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【ボイス:6月4日】武富孝介選手の声

昨シーズンに引き続き指揮を執る曺貴裁監督は、常々全員が戦力と語る。
そのため、どのポジションも選手を入れ替えて数多くの組み合わせを展開するが、
今季はそのポジション争いをより高いレベルに引き上げることを狙いとして、
昨年よりも多い、33人の選手を抱えてチームをスタートさせた。
その中でも、ポジション争いの激しさがひとつ抜きん出ている感があるのが、
攻撃の要となる1トップ2シャドー。
同じスターティングメンバーが2試合続くことが稀なポジションだ。
そのポジションに今季加わった武富孝介選手。
2012年シーズンは、J2ロアッソ熊本でフォワードとして活躍し、
チームのトップスコアラーとなる14得点を挙げている。
ゴールへの執着心を人一倍放つ新戦力に、リーグ中盤戦へ向けて、期待は高まる。

さらなるチャレンジのために
ステージもステップアップ

 敵にすると厄介な相手は、味方にしてしまえば心強いもの。武富選手は昨シーズン、対ベルマーレ戦も含めて14得点を挙げ、フォワードとしての結果を残した。

「熊本にはお世話になったという気持ちはあるんですけど、自分がサッカー選手としてやっていくうえで、もっと成長しなければいけないということと、自分がJ2の中である程度成長できたのを感じていたので、もう一歩ステップアップというか、ステージもステップアップして、もう一度チャレンジしたいという気持ちがあった」

 J2からJ1へ。ステージを上げるという希望をかなえるには、所属元の柏レイソルへ戻るという選択肢もあった。が、

「なんか、湘南に惹かれたというか…。
 曺さんが直接、サッカーの戦術を話してくれたのと、ベルマーレは、まだ完成されていない選手が多い中で、一人ひとりが成長するっていうことを掲げているチーム。そこで自分も成長したいと思った。そういうことが必要だなと思ったので、湘南への移籍を決めました」

 実際、ベルマーレで過ごしたこの数ヶ月間で移籍の選択がもたらしたものはというと、

「練習の中で曺さんのサッカーに対する考え方を聞いて、『自分は考えが浅かったな』って思ったことがあった。サッカーに対する思いだったり、サッカーをしてないときの過ごし方だったり。
 曺さんは、常にサッカーのことを考えている。というか、選手のことを考えてくれている監督。そういう意味では自分はまだまだ足りなかったと感じました」

 ベルマーレでは、常に前線に配置されるが、フォワードにコンバートされたのは昨年、熊本でのこと。それまでは、トップ下やサイドなど、攻撃的なポジションではあるが、ミッドフィルダーを務めてきた。

「自分の中では、中盤をやってもフォワードをやっても心構えは変わらないけど、ゴールに向かう、ゴールに完結させるプレーというのを意識したいと思っています」

 その言葉の通り、特にペナルティエリア付近でのプレーは、よりアグレッシブで、見る側に得点の予感を抱かせる。J1初ゴールとなった第3節の得点は、チームに対する今シーズンの期待をも高めるゴールとなった。

湘南スタイルに自信を持って
一丸となったときこそ強さを発揮

 リーグ戦の1/3を消化し、中断期間を迎えた。開幕からここまで、道程は厳しい。
 初めてJ1のピッチに立つ選手も多いチームを率いる曺監督は、自分たちで得た成功体験こそが成長に繋がると語り、失敗から学ぶそのプロセスを何よりも大切にしている。そのため、ナビスコ杯の戦いも含めたすべての試合について、真剣勝負を挑みながらも、選手が経験を積み上げる場としても位置づけている。そんな指揮官のもと、常に湘南スタイルで挑み続けてきた結果、今がどんな状況でも必ず道は拓けると思わせる、たくましさが身についてきた。
 これまでの戦いぶりを振り返ると、

「自分が最初の得点を取った頃は、チーム全体として去年のJ2のときのように得点は取れるという自信があった。強引にでもシュートを打てていたし。
 その後は、ちょっと負けたり、勝てない時期が続いて、1失点してしまうと、『またダメかも』という雰囲気が流れていたところはあった。若い選手が多いから、そういう雰囲気からなかなか立ち直れないことも、『しょうがない』と言ったらそれまでになってしまう。それより、そこでどうするかということこそ、ピッチに立っている選手が考えてやっていくことだと思う。監督が外から声を出してくれても限界がある。やっぱり選手たちで考えてやっていかないと」

