ボイス

【ボイス:10月25日】岩尾憲の声

VOICE 岩尾憲

公式戦のピッチに立つ以上、選手たちには
湘南スタイルを変わらないクオリティで体現する力と
勝利への執着心が求められる。
限られたチャンスの中でも、そのテーマにこだわり、
表現することは自分自身の成長に繋がるからだ。
約2年の月日をケガとの戦いに費やしてきた岩尾憲選手が
今シーズン見せた変化がそれを証明している。

キャンプで目覚めた
勝つことへの執着心

voice_iwao001-2“史上最強の湘南になる”。どんなに良い試合をしたという評価を得ても、勝てなければ結果、トップリーグに留まることはできない。降格を経験しながら今季も指揮を執ることになった曺貴裁監督がその現実を受けとめて導き出した目標がこれだ。開幕を前に目標の勝ち点を80と定め、1年でのJ1復帰を目指すことを明確に宣言した。そしてシーズン終盤に到達した今、チームは最終節を待たずに来季のJ1昇格とJ2リーグ優勝を決めた。
 昇格を決めたのは、9月23日アウェイで行われた第33節京都サンガ戦。来季のJ1復帰を祝うタイムアップの笛をピッチの中で聞いた11人の中に、今季がプロ生活4年目となる岩尾選手はいた。

「シーズンが始まる前、キャンプの時から曺さんがずっと、勝ち点80だとか1年で昇格してJ1に戻るとか得点の目標設定とかを決めて、いろんな目標があった中で、まだシーズンは終わってないですけど、J2史上最速で昇格を達成できた。そのことに関してだけはチームとして満足のいくシーズンだなと思います。
 個人的には、それに対して貢献できたなと胸を張って言える部分と、そうじゃなくて悔しい思いをしたというのが半分ずつくらいあるので、喜びと物足りなさが半分半分くらいかなって感じ。自分はまだまだ完成されてないということをすごく思ってます」

 加入して最初の2年の間にケガによる手術を3度経験し、その間は、試合に出ることはもちろん、満足に練習をすることもできなかった。昨年の開幕後に復帰したが、公式戦への出場機会をもっとも多く掴んだのは4年目の今シーズンだ。

「良かった方は15試合とか20試合とか、シーズンを通した中で自分が試合に出たこと。ケガが多かったり、自分自身の力のなさで試合に出られなかったというのがこの4年間はすごく多かったから。今シーズン、初めてそうやって試合を重ねられたことで、自分の中でも良い意味で自信が持てた部分もあるし、逆に課題が出た部分もある。そういうポジティブな収穫が多かったのが良い方。
 苦しかった方は、そうは言っても21試合しか出てないというところ。すべての試合に出ている選手もいるし、それに近い9割、8割出ている選手もいるという中でいうと明らかに足りない。そこはすごく悔しいというか、忘れてはいけない部分だと思っています」

 チームの中の位置づけを冷静に見れば、自分自身への不満はある。それでも、今シーズン自ら手にした結果は今までで最大のものだ。

「2年前の昇格のピッチに自分は立っていなかった。ケガをしていたのでスタンドで応援してました。だから、自分もいつかそういう気持ちがどういうものなのか味わってみたいという思いはあったし、最後の笛が鳴った時に昇格のピッチに立てた、というのは通過点ではあるけど、サッカー選手である以上すごく大きな経験だと思う。素直にうれしかったですね」

 大きな違いを手にできたのは、今シーズンをケガなく乗り切れていることだけが要因ではない。曺監督が勝つサッカーにこだわったように、岩尾選手もまた勝つことに意識を向けてきたからだ。
 岩尾選手は、元をたどれば曺監督がコーチ時代に見つけ出した選手。スカウティング目的の選手と対峙する岩尾選手のプレーを見て練習に呼んだという。最終的にオファーを決めたのはクラブだが、その後4年間指導にあたっていることを含めて今のところ、岩尾選手のプロ生活のすべてを曺監督が導いている。因縁浅からぬ仲、というところだろう。その曺監督が今シーズンの始めにもまた、岩尾選手にとって岐路となる言葉をかけている。
 
