ボイス

【ボイス:12月18日】菊池大介選手の声

自動昇格圏に勝ち点差1で及ばずに迎えた最終節は、
天の力を味方につけて、この試合で昇格したいという気持ちはひとつながら、
選手それぞれ、抱える思いはさまざまあった。
今シーズン、開幕戦のピッチに立ち、42試合中39試合に出場、
チームの勝利に貢献し続けた菊池選手も
最終節に出場停止となり、チームメイトに思いを託すこととなった。
そこにあったのは、どんな思いだったのだろうか?
自動昇格を果たした今、走り続けた2012年シーズンを振り返った。

最初に手にした結果を自信に変えて
走りきった2012年シーズン

 サッカーに「たら、れば」はない。そんな台詞で締めくくられる会話で話題になる試合は、内容はどうあれ、たいてい結果はネガティブなもの。しかし、2012年シーズンのベルマーレを振り返るとき、「たら、れば」で話題になるといえば、劇的な勝利を収めた開幕の京都サンガF.C.戦が筆頭に来るのではないだろうか。それは、昨シーズン、天皇杯準々決勝も含め、一度も勝てなかった京都を、Shonan BMW スタジアム平塚に迎えた一戦。試合に臨んだのは、生まれかわったチームの中から選ばれた、平均年齢22.27歳(2012年3月4日時点)のイレブン。結果は、アディショナルタイムに劇的な追加点を奪って勝利を収めた。その得点を決めたのが菊池選手。振り返れば、まさにシーズンの行方を予感させる幕開けだった。

「開幕前に、湘南の今年の予想順位は10何位だったりとか、あんまりいいところにはいけないっていう評価について、話を聞いたり、雑誌で読んだりして、すごく悔しかったし、そういう情報や予想を絶対に覆してやろうって、強い気持ちがありました」

 菊池選手には、下馬評を覆したいという思いを実現できるのではという予感もあった。

「最初のミーティングで、こういう体制で、こういうスタイルで行くぞって言われて、すごくおもしろいサッカーだなって思ったし、これで上に行きたいと思った。
 その後、キャンプとか開幕まで練習する中で、このチームにはこのスタイルが一番合ってるなって思ったし、強くなれるサッカーだと感じた。みんながどう思ったかはわからないですけど、僕としては今年のチームはいつもと違うっていうか、良い雰囲気があるっていうのも感じていた。あまり口には出してなかったですけど、それでも2~3人の選手とは、『今年は上に行きたいね』っていう話をしました」

 選手自身が強くなれると感じた湘南スタイル。

「今年は、走れる選手がいっぱいいて、そこを活かしたサッカーをやっている。自分自身も、走ることに関しては自信を持ってやっているんで、良いなと思いましたし。それに、若い選手の良いプレーだったり、練習から自分を出せるような環境を、紘司さん(坂本)を中心にベテランの選手が作ってくれているのを感じていた。良いチームになるんじゃないかなと、やっていて感じました」

 ポジションは、右のシャドーが定位置。出場した39試合のうち、37試合でスタメンを勝ち取ってきた。

「自分が一番活きるポジションだと思う。守備も当然しなきゃいけないけど、一番はやっぱり攻撃で得点に関わることができるポジションなので。ボールを受けた時に、すごくアイディアを出しやすいし、周りに選手がたくさんいるからいろんな判断がある。やっていてすごく楽しいです」

 課題だったボールがないところでのプレーについても理解が深まり、実際の動きも良くなった。何よりうれしいのは、自分自身がその成長を感じられているところ。

「ボールをもらう前の動きっていうか、スルーパスだったり、ちょっとした縦パスだったりとか、前の相手を外す動きだったりとか、ちょっと動くことでボールをもらった時に前を向けたり、抜ける前に前をしっかり見ていれば良いプレーが選択できるんだということが多く感じられるようになったなって思います。
 やりがいはすごく感じているし、充実もしている。やっぱりこういうシーズンは、結果に結びつけたい。やってきた成果だったり、チームとして積み上げてきたものを最後、形にしたいって思っていました」