 曺監督は、試合のプランも戦術も細かく策を練るが、試合が始まってしまえば結局は選手一人ひとりの判断によって試合が進むという考えの持ち主。より高みを目指す方向へ導くが、答えは、自分たちで出すもの、あるいは自分たちでつかめと指導する。武富選手の「ピッチに立っている選手が考えてやっていくこと」という発言は、まさにその指導の賜物だ。
 特に、ナビスコ杯の横浜F・マリノス戦とそれに続いたリーグ戦のジュビロ磐田戦、セレッソ大阪戦は、選手たちにさまざまな成長をもたらす試合となった。

「勝てないとか、負けてるとか、そういうことって次の試合とは、まったく関係のないものじゃないとダメだと思う。前の試合で負けたから今日もダメかもしれないなんて思って試合に入っちゃいけない。試合のたびにリセットして、次の試合は次の試合でやらなければいけない。引きずったり、今勝ててないという不安とか、そういうものはいらない。考え過ぎて、湘南スタイルに自信がなくなったり、信じることをしなくなってバラバラになるのが一番よくない。だからまず、人のせいにするんじゃなくて、まず自分に、『自分はどうなんだ?』って考えるようにしている」

 今、チームを良い方向へ動かすには、何が必要なのだろうか?

「チーム全体がやろうとしていることを出すには、絶対に一体感が必要になると思う。誰かがはぐれていてはダメ。一丸となって、みんなでカバーし合いながら、『ミスしても良いからやろうぜ』くらいの気持ちで、誰かがミスしたら誰かがカバーして、良くないところがあったらみんなでカバーして、という気持ちでやるほうがいいと思っています」

 武富選手がそういった考えに至ったのは、大学生との練習試合がきっかけだった。

「J1で戦う上で、考え過ぎていたのかなと思った。大学生と練習試合をして、ある意味リラックスして、気持ちよく自分のプレーができた。
 強いチームは、やっぱり自分の良いところを出すのがうまい。みんなが自分のストロングポイントを出しあって強いチームになっているのかなと思う。反省を大事にしつつ、それ以上に自分たちの良さを、一人ひとりが良いところを出せるようにした方が勝ちに近づくのかなと思います」

 自分の良いところを出して勝負をする。ウィークポイントやミスは、みんなでカバーする。湘南らしさを再確認した今、中断明けのパフォーマンスに期待が高まる。

目標は2桁得点
ゴールに至るまでのプレーも大切に

 向上心は、人一倍。常にサッカー選手として、今よりもうまくなること、今よりも上のステージで戦うことを目指している。

「柏から熊本へ移籍したことは、J1からJ2への移籍となったけど、後退したということはなく、自分自身では成長したと思っている。
 やっぱりサッカー選手なので、試合に出ないと喜びも楽しさも、やりがいもない。それぞれのチームに愛着や感謝はあるけど、それとサッカー選手としてのやりがいが感じられるかどうかというのは別。だから、最初の移籍もサッカー選手としてやりがいを感じられるチームに行きたいという気持ちがありました」

 柏レイソルのアカデミー出身。武富選手がトップチームに上がった年は、特に有望な選手が多く、6人もの選手が同時に昇格している。そんな仲間からは、

「良い刺激をもらってます。
 自分も海外にチャレンジしたいという気持ちもあるけど、それよりもまずはしっかり足元を見て、プレーしなければいけないと思う。今やるべきことは、湘南でしっかりプレーすることだと思う。それを積み重ねていって、海外に行けるときがあれば良いのかなと思います」

 一歩一歩の歩みを大切に、サッカー人生を歩く武富選手。今年、ベルマーレでの目標は

「フォワードだったら点を取ることが大事だと思うので、具体的な数字としては2桁って言っています。2桁得点を目標にすることは大事だと思うんですけど、ただ、実はあんまり意味がないとも思う。やっぱり試合に対する入り方だったり、どういうプレーをするかが大事。その中でチャンスがきた時にしっかり決めて2桁得点を取りますって言うのなら良いと思うけど。ただ2桁って言ってるだけなら意味がない。
 やっぱりチームに貢献することこそ、一番良いと思います」

 数字に至るプロセスも伴ってこそ。目標を掲げるのにも、きめ細やかに自分自身に問いかける。武富選手が目標を達成することができれば、チームの未来も明るいものになるに違いない。

取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行