10点以上、1シーズンで20得点近いくらいに取れるようになれば、このチームも変わると思う。そこは、これからこのチームは自分が引っぱっていくんだっていう気持ちでやらなきゃいけない。今シーズンは、亮太くん(永木)がいたり、薫くん(高山)がいたり、そういう選手たちにまかせてついて行くという感じもあった。亮太くんがキャプテンをやってましたけど、ついていこうと思わせてくれたっていうのは、すごいことだと思うし、自分もそういう存在になっていかないといけない。年齢的にもそういう年齢だと思うし、このチームの中では特にそうだと思う。来季についてはまだ、どういうチームになるかはわからないけど、本当に、“自分について来い!”っていうくらい強い気持ちでやりたいと思います」

 16歳でトップチームに登録されて7シーズン、プロとして契約をしてからは5シーズンを数えた。2014年は、湘南スタイルの継続と深化の方向性とともに、23歳になる菊池選手の進化にも注目だ。

取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行