「今シーズンに臨む、と言っても、僕は正直、あんまり変化はなかったですね。自分の成長のために、出た課題を埋めていくっていう作業をひたすらやる、で、開幕に向けてスタメンで出るための努力をする。そういうみんなが考えるような感じでシーズンが始まったのは確かなんですけど」

voice_iwao002 トルコで行われたキャンプ2日目の練習試合で見せた自身のプレーがきっかけだった。87分まで拮抗した展開でゲームが進む中、岩尾選手のポジショニングの悪さから敵陣での駆け引きに破れてカウンターから得点を許し、そのまま試合に負けてしまった。

「その試合で曺さんに『お前は勝負をわかってない』ってすごく怒られて。すごく厳しい口調で『いつまでそうしているつもりなんだ』みたいなことを言われたんです。自分では、一生懸命やっているつもりだったんですけど…、なんていうんだろう? 外から見ている曺さんと、やっている自分の熱にギャップがあったようで。
 ホテルに帰ってからも部屋に呼ばれて、その辺の話をしました。『お前は4年目でJ1での経験もあって、J2に落ちて。今までは階段を一歩ずつ上ってきた。でも今年は、また同じように一歩上るんじゃダメなんだぞ』っていう話をしてもらって。正直、『なんで俺ばっかりそうなんだ』っていう気持ちが半分と、言ってることは間違いじゃないので、それが半分と(笑)。
 でもそれで、『今まで通りじゃダメなんだ』っていうことに気づけて、気持ちを入れ替えたというか。本当に勝負にこだわるっていうのはどういうことなのか、今シーズンは自分なりに理解して、例えば亮太(永木)がケガをしている時とかはやってきたつもりです。確実に自分の中で、意識的にもプレー的にも少しずつ変わっていったきっかけかなというのがあります」

 その時できる一歩が大切だった2年間を越えて、勝負にこだわることによって自分自身の成長に加速度をつける。自分自身にとって2度目となる昇格を手にしたシーズンは、何よりも自分自身の成長が感じられる時間を過ごしたようだ。

プレーに集中する力を磨いて
1試合で一歩の成長を

 今季の公式戦初出場は、3月9日にアウェイで行われた第2節のV・ファーレン長崎戦。

「俊(菊地俊介)が体調不良で僕がスタメンで出ることになって、少し入れ込んでしまったというか。無駄にいろいろ考えてしまったのがまず良くなかった。たぶん欲が出たんですよね」

 “今まで通り”を返上して開幕を迎えたが、いざ公式戦となるとまた違った心理が働いた。昨年、J1を戦う中でケガから復帰を果たし、ナビスコカップ3試合を合わせて公式戦10試合に出場して感じた手応えが、ここで欲に繋がってしまったという。

「パスだったり、プレースキックだったり、そこそこ持ち味を出せたという自信、僕は自信と解釈したんですけど、結果的にそれは慢心だったんでしょうね。もうひとつは、2節だったので、ここで自分が結果を出せばシーズン通して出場のチャンスがあると。俊が1年目っていうこともあるし、チャンスなんじゃないかという思い込み。先のことなんてこの試合には関係ないのに。
 こういう余計なことを考えている時点で完全に集中してない。集中してないっていうより、空回りとはこのことかっていう感覚ですよね。そうなると試合中も『次もまたミスしちゃうかな』とか、ボールがないのに考えたりする。これもまた集中してないということ。悪循環な時間でしたね」

 それから2カ月はバックアップメンバーに回ることが多く、良くてベンチを温める状況が続く。そこから再びチャンスを得たのが、5月18日にホームで行われた第14節対アビスパ福岡戦だった。0対0の拮抗した展開が続くゲームで、攻撃のテンションをより上げていこうという状況の中、72分に藤田選手と交代し、永木選手とダブルボランチを組んだ。

「その日も2節の悪い感じが自分の中で抜けてなかった。また同じミスをするんじゃないかとか、言ったらそこでも余計ことを考えていたんですけど。
 試合の途中で曺さんに『行くぞ』って言われて、いつもはそこでボードを使って指示をもらうんですけど、その日は曺さんが俺に、『とにかく後悔がないプレーをしろ』と、それだけ言ったんですよ。ボードをやらずに肩を組んでそれだけ耳元で言ったんです。その時に、『なんで俺は余計なことを考えているんだろう』って思った。
 ここまで苦しいことがあったけど、自分の中ではそういうのを克服したり、努力してきたのも事実だから、そういう自分に泥を塗らない、恥じないというか、後悔しないプレーをしようと思った。何分出たかは覚えてないんですけど、その時にシンプルにパスをするとか、ボールを動かすプレーはできたので、公式戦ではそこが分岐点になったと思います」