 個人的にもしっかり手応えをつかんで戦った1年。終わってみれば、最初の予感そのままに、チームとしての結果も手に入れることができたのだった。

充実すればするほど
次々に生まれてくる高い目標

 「全員が戦力」と常々話す曺監督のもとでは、どの選手もポジションが約束されることはなかった。その厳しい環境の中で39試合に出場し、37試合が先発、フル出場が20試合、途中交代が17試合、2試合で途中出場を果たした。出場停止以外でベンチを外れたのは1試合のみ。今までにない充実感を味わいながら、自分に対する要求はきりがない、そんなシーズンを送った。

「ずっと試合に絡ませてもらってきたので、今までの中で一番充実していました。その思いを結果に結びつけたいと、強く思うシーズンだった。それは、得点やアシストっていう結果もそうだけど、何よりシーズンを通して波をもっともっと減らさないといけない。去年に比べたらそういう波は少なくなってきたとは思ってるんですけど。
 1回の練習だったり、1週間の練習だったりを同じテンションでやるというのは、ホントに簡単じゃないっていうのを感じさせられました。
 試合も1試合1試合、どの試合も同じ価値のある1試合なんだけど、どこかで自分の中で揺れが生じちゃっている。
 気持ちの持ちようだし、どこかで甘さがあるんだなって思うんですけど」

 曺監督いわく、特に攻撃的なセンスの高い若い選手は、自分中心のスタイルからチームプレーを尊重するプレーバランスを身に着けていく際に、紆余曲折を経験するという。菊池選手もそんな狭間にいるようだ。
 それでも、この1年の成長は著しい。試合ごとに多少の差はあっても、ゴール前でボールを持てば、スタジアムが沸き上がる。

「ボールに関わる回数が増えたのは実感としてある。そこがもっともっと一番やらなきゃいけないところなんですけど、自信がついたところでもあります。
 気をつけているのは、試合が始まってボールに関わる時間が遅いと、リズムがつかめないので、そこは意識してます。早い時間帯にボールに触ること、そこでいかに良い選択できるかっていうことを大事に思っています。あとは、最初の時間帯は、特に前に意識を持ってプレーする、ボールを取られないようにするということですね」

 菊池選手の変化には、どこか「変わらなきゃいけない」という決意のようなものが感じられる。その理由はというと

「一番は、去年1年やって、試合に関わる回数は多かったんですけど、正直何もつかめなかった、成し遂げられなかった、そういう思いがある。それは、チームの順位もそうですけど、自分の中で手ごたえを得られたシーズンではなかった。
 練習と試合が繰り返される中で、良くない時にどうするかっていうのが常に課題としてあって、反町さん(現松本山雅FC監督)に指摘されたところを考え過ぎて、自分の良さが出なかったり。そういう中でも、成長はしていたと思うんだけど、自分の中で満足感ややりきった感っていうのが少なかった。その経験が、活きているとは思います」

 今年は、“考えすぎない”、ということは特に意識している。

「今年も悩みは多いです。でも、これを乗り越えたら成長できるって思える。
 課題もたくさんあります。課題だらけ。試合の中でも『あ!』っていう場面がある。チームに良いリズムが来てる時のイージーミスは、相手にリズムを渡してしまうスポーツである分、もっともっとそこに神経を使ってやりたいと思っている。あとは、シュートに至るまでのファーストタッチだったり、アイディアは、もっと突き詰めてやらなきゃいけない一番の課題です。
 得点も7点しか取れてなかったので、やっぱりまだまだやるべきことはあると感じました。でも、こういう充実したシーズンを送ることで、次に向かういろんな思いを感じることができるので、そういう意味でもすごく充実したシーズンでしたね」

