ボイス

【ボイス:2017年8月25日】山田直輝選手

ベルマーレで変わったサッカーの楽しさ
チームのなかで活きる選手へ

ボールに触れる、そのタッチだけでスタジアムが沸く。
テクニックに長けた山田直輝選手のプレーは、それだけでも観る人をワクワクとさせる。
それがチームメイトと連動し、得点に繋がるプレーであれば、なおさら。
今、山田選手はチームのために走り、持てる技術のすべてを駆使したプレーでチームを引っ張る存在。
ところが以前は、違ったという。
移籍3年目、新しい自分を培ったベルマーレでの時間を振り返る。

このチームにいる限り
勝つための選手でありたい
 リードした試合をいかに終えるか。特にタイムアップ間近の、アディショナルタイムに入った時間帯は、その過ごし方にチームの考え方やピッチに立つ選手の個性が出る。
 7月1日ホームで行われた第21節名古屋グランパス戦、1点リードで迎えた試合のアディショナルタイム、この時間を使うために山田直輝選手は、ホームバックスタンド側のコーナー近くで、これまでのベルマーレではあまりなかったプレーを見せた。それは、時間を使うためのボールキープ。
 
 ところで、相手にボールを渡さず時間を経過させるための策として行うボールキープというと、身体の大きな選手がその強さを武器に相手選手に触らせないようにボールを囲うシーンが多くみられる。しかし、山田選手が見せたのは、相手選手にボールをオープンにしながら持ち前のテクニックでキープするプレー。わずかな時間ながら目の前にあるボールに触るに触れない相手選手を翻弄するその技にスタンドが湧いた。
 
「あれは、僕も楽しかったですね。ああいう場面って、身体が大きい選手が後ろを向いてやることが多いんで、なかなかやらせてもらえないんですけど。僕、あそこでキープするの、結構好きですね。相手は取りたくて焦って飛び込んでくるから、かわせるんで。もうちょっとキープしたかったですけどね」
 
 人一倍巧みなテクニックは、山田選手の何よりの武器。自分自身も、小柄な身体ながらプロにまで上り詰めた、その拠り所の一つと考えている。なかでも真骨頂は味方から受けたボールを再び味方へ送るワンタッチプレー。
 
「身体が小さいんで。身体が大きい人みたいに足元に止めたら全部取られる。生きる術ですね」
 
 ボールを受ける前にそのあとのイメージが出来上がっているからこそできるプレーだ。しかも、ボールを受け、パスを出し、次のプレーへと移る、その一連の動きは相手選手との駆け引きのなか、常に工夫が凝らされている。山田選手のプレーには、サッカーを観る楽しさの一面が凝縮されている。しかし、以前はそうした技術に走り過ぎ、結果としてチームをおざなりにするようなところがあったことは否めない。
 
「昔は、本当に自分が楽しければいいやって思ってやっていたんで」
 
 並外れたテクニックとイマジネーション豊かな攻撃のアイデアが評価され、浦和レッズのアカデミーからトップに昇格。その年に日本代表にも招集され、国際Aマッチの経験もある。しかし、長期離脱を伴う怪我を負ったのちは、復帰後も小さな怪我に悩まされることが多くなり、トップチームに昇格した2009シーズンにリーグ戦20試合に出場して以降、なかなかコンスタントに試合出場をつかむことができなかった。そんななか2015年からベルマーレに籍を移して心機一転を図り、今年で3シーズン目を迎えた。
 
「1年目は、今までの自分と、このチームの戦い方という点で、やっぱり少し戸惑った部分がありました。自分が楽しければいいやと思っていたんで、自分の欲しいタイミングじゃなかったり、自分がパスを出したいタイミングで動いてくれないとできないっていうか。もう、100か0か、みたいな。曺さんには今でもよく『50のプレーもやれ』って言われるんですけど、そのプレーができなかったんで。だけど今は、多少合わなくても修正できる。50のプレーができるようになってきている、そういう感じはありますね」
 
 加入当初の山田選手は、ベルマーレのスタイルを吸収しようとする気持ちは強くあったものの、プレーに対する考え方は以前のまま。曺監督にもその点をよく指摘された。ベルマーレで過ごすなかで自分のアイデアがすべてだったところから時間をかけて、いかにチームのなかで活き、そして活かされるのかを整理していった。そうして1年半が経った頃、チームのなかで自分を活かす術を理解した瞬間が訪れる。
 
「割り切れたっていうか。怪我がきっかけだった気がするんです。怪我と、その頃ちょうど娘が生まれて。その2つの大きなターニングポイントがあったときから、変われたなっていう感じがします」
 
 昨シーズン、山田選手が怪我をして戦列を離れていたのは、チームが10連敗を喫した頃。必死にになればなるほど浮上のきっかけがつかめない、そんなチームの戦いぶりをスタンドから観ることが続いていた。
 
「上から観ていると、何か楽しそうじゃないなっていうか。みんな本気で走っているけど、楽しくやってないなと思って。自分が復帰したら『もっと楽しさを体現して、みんなで楽しさを思い出さなきゃいけないな』と思って復帰したのが、自分の中ではいい方向に回っていったなというか。みんな『勝たなきゃいけない、勝たなきゃいけない』っていう顔をしてサッカーをやっていたんで。それを上で見て気づけたのは、大きかったなと思います。怪我は良くないことですけど、結果的にあの怪我で自分はきっかけを掴めたんで、ネガティブなことだけじゃないなというのは感じましたね」
 
 復帰は天皇杯4回戦の徳島ヴォルティス戦。その試合からは山田選手自身、いいイメージでプレーができるようになった。昨年終盤には、常に試合出場のチャンスを掴み、今年は、ほとんどの試合でスタメンに名を連ね、最近ではフル出場する試合も増えてきた。何が変わったのかといえば、チームのためにプレーをし、勝負と向き合う姿勢を持つようになったことだ。
 
「自分がボールを持ってないところ、目立たないところで、勝つためにっていう仕事が昔よりできるようになっているなとは思います。このチームにいる限りは、やっぱり勝つための選手であれたらいいなと思います」
 
 個からチームへ。気持ちの変化は、“サッカーの楽しさ”にも違いをもたらした。
 
「昔の僕を知っている人だとわかると思うけど、もっと自分勝手にやっていたと思いますね。自分勝手に自分が楽しんで、それが観る人にとっても楽しいプレーみたいな感じだったところから、チームの勝利のために戦うようになったっていうか。よりプロらしくなったなって感じはします。“魅せる”のもプロではあるので、湘南らしいプロになったなという感じですかね」
 
 自身のプレーで“魅せる”ことを忘れないところがまた、山田選手らしい。その山田選手が思う“湘南らしい”選手とは。
 
「チームのために走れて、勝利のために全力でプレーできる。そういう選手が湘南らしいと、僕は思います」
 
 アイデアとテクニックと、そしてチームのためにプレーする熱いハートと。今、山田選手のプレーはチームのなかで活かされ、より輝きを増している。

>再出発を期しての移籍 ベルマーレで見つけた新しい自分