 福岡戦後は、コンスタントにベンチ入りし、何度か途中出場の機会を得、そういったチャンスに自分に集中してプレーすることによって持ち味を明確に発揮し始める。その頃、永木選手の負傷も重なり、試合出場の時間を大きく伸ばしていくことになった。

「どの試合でも課題は出るので、勝ったから一概に喜ぶっていうことはないんですけど、少なくとも負けるよりは気持ちが良い。試合を重ねるごとに、トルコキャンプで曺さんに言われた『勝つために』といったことにのめり込んでいった感はありますね。それは、曺さんが言ったからというわけではなく、1敗しかしてないとか、亮太(永木)が離脱した、ウェリ(ウェリントン)が出場停止とか、チームの状況が状況だったから。サポーターや第三者から見たら不安材料がある中で自分がもう一回チャンスをもらっているところから始まっている。ウェリに代わって吉濱遼平が出たのも北九州戦(6月28日開催第20節対ギラヴァンツ北九州)なんですけど、しっかり勝ちきることができたし、そういう意味でも勝つ、あるいは負けないというところが自分にも求められている。
 今年は勝ちが多いので、選手も観る人もそこにすごく敏感になっている。そういう状況で試合に出た分、自分の中でもシビアに重点を置いてきたところです」

voice_iwao003 選手の成長をもっとも促すのはやはり公式戦のピッチ。しかも出場し続けることでその成長は加速度を増していく。

「曺さんのそのひと言から、後悔しないためにとやってきました。パスは自分の武器だと思っているので、縦パスも常に『もっと』という意欲を持ってやっている。そういう部分は、公式戦のピッチでも素直に出せるようになってきている、試合を重ねるごとに。いろんな状況も見られるようになってきているし。試合に出るのは大事だなって本当に思います」

 出場機会を得て成長する岩尾選手について曺監督は、「サッカー選手は『日々の練習を一生懸命やって、良い休息をして、また練習する』のサイクルをどれだけポジティブに続けられるかが価値を決めていくところがある。あいつは亮太のケガに関係なくずっとブレずにやってきたから、そのタイミングでチャンスを得られた。評価は他人が決めるけど、自分が頑張ったか頑張ってないかは本人が一番わかっていることで、そういう道理をよくわかっている選手」と話す。

「2節の時も試合に出て、『もう2度とこんな思いはしたくない』という学びがあったし、アビスパ戦で出て『後悔したくない』って決めてプレーして良かったというのも学べたし、北九州戦で亮太がいないプレッシャーがある中で自分のプレーを出してチームが勝ったという学びがあったし。その一戦一戦でいろんなことを一生懸命感じ取ろうと思っています。その結果が、ちょっとは成長してるんじゃないかなと思います」

 昇格が決まった京都戦は、ゲーム自体は相手に支配された内容。それでも引き分けに持ち込む強さを身に着けたチームのたくましさが光る試合だった。とはいえ選手たちの大半は、昇格が決まってもその手応えのせいか複雑な表情を浮かべていた。その中で岩尾選手は、チームメイトとは少し違った表情を見せていた。

「ここまでの3年間が苦しくて、この仕事が向いてないのかなって何度も思ったし、辞めようと思った時期もあった。それでも支えてくれる人が本当にたくさんいて。曺さんもそうなんですけど、チームメイトや病院でリハビリに携わってくれた人もそうですし。まわりの人が前向きに声をかけて応援してくれて。そういう出会いがなければ今こうなっていない、ということが僕の人生にはたくさんある。そういうのをいろいろ思い出してきちゃって」

 京都まで足を運んでくれたサポーターへあいさつしようとゴール裏へと向かう途中で曺監督が声をかけた。

「『2年前、お前はこのピッチには立っていなかったけど、今こうして立っているのは事実だ。それは紛れもなくお前の努力だぞ』っていう言葉をかけてもらって、なお一層…(笑)。もうこれ以上、泣かせないでくれと(笑)」

 この試合では、京都のフォワード大黒選手の巧みな動きにディフェンスラインが翻弄されたこともあって守備の立て直しを図るために途中で3バックから4バックへと切り替えた。この時岩尾選手は、修正の要となった最終ラインへ入った。