 次に向かう目標は、まだまだ遥かな高み。今はまだ、夢の途中だ。


アジエルのプレーにワクワク!
10番を背負う特別な思い

 今シーズンから背負う番号は「10」。サッカーにおいては、チームの顔となる、攻撃的な選手が着けることが多い、特別な数字だ。

「小学校、中学校は鳥取と長野でしたが、地元のチームで、ずっと10番を着けさせてもらっていたこともあって、自分が一番だと思ってやってきた。そういう番号だっていう特別な思いはある。自分が中心だという気持ちは、当然持たなきゃいけない。そうじゃなければ、やっぱり自分が成長しないし、チームのためにもならない。それに、そういう気持ちは、去年、プレーしている中で付いてきた部分でもある。
 ただ、この番号を着けて特別な思いを感じさせるのは、やっぱりアジエルの存在。本当に憧れていた選手が着けていた番号だから、無責任なことはできないなって。アジエルは、スタッフだったり、選手だったり、サポーターの皆さんにも、本当に信頼の厚い選手だった。湘南の中心にならなきゃいけないっていうのを感じさせてくれた番号です」

 アジエル選手(現武漢卓爾足球倶楽部)がベルマーレに在籍したのは、2006年から2011年シーズンの6年間。2007年からベルマーレユースに加入し、同年にプロデビューを果たした菊池選手にとってベルマーレでの歴史は、そのままアジエル選手に憧れ続けた歴史でもある。

「人間性もそうですけど、やっぱりプレーのところ。自分が試合に出てなくて、トップの試合を観ている時なんかは、アジエルがボールを持つとサポーターがワクワクしているのを感じたし、自分もすごくワクワクした。実際、攻撃は全部アジエルのところから始まっていた。チームが勝つ時には、やっぱりアジエルがゴールを決めたり、アシストをしたり。あのプレーを真似することはできないけど、そこに近づきたいという意味で、自分が求めている感覚をピッチで体現している選手だった。それが憧れた一番の理由です」

 プレースタイルは違っても、チームで果たす役割は変わらない。その責任を感じながら背負ってきた背番号「10」。

「湘南で、自分らしい10番像を作りたいなと思って今シーズンやってきた中で、まだまだあの存在には近づけていないなっていう思いは正直あります。
 自分の良さは、やっぱり前に行く推進力、それから前でアイディアを使って攻撃していくところは自分自身も一番好きなところだし、自分の特徴でもある。そこを出す回数や迫力を考えると、試合ごとにまだまだ回数や迫力に違いがある。試合のあとにビデオを観返したり、監督に言われたりする中で一番の反省点というか、直したいところですね」

 調子が良い時の菊池選手は、まさに10番の選手らしく、誰をも一瞬で魅了するプレーを数多く繰り出す。

「アイディアは、自然にその場面になった時に浮かびます。勝手に身体が動く感じ。そういうモードに入ると、絶対抜けるな、行けるなって思う」

 今シーズン、そういう点で一番印象に残っているのは、アウェイで引き分けた第21節の千葉戦。一番近い試合では、敗戦したので印象としてはあまり良くないというが、2得点を挙げた第35節アウェイの岐阜戦も同じような感覚があったという。

「気持ちが上がりすぎるのは良くないけど、うまくコントロールできないとやっぱりフワフワしてしまうところがあるんです。曺さんに、そういうフワフワした感じの空気と、ガーッと集中している、その中間の良い空気を常に保って試合に入れって言われるんですけど、本当にそこに入れた試合っていうのが千葉戦だった。岐阜戦もそれに近い感覚はありました。その感覚がキープできれば何も恐れるものはないし、自分の良い空気でプレーができるという実感はある。そういう感覚を毎試合毎試合つかめたら自分も絶対おもしろいと思うし、チームのためにもなると思う。結構試行錯誤しながらやっています。でも難しいんです」

 子どもの頃に着けた10番と、プロの世界で着ける10番の意味の違い。その違いを肌で感じたシーズンだった。

曺さんの胴上げは有言実行!
今シーズン最大の目標を達成

 勝ち点3にこだわるという目標のもと、1試合1試合を戦ってきた2012年シーズンだった。とはいえ、シーズンも後半に入れば、否応なく順位は気になり、終盤戦には昇格を意識しない選手はいなくなっていた。それだけ手応えのあったシーズンだったとも言える。

