ボイス

2016.03.12

【ボイス:2016年3月11日】曺貴裁監督

サッカーは人生そのもの 豊かな経験をサポーターとともに

 昨年の年間順位は8位。昇格しても1年で降格してきた過去を振り返れば、この結果は上々。結果を出した選手たちも評価を上げ、熱心なオファーに応えて移籍を決断した選手もいた。曺監督は、選手たちの成長を証明するオファーを喜び、他クラブへ移っていったことも前向きにとらえている。

「我々のクラブの立ち位置でいうと、大きなクラブに選手が成長を認められ、オファーを受けたことは喜ばしいこと。僕自身は、クラブがいろんな意味で大きくなるために選手がそういうふうになっていかないといけないなと常に思っていたので。クラブの未来を考えると、当たり前の、偶然じゃなくて必然のサイクルだと。産みの苦しみとかよく言われますけど、ネガティブな要素はまったくない。それに、周りからするとここを機に我々湘南ベルマーレというクラブがどういうふうに成長を続けていくのかということに注目する、そういう立場になっていると受け取っています」

 湘南スタイルの確立とJ1復帰や残留に力を尽くしてきた選手が他のクラブへ移ることに戦力ダウンを心配する声や長年の愛着から寂しさを訴える声も聞かれるが

「湘南スタイルの体現者の彼らが、湘南スタイルどうこうじゃなくいち選手として他のクラブから興味を持たれ、オファーをもらい、お金が動いてこのクラブにそれなりのものを与えた。湘南がこのJリーグにどんな形で存在するかといったら、そこのところが当たり前だという気持ちでやっていかなければいけない。
 俺も、『一緒にやりたい』という気持ちは彼らに言います。でも、最後は彼らが決めればいいと思っていた。彼らもここに居たかったはずだし、ここで成長したいという思いもあったはずのなかであえて、それこそ『挑む』『越える』ハードルを作って、自分がもっと成長するために外のチームを選んだというのは、一人の人間として、一人の選手として以上に人間としての彼らを応援してあげたいなと僕は思っている。サポーターの人もそういう彼らを誇りに思ってもらいたい。
 逆に彼らが出て行ったなか、自分はここに残ってやるという選択をした我々の選手をいろいろな意味で頼りにして見守ってほしいなと、個人的には思います」

 クラブの予算規模は年々増加傾向にあるが、それでもJ1リーグの中で中位以下であるのが以前から変わらぬ現状。そういった状況の中でもベルマーレらしいコンセプトのもとスタイルを模索し、Jリーグの中でサッカーのスタイルにおいて存在感を示すことができるようになりつつある。特に曺監督が指揮を執る湘南スタイルが定着してからは選手への注目度が上がり、選手を成長させるクラブとしての評価も得始めている。クラブとして安定した経営を図るためには、そういったプロセスを経ることも必要ということだろう。

「我々には今、サッカー専用のスタジアムもないし、大きく状況を変えられる力もない。思いだけではクラブは成り立たない。
 我々の努力や行政の力、スポンサーの力で2万5000人くらいのサッカー専用スタジアムができて、そこに複合ショッピングセンターが入り、みんながそこで買い物をする中でサッカーをする環境があって。選手たちにもビッグクラブに負けない希望と勇気と、それを支えるお金も発生してきてやっと選手に移籍についての言葉をかけられると思う。今の湘南の立ち位置では、我々が選手の成長を促すような指導や見守り方をして選手を育てることが最優先で、それ以上のことを言うのはまだ絵に描いた餅」

 曺監督はサッカー界を大きく見ることからベルマーレというクラブの成長を思い描いている。現状から踏まなければならない成長のステップと、そのために今何をなすべきなのかを見据えて。

「我々は、ベルマーレがあることで周りが元気になったり、勇気が出たり、子どもたちがサッカーを観てすくすく育つようなことをやっている。だから、ベルマーレがJ1にいる、仮に5位になった、優勝したということがあったとして、そういったことについて自分たちの基準だけでいい悪いを判断するのではなくて、世の中というもうちょっと大きいものにどれだけ自分たちが寄与しているかということを考えていかなければいけない。サッカー界って、ベルマーレだけがパッと強くなればいいというものじゃない。だからこそ、サポーターの人のベルマーレを愛して応援してくれる気持ちはすごく力になっているけれど、一方で選手の挑戦とか成長に夢を持ってほしいなとも思う。彼らが海外に出て活躍するかもしれないし、それに続く選手がもっと出てくるかもしれないし。
 そういう意味では、サポーターも含めたみんなが頑張ってくれたおかげでこうした当たり前のサイクルがついに去年来たと思っています」

 もちろん、他のチームに行くことだけが成長の証ではない。このチームを強くしたいと決意して残った選手たちには、移籍した選手以上に成長して欲しいと願い、指導を行っている。また、一定の変化を繰り返す状況が定着するなかでもそのレベルが上がっていかなければクラブとしての成長はない。ここまでの積み重ねが問われるのはむしろ、今シーズンということだ。曺監督もそこを肝に銘じている。

「残った彼らはこのチームを強くしたいという気持ちを持っている。その思いは、今年使っている『with you』という言葉があるんですけれど、相手を喜ばせて、そのことで自分が喜びをもらえるという気持ちと、自分自身が成長したいという意欲が両輪となって回らないと叶えられない。それが今年のチームなので」

 今季、このチームを率いて曺監督は願う。

「僕は、サッカーが人生そのものだというつもりで監督をやらせてもらっている。クラブを強くするためには、この人生における悲哀とか経験を、偉そうな目線でいうと、サポーターには共にしてもらいたいと思っている。その結果、みんなが本当にうれし涙を流せるような、そういうシーズンにしたいと思っているし、その覚悟は強い。だからサポーターには『一緒に頑張ってください』と言いたい」

>変化の時を越えて 新たな深化を続ける湘南スタイル