「あの試合に関しては大黒選手です。大黒選手にいかに自分がいやなことをするか、逆の言い方をすれば、いかに何もさせないか。その駆け引きに集中してました」

 勝負所での駆け引きと勝ちを意識しながらプレーする集中力。それはキャンプで曺監督に指摘され、今シーズンの間、テーマとしてきたこと。この試合では、一瞬たりとも集中を切らすことはなかった。

「今年はそれが一番の成長なんじゃないかと思います。それが2~3試合ではなく、10試合とか11試合続けてできた。それが多少なりとも自信になっていると思います。
 自分は、謙虚にちゃんとサッカーと向き合って、相手と向き合って、勝ちにどん欲になってプレーしたらここまでできるっていう物差しを、今まではなかったけど、そういうのができ始めている。それをさらにっていうところで、また次の試合でチャンスがあれば積み上げていきたい」

 曺監督は岩尾選手のプロ生活について「ウサギとカメの話があるけど、ウサギのように速く走ってみんなを引き離すことはできなかったかもしれないけど、カメのように一歩ずつ、その年、その月、その日を自分の中の課題と向き合ってやってきた選手」と語る。今シーズン,その成長のスピードは、1年で一歩のゆっくりしたペースから、格段にアップした。

チームメイトの躍動を見つめた2年間
今、サッカーができる自分を大切に

 ケガの履歴はルーキーイヤーから。プロ生活で初めて迎えた開幕戦からベンチ入りを果たすが、直後に小さなケガを負って離脱。それでも5月には復帰してJリーガーとしてデビューを飾り、その後はベンチに入る機会も得るが、初めてスタメンに名を連ねた試合で再び負傷して手術を経験する。その年の終盤に復帰し、短い時間ながらも出場機会を得るが同期の活躍ぶりを見れば満足できるわけもなかった。
 満を持して臨んだ翌年もシーズン早々の5月に離脱し、2度目の手術を経験する。さらにこのケガからの復帰後2カ月で再び負傷し、そのケガについては今まで最大の長さであった全治6カ月の診断が発表された。

「手術も2回目までは落ち込んだくらいだったけど、3回目はちょっと、自分の中に『絶対嘘だ、3回手術なんてあり得ない』みたいな、なんか変なものが心に出てきて受け入れられなくて」

 この時は入院生活も長くなり、気を紛らわせるものと言えば本を読むことくらいだったという。とにかく考える時間だけは膨大にあり、こういったときはまず誰もがネガティブな方向へ考えを進めてしまいがちになる。

「とにかく時間があったので、『俺は何がしたいんだろう?』とか、『やりがい』とか『なんのためにやるのか』を考えました。本を読みあさって、いろんな人の考え方を読んでいくうちに、とりあえず後悔したくないっていう気持ちから少しずつ前向きになれた。例えば、僕が親父になったときに息子や娘に『俺はこうだったけど、ケガでダメだったんだ』って言うのはちょっとダサいというか。この世界に入ったからには自分がやった足跡みたいな、そういうものを残せるようにやってみる。というか、それが自分の未来にとって一番良いんじゃないかって整理をつけて、インプットしていきました」

 自分の心と向き合って、ポジティブな方向を探り、最善の方向性を見つけたら、ひたすらそこへ向かう意志を強く持つ。岩尾選手はそんな方法でこの危機を乗り越えた。
 
「3回目に復帰してからは、割と危機感を持ちながら、みんなが2年間やってるところを俺は2年間見ていたって解釈ができるので、その分無駄にしない、サッカーができる自分を大事にしてやろうっていう感じになって今がある。だから、2度と経験したくないし、それがあって良かったとは思わないけど、良かったと思える部分もあって『それもまた人生』、みたいな感じです」

 昨年の復帰後から、プロ選手人生における歯車が少しずつ噛み合い出した。

「J1では、1試合も出られるとは思ってなかったです。ケガもあってコンディションも不安があったけど、何より経験値が足りないから。J2でも試合にあんまり出てない自分がJ1で何かできるとは俺自身思わないし、自分が監督でも思わないなって思っていた。だから、みんなが昇格させてくれてJ1にいるチームに、ケガを挟んでも居られたことで、ちょっとでも経験できるチャンスがあればいいな、くらい。そういう意味では、J1相手の試合がナビスコカップを含めて思っていた以上にできた」