「昇格は相当意識してました。ずっとJ2でやってきたけど、天皇杯でJ1のチームと戦ったり、年代別の日本代表で海外のクラブだったり、代表チームと試合をする中で、上のレベルでやりたいっていう気持ちは常に持っていました。
 J2もレベルは年々高くなっているし、成長の糧となるものもたくさんあるけど、それ以上にJ1にはいろんなものがあるし、学ぶことも多いと思う。レベルの高い舞台でやることでさらに自分が成長できると思うし。同年代の選手もいるし、海外のサッカーを観たりすると、やっぱり日本のトップレベルでやらなきゃいけないって思う。
 そういう思いもあって、今年は、始まった時から絶対に行きたいって思っていた。J1でやらなきゃいけないと思っていた」

 ところが、期する思いが強すぎたのか、最終節を次週に控えた41節ホームで迎えたガイナーレ鳥取戦で、前半の早い時間帯でファウルを犯し、警告の累積によって最終節は出場停止が決まった。試合自体も、曺監督が「モチベーションを保つのが難しい」だろうと、ハーフタイムで交代の策をとった。

「個人的に良い空気を作れなかったのが一番だと思う。ああやって、ファーストプレーや次のプレーで、ボールをロストしてしまって、そこからのファウルだった。本当に、ここから成長するしかない。今年1年やって来て、最後に出られないなんて情けない終わり方だなと思います」

 試合に臨む気持ちのコントロール、試合での自分自身のリズムの作り方、ボールへの関わり方、最初のプレーの選択……。もっとも丁寧に、繊細に気遣ってきた部分でミスが重なった。今年の課題として上げたもの、すべてが凝縮されて表れた。
 試合後は、気丈に振る舞っても悔しさと落胆は、隠せなかった。そんな気配を察し、曺監督が一緒に話し、整理する時間を作ってくれたという。
 
「オフ明けは、悔しさが強くてなかなか整理できてない状況でしたけど、監督と話して、その中で自分で整理して、最終戦までをなんとか良い一週間にして、チームを信じて、自分もいつもと変わらない良い雰囲気でやろうと思って、その週を過ごしました。
 その一週間はプレーだったり、身体のキレという部分がすごく良かったというのもあったんですけど、気持ちの面で良い一週間が過ごせました。気持ちの面からプレーに繋げる部分という意味で、自分の中で整理できた結果、プレーも含めてすごく良い一週間が過ごせたんだと思います。あとは、当日、みんなを信じて全力で応援するだけだと思ってました」

 曺監督と話す中では、少しきついひと言もあった。

「『これがお前の人生だ』って言われました。『前の試合でファウルして前半で交代して、こうやって最後に出られない。そういう自分の状況をやっぱり成長の第一歩にしなきゃいけない』って。本当にそうだなと思った。それに、そこで切り替えて気持ちの部分でも、プレーの部分でもプラスに持っていけたのは、自分ではすごく大きな経験となった。そうやって声をかけてくれたことに感謝してます」

 リーグ最終戦となったFC町田ゼルビア戦は、バックアップメンバーも全員がスタジアムで試合を見守った。スタンドで観戦する選手たちは、ワンセグで京都の試合も同時進行で観て確認していた。

「ずっと祈ってました。
 昇格が決まって、グラウンドに入ってみんなと抱き合って喜んだ時には、本当に自然と涙が出てきた。中学の時、長野にいた僕にユースに来ないかって声をかけてもらって、ここを選んで、今までやってきて、こういう瞬間に自分がいられることを幸せだと思ったし、今年1年みんなと一緒にやってこれて、本当に良かった。その時はその気持ちだけでした」

 念願の曺監督の胴上げも実現した。

「目標だったので、有言実行だなって(笑)。『やったー!』って思いましたけど、なんか不思議っていうか。ユースから育ててもらったので、いろんな思いがありました」

 目標を達成すれば、また次に目標が生まれる。そんなサイクルを身をもって体験した今シーズン。「タイムアップの笛は、次の試合へのキックオフの笛である」。昇格を決めた試合のピッチに立てなかった無念さを晴らすことも含めて来シーズンに向け、今、まさにこの言葉の心境であることは、間違いない。

取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行