 J2での試合経験がない分、J1と比較することもなかったという。そのため、J1チームと戦いながらも、相手をリスペクトしすぎることも気持ちの動揺を経験することなく試合に臨めた。

「ひと言で言えば、『良い経験』です。今にもかなり活きてますし、貴重な数試合だったかなと思います」

 岩尾選手のプロ生活を振り返って曺監督は、「憲の4年間の経験っていうのは、他の誰よりも濃縮な時間だったと思う。良いことと悪いことだけで、どっちでもないことってほとんどない」と語る。喜びに流されることもなければ、苦しみに溺れることもない。それが岩尾選手の強さの秘訣のようだ。

ライバルとの出会いも
プロとしての成長の糧に

voice_iwao005 数字で残るアシストは現在2つだが、前線へ送る果敢な縦パスが得点やゴール前での迫力あるシーンに繋がるケースは数多い。

「アシストとかゴールを決めると、『乗る』とか言いますけど僕はアシストとかしなくてもチームに貢献できたと思えるプレーや試合がある。逆に、アシストしたから僕のおかげというのもないですし。自分がアシストしない試合で、アシストしている選手がいっぱいいますから、その日はたまたま僕だっただけくらいにしか思ってない。自分が蹴ったボールが誰かに合うこともあれば合わないこともあるし。ゴールやアシストはできればいいですけど、それよりチームが勝つことが一番良いと思ってるんで。今年に関しては特に」

 勝負にこだわった今シーズン、岩尾選手は“勝ち負け”について、独特の感性を持っている。選手たちに負けず嫌いかを問えば、大半の選手から自分は抜きん出た負けず嫌いだという答えが返ってくる。しかし岩尾選手は違う。

「負けず嫌いでないこともないですけど、負けるときは負けるっていうのも半分はあるんで、純度100%の負けず嫌いではないですね。いや、負けるのが好きな人はいないと思いますけど」

 誰かが勝てば,負ける誰かがいる。それは当然だが、それを受け入れている選手は少ない。学生時代から、ここぞという試合で勝てた経験があまりないという。その結果の自己分析が「ひと言で言うと“勝負弱い”」。それでも昇格のピッチに立ち、リーグ優勝にも貢献した。

「要するにメンタルが弱いんですね(笑)。それはもう間違いない。でも、ちょっとずつ変わってきていて、その弱さも克服してきてると思います」

 勝ちにこだわってプレーをして成長してきた自負がある。そういった成長に刺激を与えてくれたのがチームメイトたち。特にボランチのポジションを競いながら切磋琢磨してきた同級生については

「それはそれは刺激が強いですよ」

 と、笑う。永木選手は、2010年の大学4年生の時に特別指定選手に登録されて、その年の公式戦11試合に出場、翌年に大卒ルーキーとして加入してからはほぼ全試合に出場してきた。長期の離脱は、今シーズンが初めてだ。

「彼も順風満帆なりに苦労はたぶんあると思います。でも、僕が普通にシーズンを通して元気な身体でサッカーをやっていたとしても、たぶん彼には勝てないんじゃないかなと思います。亮太は出続けて、僕は出られても数試合。それだけ良い選手です、亮太は。やってるほうは、いろいろわかるんです。
 でも僕は、そういう存在がいることに、助けられています。お手本じゃないけど、僕にはないものをたくさん持っているし。グギョン(ハン グギョン選手:2010年~2013年在籍/現カタールSC)もそうですけど、ボランチは本当に良い選手がいて、もちろん試合に出られないのは不本意ですけど、ネガティブな意味じゃなくて良い意味で、試合に出られなくても成長できると感じる。そういう意味では亮太にしても、グギョンにしても、今回はアンドリュー(熊谷)が来て、アンドリューにしても、すごく刺激を受ける。それは、プロとして自分の成長に必要な出会いなんだろうなという感じですね」

 あるがままに受け入れて、そのすべてを糧にする岩尾選手。時間は巻き戻すことはできなくても、積んできた経験は必ずピッチで発揮される力となる。来季、J1の舞台でどんな成長を観せてくれるのか? まずは今シーズンの残りの試合で勝負にこだわる姿を期待したい。

取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行